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幻影のオッサン  作者: ritsu
Ⅰ 発現編
1/13

第1話 召喚

1作目が完結予約しましたので、2作目を開始します。

おバカなギャグファンタジーです。

気楽に読んでいただけると嬉しいです。

よろしくお願いいたします。

「らめぇぇぇぇええええ!!!」


 それは、あまりにも野太いオッサンの悲鳴だった。

 石造りの回廊の奥――暗く閉ざされた部屋から、それは木霊(こだま)した。


 回廊へ続く入口にいた衛兵たちは、その聞き苦しい声を耳にした。二人の衛兵は、お互いの顔を見合わせると急いだ様子で奥の通路へと駆けていく。

 埃っぽい古びた木の扉の前に立つと、一人の衛兵が一呼吸ついて、錠を解き開けた。


 そこには――衣服を身に纏っていない中年のオッサンが、世界の終わりを思わせる悲痛な面持ちで、四つん這いに震えていた。

 その光景に二人の衛兵は言葉を失った。冷たい沈黙がこの空間をしばらく支配していたが、そのうちの一人が重い口を開いた。


「……Wer bist du?(お前は、だれだ?)」


 全裸の男は、困惑していた。ここへ来る直前、男は妙な夢を見ていたからだ。




 ――ほんの少し前の話だ。

 完全な暗闇の中、女性の声が語り掛けていた。俺は最初、単なる夢だと思っていた。

 それは、RPGの最初の設定画面のようだった。視界の前には、模型のような人体と様々な部位のパーツが並んでいる。


「キャラデザインを設定してください」


 どこからともなく、落ち着いた声が届いてくる。


「…なんだこれ、キャラクリってやつか?」


 俺は深く考えずに、兎角“イイ男”のパーツを選んだ。長身に屈強な肉体、堀の深い輪郭に優しい瞳、野性味の溢れるブラウンの長髪と顎髭。さながら西洋人の二枚目を思わせる大人のイケメンだ。

 一通り選び終えた男は、視界の右下に映る“決定”という文字に気付いた。おもむろにそれを触った。


「…あっ」


 どこからともなく、女性の声がまた聞こえた。それは、何かに気付いて不意に漏れたような声だ。


「服装を選んでおりません。でも、もう転生が始まってしまいます」


 この女は何を言っているんだ?確かに目の前に映るモデリングは全裸だ。だが、服装の設定は次のステップじゃないのか?まさか、今の設定画面に服装があったのか?

 消えかかる画面の下の方に“服装”という文字を一瞬捉えた。だが、それはすぐに消失し、足元から明るくなっていく。


「おいッ!…女!もう一度、選択画面へ戻れ!」


「…もう戻れません。」


「B!」


「…?」


「BBBBBBBBBBBBBBBBB!!!」


 必死の連呼も虚しく、次に目を開けたときには冷たい石の床に立っていた。




 現在に戻る。

 目の前には、兵士のような格好の二人の男が、こちらへ向かって奇異の眼差しを向けている。



「Verstehst du nicht, was ich sage?(言葉が通じていないのか?)」


 そのうちの一人が、また何かを言った。

 しかし、それはまったく内容を理解できるものでなかったが、どこか聞き覚えのある言葉だった。


 ――そうか。これはドイツ語だ。


 大学の時、一年間だけ第二外国語として履修した記憶が蘇る。どこかドイツ語っぽい響きは、そう判断するには十分だった。


「…ハ~イ。」


 俺は、試しに声を発した。かなりダンディーな声色だったので、不覚にも自分でうっとりとした。

 ここがどこで、なぜここにいるのか。それよりも、まずこの目の前の武装した連中に敵意を抱かせるわけにはいかない。


「Wie heißen Sie?(名前は?)」


 ちょっと待て。このフレーズは知っている。これは初歩的なフレーズだ。ドイツ語の一丁目一番地。“あたなの名前は何ですか”というやつだ。

 …しかし、本名を言ってよいものか?ここは、少なくとも日本ではないし、ヨーロッパ――ドイツなのだろうか?――しかし、とても現代とも思えない建物と兵士の服装。何かのテーマパークなら話は別だが…。


 ここへ来る直前の女の発言も気になる。転生とか言ったな。現に俺の体は、あのキャラクリエイトそのものだ。この顔でタカシだと伝えても悪い冗談だ。


「イッヒ・ビン……(私は…)」


 親睦を深めるしかない。この緊張感のある空間を少しでも和ませなければならない。なんとしても、あの腰にぶら下げている剣を抜かれるわけにはいかない。


「イッヒ・ビン・ビンビン(私はビンビンです)」


 衛兵たちの表情筋は死んでいた。それもそうだ。本国なら爆笑必至だが、異国の者とは感性が異なるのは当然か。


「…ハッハッハ、イッツ・ジャパニーズ・ジョーク!」


 それでも、やはり衛兵たちは彫刻のような顔で直立していた。もしかしたら、本当に彫刻なのかもしれない。


 幸いにも剣を抜かれることは無かったが、その数秒後、彼らは出て行き、扉は強く閉められ施錠された。その日、その扉が開くことはもう無かった。


続く


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