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クズ、卵伯爵との戦闘


「ハンプティ・ダンプティ伯爵様? し、質問があるのですがよろしいでしょうか?」

「別に構いませんぞ」

「何故、伯爵という高位を人間では無い貴方様がお持ちなのでしょうか? ……決して悪口ではないですからね!」

「バカ! あんた何考えているのよ!」

「まあ気になさりなさんな。そうですね、一言で言えば助けたから(・・・・・)だからですな」

「助けたとは?」

「そうですぞ、昔わたくしが飢餓に苦しむ男性に食料を恵んで適切な処置をしました。実はその男は、このカリメア王国の王様だったんですよ。どうやら魔物に襲われて部下や側近と離れ離れになってしまい、わたくしの住んでいる森へと入り込んで来たんですな」


 ……ハンプティ伯爵の言いぐさではこの王国でそういう事件が起きたらしいが、最近話題になったっけ。王が消えたという話題なら村まで届くと思うのだけど……。


「そして、わたくしは助けたお礼として伯爵という地位を貰ったんですぞ」

「ちなみに何年前の出来事でしょうかね?」

「ざっと二百年前ですな」

「そ、そんな年齢には見えないですね」

「まあ妖精(・・)とはそういうものだからな」

「よ、妖精!?」

「そうよザック。ハンプティ伯爵様は伯爵でもあり、妖精界での王様よ」

「……」


 ちなみに、現在カメリア王国を治めているのはノートン八世である。二百年前だとノートン三世に当たる人物だ。


 やべえ、俺は何ということをしてしまったんだ。強引に引き抜いたり、使い魔で亀甲縛りをしたり、全てやっちゃいけないタブーじゃねえかよ。終わった。完全に終わったわー、妖精たちから殴られて死ぬわ俺。


「い、命だけはお許しを!」

「教師である私の責任です! どうかこのバカを許してやってください!」

「いやいやとんでもない。面白い少年でしたのですし、そもそも憤怒とかの感情は抱いていませんぞ! オホホホホ!」

「ありがとうございます! ありがとうございますぅ!!」

「感謝します伯爵様!」


 俺とソンノ先生は砂地にガンガン頭をぶつけてお礼を申す。



「そうだそうだ。ザック少年よ」

「は、はい!」

「そこまで堅苦しい敬語をするのではない。それとわたくしと戦ってくれますか?」

「わかりました! ……えっ、戦う?」

「そうですぞ」

「は、伯爵様、うちの生徒と戦闘とはどういうことでしょうか?」

「まあ彼の魔力の放出(・・・・・)があまりにも異端なのでな、それを含めて戦うことにしたのだ」


 魔力の放出が異端だとはどういうことだろう。俺はごく普通に出していただけなんだけどな。折角誘ってくれたんだし受けてやるか。


「だけど場所はどうしましょう、観光客で埋め尽くしているんですけど」

「大丈夫、わたくしの魔法を使えば」


 ハンプティ伯爵の手から杖が現れ、その杖で地面を突いた。すると、俺とソンノ先生とハンプティ伯爵の足元には黄色の魔法陣が出現し、三人を消した。一瞬のことであり、誰一人も消えた瞬間を見ることが出来なかった。



★☆★☆




「な、なんだ此処は……」

「白い、部屋?」

「此処はわたくしの生みだした部屋。通称殻の部屋ですぞ」

「殻の部屋?」

「この部屋の特筆すべき点は全ての魔法が使える(・・・・・・・・・)ですな」

「す、全ての魔法ですって!?」

「規格外過ぎやしないかこの部屋!!」


 本来、魔法と言うのは属性が付いており、水の無い環境での水魔法や氷魔法。暗闇での光魔法は威力が落ちるか発動はしない。しかし、この部屋は全ての魔法を対応出来る様になっている。魔導師や魔法使いにとって最高の部屋とも言えるだろう。


「妖精界の王はこんな技術まで……」

「さあザック少年よ。これで十分に力を奮えますな、ルールは相手が降参と言うまで」

「勿論。それと武器や使い魔は使用しても?」

「うむ、よろしい。全力で戦うことこそが決闘ですからな、武器の入っている箱を出しますな」


 指をパチンと鳴らすと宝箱の様な箱が現れる。俺はそこからただの鋼線とナイフを取り出した。ナイフを腰に装着して、鋼線が仕込まれている手袋を嵌める。黒蜘蛛の手腕(ブラック・バウーク)と違って、鋼線が無限に伸びないことや防刃魔法無効化を除けば性能は変わらない。

