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屋上の彼  作者: ふぁみま
1/2

一話

某大学のAOをとるために送った話。去年の十二月くらいに五日間でやっつけで書いた。携帯にメモしていたのが最初だからネタとしては三年くらい前のやつかなあ

完全な黒歴史

どうしようもないので投稿する。誤字脱字がヤバいかも知れないけど、まあ、内容もあれですわ

その日、私は何故か判らないが屋上に一人、足を運んでいた。別段何か変わったことがあったわけでもなく本当にただふらっとこの場所に来て見たくなってしまったのだ。

あんなことがあった直後なのに、と自分自身の無神経さに半ば呆れつつ淡々と階段を上っていく。

私、蓮花菊子は現在高校一年生。雪国から引っ越してきてここの猛暑に圧倒されている普通の女子高生だ。友達も居らず日々を無為に過ごしている私の日課には校内を徘徊する、というものがあり行く先々での何気ない日常風景を遠くから眺めるのを趣味としていた。

そして何気なく屋上の扉を開けると、そこには既に先客が居た。

快晴の空を正面に見知らぬ男子生徒が転落防止のフェンス沿いに立っている。こちらに背を向けているので表情までは窺えなかったが何故だろう、もの寂しげな雰囲気を漂わせているように見えた。

フェンスに指を絡ませどこまでも続いていきそうな空を眺めている彼の姿はまるで一枚の絵画のようで私も思わず言葉を失い、立ち尽くしてしまったがそんな視線を感じたのか彼はこちらを向いて声をかけてくる。

「あついね」

彼の声は優しく、あどけない少年のような口調であった。

「そうね、あついわね」

初対面だとはいえ、こう二人きりのときに面と言われては無視することも出来なかったので勤めて冷静にそう応える。

当然、無視をする気など更々無かったが人見知りの自分としてみればこのまま扉を閉めて退散を決め込みたかったが今の応答でそれも叶わぬ夢となった。

「それにしても、君はあれだね? あんなことがあったばかりだって言うのに女の子が一人でこんなところへ来るとは。うん、友達が居ないんだろう?」

気温の話はどこへ行ったのやら彼はこちらを見ぬままそう話題の転換をしてくる。しかも私の心を抉り取る方向へ。

「話し相手なら、居るわ。少ないけど……」

「どうせ名前だって覚えてないんだろう?」

と、間髪いれずに質問を投げかけてきたのでこちらが返答に困っていると、

「ほら、図星だ」

鬼の首を得た、とでも言いたげな調子で声をあげて笑う。何だかやけに楽しそうに見えた。

「ところで君は、どうしてこんなところに来たりしたんだい? あんなことがあったばかりだって言うのに」

相変わらず彼はこちらを見ることは無く楽しげに聞いてくる。私は疲れたので地面に腰を降ろしつつ応えた。

「別に、何か理由があったわけじゃないわ。ただ、なんとなく、ね」

「そうか、じゃあ僕と一緒だね」

彼が不自然なまでに明るくそう言い切ったので思わず問い返すと。

「うん、なんとなく思い出に浸りたくてね……」

先ほどとは一変し、明らかに悲しみの色が篭った発言をした彼は頭上に広がった空を見上げて言う。

「僕の、大事な人が死んだんだ。一人はここで」

それは、本当に悲しそうな口調で、この世の生きる希望を失ってしまった若者の独白のように聞こえた。

ああ、とそこで私は一つの事柄に思い当たったのだ。

彼はさっき、『あんなことがあったばかりだというのに』と言ったが、きっと彼にとってはあんなことがあったからこそここにこうして足を運んでいるのだろうと思う。理由は全く窺い知れないが、彼が悲しんでいることは痛いほどに伝わってくる。

「そしてもう一人は、僕の母さん。これはここじゃない、病院でさ。家族に見守られて、癌だったよ。家族っていっても僕一人だけどね」

天涯孤独なんだよ、僕。と彼は独白した。まるで彼がこれまで歩んできた人生の幸福を一息で吐き出すように。

「良い母親だった。父を早くから病気で亡くしてから女手一つ、僕を育ててくれて。大きな不自由も無く高校にまで入れさせてくれたし本当に感謝してるよ。だから、今度は僕が働いて母さんを楽にしてあげようと思ったのに、死ぬには早すぎるよ……」

