第七十七話 りーととのかいしょく
「お初にお目にかかります。リート様。私は・・・」
「アインス様ですよね? それともソニヤ様とお呼びした方がよろしいですか?」
裏表を感じさせない声音でエルフのリート姫が問いかけてきた。
「あ、えーと、ソニヤとお呼びください」
そこまでばれているのであれば、隠す必要はない。
「では、ソニヤ様。まずは、お食事でもいかがですか?」
夕飯は食べたばかりなので、果物と、飲み物だけもらう。
どれも、非常においしい。
しばらくお互いに無言で食事を続ける。
沈黙に耐えきれなくなって、私は、口火を切った。
「えー、リート様。この度は会食にお招きいただきまして、ありがとうございます。初対面だと思うのですが、どのようなご用件で、私を招いたのかをお教えいただけますでしょうか?」
私は、単刀直入に聞いてみた。
回りくどいことは苦手だ。
リートは、落ち着いた様子で、グラスのワインで口を潤わせ、ナプキンで拭いた後、しばらく沈黙する。
私がしびれをきらせ、口を開きかけたとき、リートが言った。
「取引がしたいのです」
「取引?」
「はい。もしこの取引を飲んでいただければ、ソニヤ様に、西方全域の全権、人間族の長の位を保証いたします。当然、人間族だけでの統治です」
こいつ・・・。
つまり、私を西方全域の支配者にする、と言っているのだ。
私は、しばらくリートの発言を吟味しながら慎重に聞いてみる。
「そ、それが可能だとして、何を代償にせよ、と言うのですか?」
その問いに、しばらく私の目を見つめてリートは沈黙する。
そして、静かだが、確固たる口調で告げた。
「はい。私が求めることは、ただ一つ。魔王様を諦めてください」
そういって、にっこりと笑う。
私は、動悸が激しくなるのを自覚した。
「・・・諦めるも何も、別に魔王様と私には接点はありませんよ?」
一応、しらばっくれる。
せめてもの抵抗に口の端で、頑張って笑顔を浮かべる。
だが、ひきつった笑顔にしかならない。
「あなた方が、マオールとよんでいる殿方。あの方が魔王様であることは、もうわかっているのではありませんか?」
「・・・」
「それを踏まえて聞かせていただきます。マオール様。いえ、魔王様を諦めていただけませんか?」
別に私は、魔王なんて、狙ってない!
そう、心の中で叫んだものの、口から出た言葉は別のものだった。
「嫌だといったら?」
「その場合には、残念ですが、あなたを本格的に、私の敵と認識するしかなくなります。今日は手を出さないと保証しますが、明日以降は保証いたしかねますよ」
なんで、私が、貴女の敵になるのよー!
そう、叫びたい衝動にかられる。
「・・・考えさせてください」
「そんなに時間は与えませんよ? よく考えて結論を出してくださいね」
私は、立ち上がると部屋を出た。
外では、リッチーのヘイシルが待っていてくれた。
「では、我輩がお送りするのである」
そういって、扉を潜ると自室にたどり着いた。
「あー、貴女は聡明な方であるが、もう少し自分の心に正直に生きてもよいと思うのである。我輩これでも、長生きはしており、人間界の世俗にも割と通じていたのであるが、それを踏まえての忠告である」
では、ごめん、とリッチーは扉の向こうへと消えた。
私は、壁から消えた扉のところをじっと見続けた。
私は、いったい、どうしたいんだろう・・・。




