Ending 山の小屋にて
険しい山の奥地にひとつの小屋があった。
その小屋のなかで、ふたつの人影が座っている。
「レヲ」
「なんでしょう、マスター」
日課である修練を終えたレヲは、マスターに呼び出された。自分よりも二回りは大きな体躯を持つマスターに向き合い、レヲは用向きを尋ねた。
するとマスターは言った。
「おめでとうございます。これで修業はすべて終わりです」
「はい、マスター。では、次に自分はなにをすればよいのでしょう?」
「世界を見てきなさい」
「世界……ですか」
「剣の業も、精霊の力を借りる術も、おまえに技術として教えることはもうなにもありません。それ以外のことは、これから自分で学んでゆきなさい。山を下り、自分の目と耳と足を使って世界と出会うことで、それが成せるでしょう」
レヲはすこし困惑した。
こんなことを言われるのは初めてだったからだ。
「世界には、なにがあるのでしょうか?」
「さまざまな国や町や自然があり、そしてたくさんの《種族》がいます。おまえのような××族だけではありません。それらと出会うことで、おまえは×××を手に入れられるかもしれません」
「わかりました、マスター。では、それはいつ終わるのでしょうか?」
「終わりはありません」
マスターはすぐに答えた。
それから、すこしだけ間を置いて言い足した。
「いえ……。あるいは、いつか終わりが来るかもしれません。けれど、それでもよいのです。大切なのは、続けることです」
「わかりました。それがマスターの教えなら」
「ヴラムを携えてゆきなさい。ゆめゆめ、油断をしないように」
「わかりました。マスター」
その翌日、レヲは一日かけて旅の準備を整えた。
さらに翌日。レヲは旅立ちの朝を迎えた。
マスターとはそれが最後の別れだった。
「力の導きとともに、レヲ」
「力の導きとともに、マスター」
そしてレヲは旅に出た。
とてもとても長い、放浪の旅に。
あるいは、いつか急に終わってしまうかもしれない旅に。