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臨界未満の世界

「……もう、臨界には達しない」


マカオの夜風が、広げた世界地図を静かに揺らす。 俺はスマホの画面に残された最後のシミュレーション結果を、食い入るように見つめていた。そこには、俺がかつて生きた「21世紀」とは決定的に異なる世界の姿が描かれていた。


かつての史実では、帝国主義が世界を食い尽くし、その果てに訪れた二度の世界大戦。さらに核の影に怯える冷戦という「破滅の臨界点」が、技術の爆発的な加速を強いてきた。 だが、この世界はどうだ。 アヘン戦争の発火点を潰し、英国東インド会社の収益モデルを「平和な通商」へと書き換えた。その結果、軍需が資本を牽引する巨大な歯車が、目に見えて減速している。


「蒸気機関も、炸薬も、いつかは発明されるだろう。……でも、それは『明日にも隣国を焼き払うため』の速度じゃない」


資本は軍事という劇薬を失い、ゆっくりとしたインフラ投資や生活の向上へと分散していった。国家同士がブロック化し、一挙に世界を二分するような「同盟の連鎖」も、多港通商による利害の複雑化が防いでいる。


〈予測:第一次世界大戦の発生確率 7% 以下〉 〈社会構造:弱い多極化の継続〉 〈科学技術:史実対比 180年の遅延を予測〉


人類は、一撃で世界を滅ぼす手段を手に入れる前に、互いを則例ルールで縛る知恵を身につけた。あるいは、ただ単に「殺し合うための効率」が上がらなかっただけかもしれない。


「それでいい。……飛行機がなくても、インターネットがなくても、今日、広州の子供たちが毒を吸わずに眠れるなら」


〈バッテリー残量 1.2%〉 〈警告:メモリの断片化が深刻です。AIとの対話プロトコルを維持できません〉


画面が大きく一度明滅し、ノイズが地図を塗りつぶしていく。 俺が奪った「速さ」の対価。それは、このAIという存在そのものだった。このオーパーツは、狂気的なまでの加速が生んだ「歪み」の産物なのだから。


「……お前も、もう役目は終わりだって言うんだな」

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