見た目は女の子、中身は男。
「花間さん、付き合って下さい!!」 今日の授業がすべて終わり、校舎から生徒がいなくなり、クラブが無い日なので聞こえる音といったら、車が時折通り過ぎる音と室外機の音ぐらいになった放課後の校舎裏。お馴染みの告白の定型文が響く。
話があると言われて校舎裏に呼び出されたんだから告白されるんだろうと予測はしていたがやっぱりか。きちんと断らないとな。
「ごめんなさい、中嶋君.....今は友達との時間と勉強に集中したいの」だって俺は男だ。
「そ、そうだよね。ごめんね、時間取らせて」中嶋は世界の終わりのような顔をしながら去っていった。お前は野球部で磯○と野球に打ち込んどけ。
※ ※ ※
俺、花間夏樹は生まれた時から見た目が女みたいだった。腕は細いし、筋肉も運動しても付かなかったし、何より顔が綺麗(断じて自慢ではない)だったので3人男兄弟の末っ子の俺は母さんに女の子のように育てられていた。
実際自分自身も幼稚園の時ぐらいまでは自分が女だと思っていた。家族はみんな俺の事を夏樹ちゃんって呼んでいたから自分にはムスコが付いてるのに母さんには付いていないなんていう些細な違いには気付けなかったんだ。
小学生に上がってやっと気付いて母さんに言ってからは男として接しられる事になったが気付くのが遅すぎた。
俺は自分が男である事に気付いてからも時折女っぽい仕草が出てしまい小学生と中学校の間は男の友達からはオカマだと言われ随分いじめられた。もちろん中身は男だし、女の子に興味だってあった。
中学校に上がり、意識さえすれば女の子みたいな喋り方も封印できるようになった俺はこの能力を最大限使う事を決めた。
高校に女子として入る。
そして自分のハーレムを手に入れてやる。
俺は高校に女として申し込んだ。戸籍上は男だから無理かと思ったけど『中身は女です』と自己申告書に書いたら学校側が考慮してくれたみたいで合格したつぎの日には女子生徒の制服が届いた。
俺の人生はこれからだ。
※ ※ ※
才能というものを持っている人は皆、天性的に得たその自分だけの武器を最大限に活用し、自分の人生を輝かしいものにしている。
例えばスポーツ選手。
こんな事を言うと怒る人もいるかもしれないが、スポーツは努力することによりある程度までは上達する。しかし最後には元々持っている才能の差で勝負は決まる。つまりは才能を有する人がスポーツ選手となり、多額の年俸を得ている。
それに歌手。
彼らには発声練習をするなどスポーツと同様に上達する術はある。しかし歌手も最後は天性の才能によって人々に認められ、本当の意味で歌手という仕事となる。
もちろん才能がある無いに関わらず血の滲む努力の末に成功した人達も数多くいる。 俺が言いたい事は才能がすべてだとかそういう事じゃない。
仮に貴方が野球をしていたとしよう。貴方は小学生の時からリトルリーグのエース兼4番バッター、試合に出る度にピッチャーとしてはノーヒットノーランが当たり前。
バッターとしては5割8分2厘の高打率を維持し、なおかつホームラン王。その流れは高校まで続き、甲子園にも3年連続で出場し、ドラフト1位指名は確実の神童と謳われている。
こんな状況になって貴方は野球を辞めたいと思うだろうか?
