第八話 らうんど わん ふぁいとっ!
城を抜け出した俺は、街中をあてどなくぶらついた。
最初は、魔王を目撃した場所に行ってみたが、すでにその場を去った後だった。
まぁ、だいぶ時間が経っているしな。
人通りが多い市場へと向かう。
だが、もうすぐ夕方なので、どこも店じまいを始めている。
とりあえず、果物を一つ買う。うまい。
そんな夕暮れの中、まだ店をやっているのは酒場くらいなものだ。
俺は市場に面した、様々な酒場に顔をだし、魔王を一生懸命に探す。
だが、いない。
当たり前か。
酒場では、荒れくれ者風情の男達が、皆、俺をなめ回すように見ていた。
こえーよ。
俺はそそくさと退散した。
あちらこちらを探したにも関わらず、いない。
まぁ、そんな簡単には見つからないよなー、と諦めて城に帰ろうとしたとき、薄暗い道で、急に腕を引っ張られて路地裏に引き込まれた。
文句を言ってやろうとした矢先、背中を強く押され、たまらず、地面に転がってしまう。
転んだ拍子に眼鏡を落としてしまった。
「なっ!」
なにをするんだ! と文句を言おうとしたら、回りには屈強そうな男たちが下卑た笑みを浮かべながら、俺を取り囲んでいた。
まじかよー!
たまらず、大声で助けを呼ぶが、路地裏にまで助けにくる酔狂なやつはいない。
まぁ、これだけの集団相手じゃ、官憲も人手がなければなかなか踏み込まないだろうなー。
「おいおい。美味しそうな身体だけじゃなく、こんなにべっぴんの超上物じゃねーか! 俺たちゃラッキーだな!」
やったぜ、と回りの連中もおおはしゃぎだ。
俺は泣きたくなった。
せっかく、破局は回避したと思ったのに、結局こんな結末かよ。
やっぱり、部屋でシーツにくるまっていればよかった、と半ば投げやりな気持ちになる。
男たちのうちの一人が手を伸ばしてきたので、俺はその手をとって、タイミングよくひねって投げ飛ばす。合気道でいう小手返し、というやつだ。
俺はこれでも段持ち。
実戦は初めてだが、やるしかない!
かかってこいやー!
・・・ってかっこよく戦えたのは最初の一人だけ。
後ろから近づいてきた男に羽交い締めにされて、そのまま地面に押さえつけられた。
「やってくれるじゃねーか、嬢ちゃん! 次は俺たちの番だな!」
回りの男たちが笑い声をあげる。
万事休すか、とそんな泣きそうな気持ちでいるときに、路地の入り口から、なんでもないような気楽な声がかかった。
「おい、お前たちは何を遊んでいるのだ?」
黒髪で、長身、眼光鋭い魔王様が、路地からこちらを見据えていた。