誓い
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!???」
風を切る音に混じって聞こえる、耳障りな悲鳴。
私は、昨夜の約束通りクロウと鬼人の村に行くことにしたのだが……。
いつも通りの薄暗い時間に目を覚ました私は、クロウの腕の中で彼を見上げた。
すると、彼と目が合った。
「おはよう、ルノア。」
「…もしかして、ずっと見てたの…?」
「そうだけど?」
とても正直で良いが、やめて欲しい。
「やめてください。」
「でも、ワタシは君が好きだから。」
「んんんんんん!!!!そういうのやめて!!!!」
朝から疲れる…。
こんなやり取りをしていても、ダイゴは起きない。
図太いというか、なんと言うか…。
「取り敢えず、何か食べるものと水を探してくるから放して?」
「それならもうあるよ。」
彼の指差す方を見ると、焚き火があり、魚が焼かれている。
いつの間に…?
「あ、大丈夫。君を地面に置いたりはしていないよ?」
何を勘違いしているのか、彼はよくわからない事を言い出した。
って、私を抱えたままこれ全部用意したのか…凄いな。
なんて感心しながら、また彼を見ていると嬉しそうにはにかんだ。
「十万年と二百八十四日ぶりだ…あぁ嬉しい。」
「え?今なんて??」
「ううん、こっちの話。」
偶に意味のわからない事を言うな…。
「さぁ、食べて。」
「う、うん。ありがとう。」
良い具合に焼けた川魚を手渡される。
ダイゴは寝ているが、先に食べて良いものだろうか…?
「まだある。いっぱい食べるといい。」
「いや、そういうことではなくて…。」
「彼の分もある。」
「なんだ、わかってるんじゃない。」
私は、受け取った魚を食べた。
「う〜ん…ごっぢにぐるな…うわぁぁぁぁ!!!」
「うわっ…。」
「起きたようですね。」
「ふあ?何だここは!?」
「朝からうるさいわね。」
「何ぃ!?」
「黙らせようか?」
「そんな事しなくていいよ。」
私が魚を一匹食べ終わった頃、ダイゴが目を覚ました。
夢に魘されながら起きたダイゴは、こちらを見て呆然としている。
「なっ!なんで!?」
「何が?」
「なんでお前ら仲良くしてんだよ!!?」
「はぁ?」
何を訳のわからない事を叫んでいるのか?遂に、頭がおかしくなったのか?いや、前からおかしいか…。
私が呆れて見ていると、ダイゴはわなわなしている。
「お前も!なんなんだよあの力!!聞いてねぇーぞ!!」
「あんたには教えてないけど、伯父さんは知ってたよ。」
「なっ!?聞いてない!!」
「あんたはお喋りだからでしょ?悪ガキだし。」
「何を!?」
「あんたも、さっさと起きてから食べて準備して。村に行くわよ。」
焼かれた魚を一本取って、ダイゴに突き付ける。
村に行くと言う言葉で狼狽えているが、手はしっかりと魚を掴んでいる。
お腹は空いているらしい。
「村に行くって正気か!?まだ人間がいるかもしれないだろ!!」
「人間はもういない。だから大丈夫。」
「だってさ。」
「そんな言葉信じられるか!!見るからに怪しいだろ!!!」
「あんた、助けてもらっておいてなんなの?」
「ふざけんな!!!」
いつの間にか、食べ終えた魚の刺さっていた棒を地面に投げつける。
そして、まだ焚き火の端に刺さっていた魚を掴み取って食う。
まるで、飢えた獣だ。
「あんな強引に連れ去っておきながら、何が助けただ!!死ぬかと思ったわ!!!」
「食べながら話さないで、汚い…。」
「うるせぇ!!!」
そう言って、焼かれていた魚を全て食べてしまった。
まだ、クロウは一匹も食べていないのに…。
そして、ダイゴは立ち上がって私達を見下ろす。
「お前達なんて、もう信用できるか!!俺は一人で村へ戻る!!」
「あっそ。なら、勝手にしなさいよ。あんたが途中で迷ってのたれ死んでも、私達を恨まないでね?」
私は、ダイゴから顔を逸らした。
こんな阿呆に、付き合ってられるか。
父さんに、ダイゴの事を頼まれたけど…でも、無事に村から出られたんだ。後は自分でなんとかして欲しい。
「ふん!ああ!!勝手にするさ!!このバケモノ共が!!!」
そう言って、威勢良く歩いて行ってしまった。
本当に馬鹿。
「…心配そうだね。」
「…全然。あんな奴、勝手にすれば良いのよ。」
「嘘が下手。」
「嘘なんかじゃ!!」
「彼を追おう。君が安心できるように。」
「…だから、違うってば…。」
クロウは優しく微笑み、私を抱えたまま立ち上がった。
「え?あなたは食べなくで大丈夫なの?…と言っても、あの馬鹿が全部食べちゃったけど。」
「ワタシには、食事は必要無いから。」
「そうなの?ますます不思議ね?」
「ふふふ、じゃあ行こうか。」
「私、自分で歩けるわ。」
「ワタシがこうしたいんだよ。お願い。」
少し空色の瞳を覗かせながら微笑まれる。
本当に綺麗…と言うより、最早妖艶な気がする…。
私は、渋々了承した。
そして、昨日何故ダイゴが気絶したのかを知った。