ほとんどの方はそのまま野球を続けプロ野球選手になり、多額の年俸を得て贅沢三昧な暮らしをしたいと思うだろう。 俺が言いたかったのは才能を持ち、その力を使えば自分のしたかったことが出来るなら、その力を使わない理由ってあるのか?という事だ。
俺はその力を使わない理由などないと思う。だから俺は男なのにも関わらず他人から完璧に女にしか見えないように出来るという才能を最大限に使う。
俺は明日から女子高校生。花間夏樹ちゃんだ。
※ ※ ※
高校生活......それは人生の内で1番楽しく充実した青春。クラブに励み、恋愛をし、友達とだべり、バイトもできて、犯罪をしても少年法が守ってくれる。最後のは無いにしてもそんな青春への期待で胸が一杯な新高校生が集う入学式が今日、ここ、私立城ヶ崎高等学校で開かれる。
※ ※ ※
はや8年ぶりに履いたスカート。脚がもたつく様なその履き心地に俺は懐かしさを感じていた。入学式の朝、6時に起きた俺はいつもより早い朝食を済ませ、自分の部屋にある鏡の前で制服を着た自分の姿を見ている。
大きなリボンが胸元に付いた制服を着た俺は髪型、ショートボブ、肌は白く綺麗で、低めの背の割には成長すべき所はきちんと成長していて(決して整形などしていない。パッドを入れているだけだ。)自分で見てても興奮しそうなぐらい女子高校生らしい女子高校生だ。
「あら.....綺麗じゃない、夏樹ちゃん」
「部屋に入ってくる時はノックしろって言ってんだろ」
「今は着替えしてるだけだと思って..でも本当に綺麗よ。なんて言うかいかにも女子高校生って感じ」
「当たり前だ。俺が男な事はバレるわけにはいかないんだ」ノックもせずに入ってきたこのモラル皆無の女性は俺の母さん。前にも言ったが、俺に女化(性別が変わるわけではない)の能力を持たせた張本人だ。
母さんは40代中盤程(年齢は推測、本人は26歳の時に地球の時間は止まったと述べている)という年齢の割には顔にシワなど無く、141cmの低身長に見合った膨らみを持っていて、童顔で仕草がいちいち可愛い・・・というのが俺の父さん(超絶怒涛のロリコン)の評価だ。
「あらあら・・・女の子になった途端胸までできたのね?」
「誰が女の子になるなんて言った?それにこれはパッドだ!」
だから揉むんじゃねーよ。
「パッド?でもこの感触は中々・・・フフッフフフフッ」
我が母ながら怖いな、この人。
「沙雪ちゃんも使ってみよっかな?」
「やめろよ?親がパッド使ってるとか恥ずかしいからな!」
ちなみに沙雪が母さんの名前な。
「・・・つーかっ、揉むのやめろよ!いつまで揉んでんだ!」
「ごめん・・・。夏樹ちゃんの感触、中々だったわよ!」
「だからパッドだって言ってんだろ!」
あ・・・パッドがズレて超デベソ系女子みたいになってる。
俺が家を出る予定だった時間が過ぎてる事に気づくのは母さんとの口喧嘩が治まってからだった。
※ ※ ※
私立、城ヶ崎高等学校は、150年もの長い歴史を誇る名門私立.......それゆえか、学校はこの市で一番の高台に建っている。そんな名門校に入れた事に俺は喜びを感じていた。
昨日まではな!!
※ ※ ※
「ハァ...ハァ...。どんだけ坂長いんだよ.....」
あのババア(こんな私を生んでくださった偉大なる母君)のせいでこのハメだっ!
俺は今、遅れかけてる入学式に向け、城ヶ崎高校の最寄り駅、城ヶ崎駅から高校にかけて続いている心臓破りの坂を全力疾走している。こんな事ならもう少し運動しとくべきだったな。
今の俺の全力疾走は女子にしても少しばかり遅い。
ハハッ・・・こんな快晴の晴れの日に何やってんだろな..俺。
そんな感傷に浸り、走っている後ろから何やら足音がすごい勢いで近づいてくる。
シュッ タタタタッ
軽快なそれは俺よりも遥かに速い。もう俺に追いついて追い越していく。女子生徒だな。 良かったな、お前は間に合いそうだな。俺はギリギリ遅れそうだが・・・。
・・・と、俺を5mほど追い越したそいつは走るのが遅すぎる女子生徒に気づいたのか足を止めて俺の方に振り返った。
「何してんの?城ヶ崎高でしょ?入学式に遅れりゅよ!」そう言うとそいつは俺の手をとって走り出す。遅れりゅ?