言い終わると彼は深く長い息を吐いた。

彼の言葉が宙に混じると共に、どこからともなく昼休み終了のチャイムが鳴る。そろそろ教室に戻らねば遅刻扱いにされてしまう。しかし、彼は微動だにしないまま宙を眺めるばかりであったので、

「じゃあ私、教室に戻るから」

「ん、そう、じゃあ、さようなら」

相手がそう応えるのを聞き、私は屋上を後にした。


教室に帰ると、五時間目の準備をするクラスメイト達の姿が見えたのでほっと一息。私も悠々と入室し準備に取り掛かった。

五時間目の授業は上の空で受けていた。考えるべきことがあるのだからしょうがないではないかと自分自身に言い訳する。

考えているのは屋上の彼の事だ。ここの教室からは真上である彼の様子は視認することが出来なかったが、多分、こうしている今も彼はフェンス沿いに立っているのだろうと思った。ここで死んだと言っていた彼の大事な人とはきっと先日のあの事件に関係することだろう。正直な話、私はあの事件の顛末については詳しく知らずに居た。何故なら事件そのものは非常に単純でそこから踏み込むとなると個人に対する攻撃やゴシップに繋がってしまうからだ。

屋上から男子生徒が一人落下した。それがその事件の全てだ。男子生徒は即死だったらしく事件と事故の両面で調べているが確たる証拠が発見されていないようで捜査も難航しているらしい。

まだマスコミなどには公開されていないがそれも時間の問題であろうというのが周りの人間の感想だ。先述の通りこの件には様々な噂話があるようで、犯人と疑われている人間や苛めを苦に自殺したなど多岐に渡るバリエーションが用意されている。

私はそういった人の死をきっかけに沸き起こる一種のお祭りムードというのが苦手で距離を置いていたのだが昼間の出来事が頭をちらついたので六時間目前の休み時間、クラスメイトに色々聞きまわってみた。

面と向き合って話すことを苦手とする自分としてみれば、かなりのストレス、重苦ではあったがそうは言っていられないと考え。丁度、机に座って談笑している二人組みの女子を見かけたので、

「あ、あの、ちょっと良いかしら」

おずおず、といった様子で声をかけると雑談する内の一人、小太りの同級生から快い返答が帰ってくる。

「うん? どーしたん、菊ちん」

菊ちん、と言うのは私のあだ名らしい。

初めて聞いた。

「あの、気を悪くしてもらわないで欲しいんだけどね。六日前の事件についてのことについて詳しく教えて欲しいなー……なんて」

「えっ、ついに菊ちんも私らみたいなお話に興味持ち始めちゃった感じ?」

もう一人、垢抜けた女生徒がそう合いの手を入れてきたのをやんわりと否定して詳しい事の内容を聞いた。勿論、真偽不明な誹謗中傷の様な話が多くを占めていたのだが。

「七怪談? なによ、それ」

「このガッコに伝わる怪談だよー。徘徊する人体模型、呪われた椅子、地下室、焼ける廊下、第四棟。そして、屋上には二つの怪談があるんだけれども、それは今現在でも発生している怪奇だねー」

なるほど、その七不思議とやらと関連付けて考えているのが大半を占めているらしい。どういった話なのか問おうとしたところ、チャイムが鳴ってしまい教科担当が入ってきてしまう。

「ま、眉唾だけどね。菊ちんも鵜呑みにしない方が吉かも」

「そーそー、それじゃあね。菊ちん」

少しは事態が進展したのかな、と思った。


六時間目の授業の内容を右から左に受け流すと私は屋上への扉を開けていた。扉の向こうには雄大かつ、質量の持つ雲が空を漂っている。

その雲の下に、彼が居た。

「また、来たんだ」

こちらに背を向けたままそう言ってくる。私じゃなかったらどうするつもりなのだろう、後ろに目でも付いているのだろうか。とそんな取りとめも無いことを考えつつ適当な所へ腰を降ろした。

