表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/50

合法代替品(英綿布に中税枠)

「禁じるだけでは、欲望は地下へ潜る。ならば、欲望が通るための『正規の道』を広げるべきです」


厦門の地方官たちが没収した銀塊に目を剥く傍らで、俺は欽差大臣へ次なる策を提示した。それは、密輸のインセンティブそのものを解体する、関税の「動的調整」だった。


ターゲットは、イギリス東インド会社(EIC)が持ち込む綿織物だ。


「これまでは高関税か、あるいは役人の匙加減による不透明な徴収。それが商人を密輸へと駆り立てていた。……ですが、ここに示す『中税枠』を設ければ、話は変わります」


俺はスマホの画面に表示された、AIによる関税弾性のシミュレーションを指でなぞる。


〈解析:関税率と密輸損益分岐点の相関〉 〈現状:高税率により密輸期待値が正の状態〉 〈提案:特定品目の関税を15%から8%へ引き下げ。同時に『則例』遵守を条件に臨検時間を短縮〉 〈予測:正規流通量が300%増加、トータルの税収は22%向上〉


「密輸には、船を隠し、賄賂を贈り、発覚を恐れるという『コスト』がかかります。もし、正規の関税をそのコストよりわずかに低く設定し、かつ『則例』を守る船を優先的に入港させれば、商人は馬鹿らしくなって密輸を辞める」


石畳を荷車の輪が噛み、ゴトと脛に響く音が、どこか軽やかになった気がする。 市場のあちこちで、これまではコソコソと裏通りで取引されていたイギリス綿布が、堂々と表通りに並び始めていた。


「悪を滅ぼすのではない。悪が『損』になるように、構造を組み替えるのだな」 大臣が感嘆の声を漏らす。


麻縄の粉っぽさと、新調された綿布の糊の匂い。 秤の錘が皿を叩きカン、と鳴るたびに、不透明な闇の利益が、国家の正当な富へと変換されていく。


「エドマンド……東インド会社の株主たちも、これなら文句は言えまい。戦争の種を蒔くよりも、安定した利益のほうが、彼らの『正義』には適うはずだ」


〈ログ:差別関税(弾性調整)の適用成功〉 〈ステータス:EICの対清戦略が『侵略的拡張』から『安定的互恵』へ微修正〉


漆の箱の中で、AIが示したグラフは緩やかな右肩上がりを描いていた。 技術を急がせず、人の欲望を否定せず、ただ「数字」で平和の重しを置いていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