手をひかれると少しだけ走るのが楽になり、速く走ることが出来る。さっきまでは下ばかり見て必死に走ってたから気づかなかったけどこの坂の両脇には桜並木があった。
走っているためリズミカルに揺れるそいつの髪と時折降ってくる桜の花びらとのコントラストが美しい。
手をつないだ温もりが全力疾走により血の気が引いて、冷たくなった俺の手の感覚を戻している。この温もり......初めてじゃない。コイツ...もしかして...。
※ ※ ※
私、皇 亜麻音(16)には婚約者がいます。その子の名前は花間夏樹ちゃんっ!私とは幼稚園が一緒で、小、中学校と、違いましたが、城ヶ崎高校に入る事はもう事前に確認済みです。
その方法は今は言えませんが・・・。 私が夏樹ちゃんと婚約したのは幼稚園の時......
「先生ぇ。私ね、夏樹ちゃんと結婚するんだぁ!」
「あらそうなの?夏樹ちゃん」幼稚園の先生が笑いながら言う。
「そうだよ。私もね、亜麻音ちゃんと結婚するんだよ」
「約束だよ。夏樹ちゃん!」
「うんっ。約束。ずーっと約束!」 こんな感じにしました。
高校からはずーーーーっと一緒。だって恋人同士だもの。
同性でも愛さえあれば関係ないよねっ!
※ ※ ※
「この高校は質実剛健を校訓にしており、クラブに励み、勉学に打ち込む生徒像を理想としていて......」
ハァ......心底どうでもいいよな校長の話って。理想論ばかり語って、学べるものなんて何も無い。城ヶ崎高校第30回入学式。俺はもちろん新入生の女子列に座っている。
・・・んでもって俺の後ろに座っている、つまり、俺と同じクラスになる皇 亜麻音は俺の幼稚園の時の同級生。
コイツとは幼稚園の時に仲が良かったような気もしなくも...ない。まぁ幼稚園の記憶など俺の心というハードディスクからは消去されているけどな。
でも...何かが引っかかる。何か大事な出来事が、コイツとの間にあったような気が微かながらする。
その記憶は暖かくて、幸せで...。思い出せない自分がもどかしくてイライラする。
ツンツンッ...。後ろから皇が肩をつついてくる。
「どうしたの?」 小声で問うが、答えもなく、それどころか振り向いた瞬間にプイッと目線を逸らされた。
こ...これかっ?これが...あのラノベの世界でもテンプレとかし今もなお絶大な人気を誇る(作者の個人的意見です)ツンデレってやつか!
ツンツンッ...。またつついてくる。なんだよそれ...可愛いじゃんかそのかまって的な態度。こんな体験、男のままじゃ出来なかったな。(※夏樹は性転換しておりません)
「校長先生、ありがとうございました次にPTA会長 権田薔薇左之助様より式辞です」まだ続くのかよ。でもそれってこの皇からの『かまってⅹ2攻撃』をまだ楽しめるって訳で...その生徒会らしき男子生徒が放った言葉は福音だった。
皇からの『かまってⅹ2攻撃』をそれから小一時間ほど楽しんだ俺だったがその描写は退屈なので割愛させて頂く。
※ ※ ※
ここはオサレな某スイーツ専門店のお持ち帰りじゃなくその場で食べる人が席に座ってパフェなり、マカロンなりケーキなりを食べる所。(正式名称不明) 高校にて再会した皇がなんか久しぶりに話がしたいとか何とかで入学式が終わってから誘われたんだ。
学園描写?なんだそれ。
「何頼もっか?」皇が俺に聞く。
うーん・・・こういう所来たことねぇからな俺。
「わたしはドリンクだけでいいの。今月は金欠だから・・・」金欠なのは事実だからな。
「そうなの?私はパフェにするよ!」勝手にしろ。ん?コイツ……なんでニヤけてるんだ?