「ええ、掃除をさぼってね。あなたこそ、まさかずっとここに居たわけじゃ無いでしょうね?」

「ん、そのまさかだよ」

先ほどと違い僅かに西へ傾いた太陽を見上げ、彼は応える。

「あなた、授業は受けないの?」

「受けても意味は無いよ。どうせ身が入らないもの」

そっけない回答が返ってくる。その理由に対し大体の予想をつけていた私は鼓動を高まらせながらも問いかけた。

「ねえ、それってこの前ここで自殺したって言う男子生徒のこと?」

私の言葉を受けて相手が僅かに動揺を見せた気がした。表情は窺えなかったが、場の空気と言うか彼から発せられるオーラが変わったような感覚を得る。

「確か亡くなった人って……」

「ねえ、君はこの屋上にまつわる怪談を聞いたことがあるかい?」

彼はこちらの言葉にかぶせる様に口を開けた。先程聞いたばかりであったが屋上については詳しい解説を受けたわけではないので相手の語るに任せてみる。

きっと関係のあることだろうから。

「その怪談によるとね、この屋上は呪われているらしいんだ。受験に嫌気が差して自殺した男子生徒だとか、苛められた女性とやら教師との間に子供が出来てしまった女性とやらモンスターペアレントからのクレームで気が狂った男性教諭。エトセトラ、エトセトラ……そんな人達の呪いなんだそうだ」

何の話だろうか、とは問わずにただ黙って聞いていた。

「その呪いとはね、驚くなかれ屋上へ来たものは必ず死ぬ、と言うものなんだ。まぁ、ッ聞いて分かるように眉唾な話さ」

「そりゃそうよ。けど、それは言わないお約束と言うか、この手の怪談は往々にして胡散臭いものだと思うけど」

余りの馬鹿馬鹿しさに笑ってしまう。

ここは開放された屋上、そこに来る人間の数など両手足指では数え切れないほどの量であろう。そもそも、そんな大人数が亡くなっているとすれば大騒ぎになっているだろうし自分の耳にも届いている筈だ。

「で、もう一つなんだけど聞くかい?」

話したそうに彼が言ってきたので、

「ええ、一応」

部活にも加入していないので時間は沢山ある。話の種にもなりそうだったのでそう応えた。

「それは、閉じられない屋上」

どゆうわけか、そこで彼は金網に込める力を強くして言う。

「どんなことがあっても閉じられない、鍵を掛けたりしても鎖で扉を封鎖してみても開かれてしまうんだよ」

なるほど、それだからあんなことがあった今でも、こうして屋上を訪れることが出来たと言うわけか。

私も気付かぬうちに七不思議の一端を体験していたという事だ。

「僕はね、その怪談を聞いてからよく友達とここで遊んだんだ。トランプとか持ち込んでさ、結構有名らしいんだこの話」

だから誰もこんなところにこないのさ、と彼は言った。

「けど、だからあなたは来たんでしょう?」

そう私が問いかけると男は悪戯がばれた子供の様な清々しさの篭った声で、

「うん、やっぱり分かる? そういうのって」

「なんとなくね。でもその噂が本当だったら、あなたも私も死んじゃうってこと?」

相手の無邪気なその表情に釣られたのか私自身も頬を緩めてしまう。

「だから言っただろう、眉唾だって」

ならばなぜ、彼は私にあんなことを言ったのであろう。信じていないという発言は信じているという発言と同意義だ。

どうやらこの男子生徒は屋上の階段に囚われているようだった。

「でも、その友達は先週ここから飛んじゃったんだけどね」

「……」

何と声を掛ければいいか分からなかった。

「勿論、僕もさっき言った通りそれが怪談のせいだなんて口が裂けても言わないさ。けどね、僕は思うんだ」

彼は苦しそうに、嫌そうに、吐き出すように、悲しむように、後悔するように言った。

「どうしてこんなにも人の命って軽いんだろうなって、まだあいつが死んでから一週間も経っていないって言うのに。あいつは、もうずっと前から死んでいたかのようにあの『怪談』の一部として数えられてしまっているんだ……っ」

フェンスを揺らしながら口調だけは平静を保とうとしていた彼の後姿は、私にはとても寂しげに写る。

暫くすると、すすり泣くような彼の声が聞こえてきた。彼は一度大きく鼻をすすると、言う。

誰か、一人で良いから。

「あいつの死を悲しんでやってくれよ……」



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