第九話 まおーさまへのあいさつ
「なんだー、てめーは? 怪我したくなかったら、とっとと失せろ!」
男たちは魔王相手に凄む。
俺は逆の意味で怖くなった。
男たちの恫喝に眉一つ動かさない魔王に対して、怒りを爆発させた男の一人が殴りかかる。
沸点が低いな。
丸太のような腕で、魔王の顔へと殴り付ける。
だが、殴られた魔王はケロリとしている。
むしろ殴り付けた男が拳を押さえてうめいている。
「てめー、なにをしやがった!」
逆上した別の男が短刀を取りだし、魔王に切りつける。
魔王はなんでもないように、その短刀の刃の部分をつかむと、男の手をひねりあげた。
男の腕が、明らかに間違った方向に曲がっている。
「こ、こいつヤバイぞ!」
回りの男たちが、恐慌をきたし、我先にと逃げ出した。
どうやら、この魔王のヤバさに気が付いてくれたらしい。
そして、俺だけが、魔王の前にとり残された。
乱れた服を整える。
引っ張られたが、幸運にも破れてはいない。
地面に落とした眼鏡をひろってかけ直すと、真正面から魔王に向き合った。
「・・・あ、ありがとうございます」
そして俺は頭を下げ、感謝の言葉を述べた。
まさか、探していた魔王その人に助けられるとは。完全に予想外で混乱する。
「うん? おかしいな? 女は、ああやって男たちにもて遊ばれると喜ぶのではないか? 余の家庭教師どもはそう言っていたのだが?」
なんだかいきなり、ヘンテコなコトを言い出したぞ、こいつ。
「それは、大きな誤解です。えーと、私はアインス。商人の娘です。今は、奉公人として、お城にてソニヤ姫のお世話をさせていただいております。ところで、あなたさまは?」
俺はいつも使っている偽名を名乗り、白々しく聞いてみる。
「そうか、そなたソニヤの関係者か。うむ。余は・・・、あー、俺は魔オー・・・、マオールという。地方の伯爵家の三男坊だ。今日は田舎から出てきたばかりでな、泊まるところを探しておったのだ。そうしたら騒ぎを聞き付けてな、見物に来たというところよ」
今、なんか俺の名前を言わなかったか?
まぁ、いい。
そうか、俺は魔王の好奇心のおかげで助かったのか。
だがまあ、素直にありがたい。
「そうでしたか。先ほどのお礼がしたいので、ご一緒に夕食でもいかがですか?」
とりあえず、夕食に誘ってみる。
情報収集をせねば。
「む? そうだな。そなたにも聞いてみたいことがあるし、よかろう。アインスとやら、案内せい」
「かしこまりました。ではこちらへ」
俺は内心びびっていたが、魔王の手を引いて、近くの老舗の宿屋兼酒場へとつれていった。
たまに、俺も利用しており、食事がおいしい。
ここなら、滅多なことはないだろう。