※ ※ ※
本日の主役はあずき抹茶パフェ。芳醇な香りと抹茶の苦味、そこにハモる小豆の甘みがなんとも言えないであろう一品だ。
「ふあー。美味しそう!早く食べよ食べよ!夏樹ちゃん!」
ふぇ?運ばれてきた抹茶パフェには、スプーンが二つ、ついている。それって……つまり……。
「一緒に食べよ?夏樹ちゃん!」こういう訳で……。
幼なじみと言うには付き合いが短く、こんなにもお嬢様みたいな見た目と名前してるやつと一つのパフェを一緒に食べるだと?いきなりハードルが高すぎる。帰りに一緒に女の子とこういう所に来ることも初めてなのにっ。
「なにしてるの?夏樹ちゃん。たべていいんだよ?」皇がスプーンを差し出しいう。そうだ。俺は高校でハーレムを作ろうとしてるんだ。
ハーレムとは『1人の男性が多くの女性を侍らせる場所またそういう状態』広辞苑引用。こんな1人ぐらいの女性で恥ずかしがってたらハーレムを作ることなんて絶対に無理だ。
これは練習なんだ。覚悟を決めた俺は皇からスプーンを受け取り、パフェを掬いにいく。
・・・って・・・おい!
皇も同時にスプーンで掬いにくる。同時に掬いに行ってるわけだから、もちろん俺ら(私ら)は結構密着している訳で。
んでもって、皇の高校生の平均程だが形の整った胸の奈落が生々しく見えていて。
「んぁ……美味しいねえこれ……この白くて甘いやちゅ」
ああー!もうっ!なんかコメントまで絶妙に紛らわしい!!しかもそのタイミングで噛むのかよ。
「はい、あ~ん」
は?いや・・・え?おいっ!
皇が満面の笑みで自分が使ったスプーンに自分が掬った側から
小豆と溶けかけのバニラアイスを掬って俺に差し出す。ちなみにさっき皇が『甘くて白いやつ』と形容していたのもバニラアイスだ。
『あ~ん』それは全国の男が求めているが、実現するのは一部の憎きリア充のみの魔性の行為。しかも今回のは間接キスつき。
まさか入学初日からそんなものを体験できるとは・・・。
男としては、素直に嬉しい。もちろん恥ずかしい事に変わりはないが、 こんな機会は滅多に無いのでもちろん有り難く頂戴?する。
パクッ・・・
味はただの小豆とバニラアイス。のはずだが、初『あ~ん』と初間接キスを含んでいるという事実が俺の味覚を狂わせる。
「美味しい?夏樹ちゃん」
「うん!自分で食べるよりも美味しい!」
本当に・・・美味しい。勿論、味は変わっていないのだけどこの味は・・・形容し難い味の隠し味が入っているみたいだった。
「ふふふっ。そうでしょ?私の愛を込めといたんだから……それに
私達結婚するでしょ?」
「おん。ありがと」 最後のほうが聞き取れなかったけど、何故か愛込めといてくれたみたいだし、取り敢えずお礼と同意だ。 何だか皇は鼻歌を歌って、楽しそうだ。
「ところで、夏樹ちゃんはクラブ何処にはいるの?」そういや俺らの高校は、入学式の次の日から、もうクラブ体験が始まるんだった。 俺は運動音痴だからな・・・取り敢えず文化系な事は確定だな。
「私は運動は苦手だから、文化系にしようと思ってるんだけど、
まだこれといって決まってないんだ。明日片っ端から良さそうなところを回ろうと思ってるんだ」
「へぇ。そうなんだ~」 あれ?なんでノートにメモってんだ?コイツ。
「良かったらでいいんだけどさ…明日一緒にまわらない?クラブ」
「いいけど、私とでいいの?」
「夏樹ちゃんとじゃなきゃらめなの!」
「そうなの?じゃ一緒にまわろう。明日」
何で俺なんかと?幼稚園の時、確かに仲は良かったはずだがもうあれから11年は経ってんだぞ? ま、1人でまわるよりも楽しいだろうし、助かるんだけどな。 それから30分位話した。
「あっ・・・私もう門限の時間だ」皇が寂しそうに言う。
「私の事は気にしないでいいよ」
「今日はありがと。久しぶりに夏樹ちゃんと話せて楽しかったよ。お互いの愛も確かめられたし。それじゃ、バイバイ」
「うん。さようなら。亜麻音ちゃん」皇は俺に手を振りながら店を出ていった。
バイバイって言う前何て言ってたんだ?アイツたまに急に声小さくなって聞き取れなくなんだよな・・・
あっ、アイツ伝票持って行ってた。俺が男らしく(今は女子高生だが)払おうと思ってたのに・・・。 でもよく考えたら俺金欠だったわ。ありがとよ。皇。
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