第八十話 さよならはいわない
「なぁ、アインス。ソニヤのところをやめて俺の実家で働かないか?」
暖かい季節がやってきた。
つい先日までの寒さがぶり返す日もあるが、概ね暖かい日が多い。
魔王と二人だけで白鷺亭で、ご飯を、食べるのは久しぶりだ。
なんとなく雰囲気よく和食を食しているときに、不意に魔王が冒頭の台詞を言った。
い、いきなり何を言い出すのですか魔王様?
・・・つい先日、国王名義のお触れで、正式に我が国が魔法帝国に組み込まれた旨が宣誓されたが、特段何も代わり映えしない。
これから、法律や裁判の制度が整えられ、それに交易なんかが帝国との間で始まっていき、徐々にいろいろと変わっていくとは思うが、今は移行期間として、大きな変更はない。
なので、国内はいたって平穏だ。
むしろ、ゼクスや、アンジェたちの方が忙しいらしく、今はあまりアクセスできない。
色々と各国の利益の調整が忙しいんだろうなー、と。
で、割とやることがない私としては、こうして魔王様に顔を出しに来た、というわけだ。
え? 議員の仕事?
まだ、就任式がきていないので、いまだに私は、単なるプーだ。
なので、こうして、一緒に食事をしていたら冒頭のセリフを、言われてしまった。
う、ちょっと口角が、上がってしまう。
う、うれしい。
もう、自分の心は偽れない。
二つ返事で、はい、と言いたくなる。
だけど・・・。
私には姫としての仕事がある。
これは、この世界での私の責務だ。
「すみません。お気持ちは非常にうれしいです。・・・でも、でも、私には私の仕事があります」
「そうか。いや、すまん。俺としたことが無理を言った。忘れてくれ」
魔王は、明るい口調で言っているが、やや寂しそうだ。
「マオール様。もうご実家の方に戻られるのですか?」
「うん。もうこの国にはいられない。お前も言っていたが俺には俺の仕事があるのでな」
ひとしきり二人で笑う。
「でも、もしかしたら、またどこかでお会いできるかもしれませんよ」
唇に人差し指をあて、秘密めかした風に言ってみる。
「ふっ。無理だろう。俺の実家は、ちょっと遠くてな」
魔王は、どこか遠くを見るような目をして、つぶやいた。
「では、もし、また会えたら運命を感じていただけます?」
私の、いたずらをしようかというような挑戦的な口調に対して、きょとんとした表情を浮かべた魔王様が苦笑ぎみに呟いた。
「あぁ、そのときには、運命というものを俺も感じるだろうさ」
私は心の中でニヤニヤと笑っていた。
再開するときが実に楽しみだ!