 俺は鋼線で防衛陣を構成、そして伯爵に鋼線を伸ばす。


「フオッ! 鋼線使いとは珍しい」

「そりゃあそうだ。相手が戦った経験の少ない武器を使ったほうが強い」

「ならばこちらも行きますよ」


 伯爵は鋼線を魔法で切りてる。俺の真上から大きな氷塊が落ちてくる。防衛陣を発動させて難なく防いだ。俺は鋼線を辺りに引き、カウンターを図る。


「そんなのは効きませんぞ」

「ちぃ!!」


 風魔法でその鋼線を切断して、伯爵はそのまま炎魔法を発動する。人と同じサイズの火球が六球飛んで来た。防衛陣はまだ構築していない、従って避けることしか出来ない。俺は次々に火球を躱して、伯爵との距離を狭めていく。


「やっぱり通常の鋼線は使えないな!」

「ナイフで突撃は止めなさい!」

「先生、俺をあまり侮らないでください」

「うーむ、近接戦闘はマズいですね。防ぎます」


 土魔法を発動して、地面を盛り上げて即席の大きな岩の盾とした。進行方向に盾を作られたのでその盾を右に躱して接近を試みた。


(はま)りましたな!」

「防ぐ!」

「きゃっ!?」


 飛ばした火球に対し、俺も水魔法の水球を飛ばして防ぐ。そのことで大きな爆発のあと、大量の蒸気が発生して、煙幕の様になった。その煙幕を突っ切り、伯爵へと切り込みに行く。

 煙幕外からは何かしらの魔法が地面を抉り取っている音が聞こえた。伯爵の考えはその煙幕を避けるだろうという人の心理を衝いた作戦であるが、俺には効果が無かった。


「抜けたぞ!」

「うおっ!? 煙幕からですぞ!?」

「そらよ伯爵!」

 

 風の斬撃を飛ばして、牽制攻撃。しかし、それも魔法で防ぐが、伯爵との距離は約十メートルへと迫る。これには伯爵も焦ったのか、ステッキを構えて臨戦態勢をとる。恐らく伯爵は近接戦闘が不得意だ。だからあんなに魔法を連発して接近させない様にしていたのだろう。


「これで仕舞いだ喰らえよ!」

「…あ、危なかったですな……!」

「それで終わりだとでも?」

「まさか!?」


 ナイフの初撃を運よくステッキで受け流され、距離を取ろうとする伯爵。しかし、ナイフの利点は手数の多く、素早く繊細な攻撃が可能という性質を持っている。そのため、相手を防戦状態に引きずり込ませることが出来た。


「(マズい、ここで魔法を使えば自分にも被害が来ますな。どうにかして距離を取らなくては!)」

「やれー! ザックー!」

「うらっ!」


 俺は伯爵を蹴り飛ばした。その時に伯爵はあらかじめ遠くに退ける様に、地面を蹴って少しでも飛距離を稼ごうとした。


「(しめた、これで遠くに行けますな)」

「これは最後のナイフ技だ。受けろ!」

「と、投擲!?」


 そう、俺は蹴り飛ばして相手が空中に滞在している僅かな時間中にナイフを投げた。空中ではどんな武器の達人でも無防備になるため、確実にダメージは入るのだ。

 しかし、不運なことに伯爵が適当に振った杖に当たり、ナイフは弾かれてしまう。そして伯爵はそのまま地面に叩きつけられた。



「(これで魔法による攻撃が可能……ッ!?)」


 頭を上げると、眼前には火球が飛んでいる。そのまま火球は伯爵に着弾した。


「降さ、ングアアアアア!?」

「……勝った」

「伯爵様!」


 伯爵は黒焦げになり、その姿は極東の地で食べられるという黒い温泉卵のようだった。心なしか美味しそうだと俺は思ってしまったが、元の姿を思い浮かべると気持ち悪くなった。

 しかし、その後が大変だった。



「先生、勝ちましたよ。いやー魔法に関しては一流ですが、流石の妖精王も俺には勝てなかったらしいですね」

「バカぁ! 高位持ちを殺したらあんた拷問の末に処刑よ!」

「……どうしよう先生! 俺まだ死にたくないよ!」

「知らないわあたし全然知らない!」

「うるせえ先生も一緒だからな!」

「やだーあたしは死にたくないよー!」



「やっぱり君たちは面白いですな」

「「何がじゃい!!」」


 ギャーギャーと怪鳥の様な声を上げていた俺らの後ろには黒焦げになったはずのハンプティ伯爵が居た。戦う前の白い肌に紳士服姿に戻っていた。


「は、伯爵が生きてる!」

「よくご無事で!」

「そりゃあ死ぬことが出来ないですし、この部屋」

「「……は?」」


 伯爵の驚きの発言により、俺らとの空気に突如沈黙が生まれた。そして、俺はその沈黙を壊した。


「そういうことは先に言えよ伯爵!!」


 白く不思議な部屋には俺の怒号が響き渡った。


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