表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
解放の異言者  作者: 綾高 礼
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/25

第24話「陰謀論」

 

 アミアンは、ファビオの近くに投げ飛ばされた。砂浜が白煙を作る。

 エドモンは即座にノアのいる方へ走り、剣を振りかざす。


 「その羽筆は我々のものだ!」

 

 ノアは目を瞑る。

 間一髪で、オリフィスが斬撃を防ぐ。

 刹那、エドモンは不自然に身体を横へとずらす。何故なら、後方からファビオの放った弾丸が、エドモンごと貫通しようとしていたからだ。

 信じられないほどの阿吽の呼吸が、オリフィスを襲う。

 

 持ち前の驚異的な反射神経をもって、オリフィスは弾丸を避けようとする。

 致命傷こそ避けられたが、無傷では済まされなかった。

 顔面付近を通過した弾丸は、オリフィスの頬に傷をつけた。その際に眼帯の紐が切れ、右目が露呈する。

 

 オリフィスは、咄嗟に右眼を左手で覆う。

 眼帯がないことを理解し、ゆっくりと面を上げる。


 「これはたまげたな」


 エドモンは、不気味なものを見たとばかりに、片方の口角を釣りあげる。そのまま銃口をオリフィスへ向けた。


 「まさかお前……イフチィ人か。それにその隻眼。もしや、クザフェスト強制収容所の生き残りか?」

 

 オリフィスの右眼の焦点は、義眼のように定まっていなかった。

 その右眼の虹彩は、不自然に赤黒い色をしている。

 オリフィスは、明らかに動揺していた。

 エドモンは、トリガーに指をかける。

 

 「オリフィスさんに」


 いつのまにかナギサが、エドモンの背後に回っていた。


 「手をだすな!」


 エドモンは咄嗟に振り返り、拳銃を向けようとする。

 それよりも速かったナギサの刀が、拳銃を切り刻む。その際に、エドモンの右手の薬指と小指が刎ねられた。


 「クソがっ」


 指は骨から断ち切られ、断片から血が飛び散る。

 筆力が維持出来ずに拳銃は、粒子となって霧散した。ついでに羽筆も切り刻まれ、使い物にならなくなる。

 だがエドモンは、すかさず回し蹴りをナギサの腹に叩き込む。ナギサは吹っ飛び、砂浜に投げ捨てられる。

 刀は砂浜に突き刺さり、筆力は霧散し、羽筆だけが残った。

 

 ノアはその一連の流れを、呆然と眺めていた。色々なことが起こりすぎて、もう何も考えられなかった。というよりも、脳の防御機構が働いて、思考を停止させていた。

 

 再度、エドモンは指から血を垂らしながら、ノアのもとへ向かう。

 自失したノアの手から羽筆を奪うことは、簡単だった。

 

 しかし、ミロンが放った弾丸が飛んできて、間一髪のところを転がりながら避ける。

 ミロンはその後も容赦なく、連射を繰り返す。

 流石のエドモンも身の危険を優先し、後方へ退避する。

 

 「危ない!」

 

 後方からファビオの援護射撃が飛んでくる。ミロンは呆然と突っ立っていたオリフィスに駆け寄り、体当たりする。

 男たちは、アミアンを連れて森中へ去っていく。

 静けさが訪れる。

 ミュラはノアのもとへ駆け寄った。


 「大丈夫、ノア」


 ノアは膝を砂浜につけ、羽筆を大事そうに離さず、一点を見つめていた。

 ナギサは、遠方で倒れるているカルロのもとへ向かう。

 カルロの安否を確認したあと、ミロンがいる方へ無事を示した。

 砂浜にひれ伏せたミロンは、胸を撫で下ろす。


 「重い」オリフィスが唸る。


 「まずは助けて頂きありがとうございます。だろ」

 「…………重い」

 「筆聖になったからって調子に乗るな。馬鹿野郎」

 「…………重い」


 ーーー


 船に乗る直前、ナギサはオリフィスを呼び止める。

 振り返ったオリフィスは、既に予備の眼帯をしていた。


 「なんだ」

 「これなんですが」


 ナギサは布包みを紐解き、中身を見せる。切り分けられた左腕の上腕部分だった。

 見る者が見れば、吐き気を催す生々しいものだが、オリフィスは気にすることなく凝視する。

 鷲のような鳥が、翼を広げているタトゥーが刻まれている。


 「先程交戦した虚像者の一人の腕です」

 「これがどうした」

 「確認しましたが、残りの三人も同じタトゥーが彫られていました」


 オリフィスは、ナギサが相手した虚像者四人を回想する。

 年は二十代から三十代の男女。

 見た目は、どこにでもいる道を踏み外した輩の風貌だった。

 

 オリフィスは、サングラスの男を尋問した時、所属は【黒華】と名乗っていたことを思い出す。

 黒華とは【黒き闇に咲く華】という、フリマ難民の不良たちが徒党を組んで出来た、多国籍ギャング集団の略称だ。

 メンバーは、腕に黒い華のタトゥーを彫り込むのが、特徴の一つとされている。

 

 そしてもう一つが、ヘムランド共和国の貧困移民たちのコミュニティから生まれた【黄金螺旋17】というギャングが存在する。近年この二大勢力が、イーローブ圏で勢力を拡大させており、軍や警察が目を光らせている。

 さらに彼らは、狂書やドラッグ産業の流通売買に力を入れており、国際的にも厄介な組織となりつつある。


 「どこの組織だ。ゼアレア系の5大マフィアか」

 「私が認知している限りでは違います。それよりもオリフィスさんは、()()()()についてご存知ですか」

 「……秘密結社だと」

 「はい。現代でもっとも有名な秘密結社は、自由な木工フリーウッドウォーカーですが、そちらはご存知ですよね」

 「何が言いたい」

 

 【自由な木工フリーウッドウォーカー】は、九世紀頃に設立したとされている友愛組織であり、現在は世界に数百万人の会員を有するとも囁かれている。

 当時は、木工職人が集まり、権利や行動の主権を主張するための労働組合に過ぎなかった。だがいつのまにかその枠組を越えて、人種、階級、国を問わない組織へと変貌していったとされている。

 会員には、政財界の有力者から街の庶民まで、幅広く世界に潜んでいるとも。

 というのも、秘密結社と言われるだけあり、組織構造、形態は謎に包まれている。

 現代では、災害時の社会奉仕活動などを認知しており、世界中央連合としても危険指定はしていない。


 「では、聖鳥(せいちょう)(つばさ)については」

 「聞いたことはある。まさか、奴らはそういう類の連中だとでも言いたいのか」


 【聖鳥の翼】は、二百年前、およそ十一世紀頃に友人などが集まり、フリマ国で設立された友愛組織とされている。

 彼らは啓蒙思想を唱え、当時の腐敗したアフレズト教社会に、政治的な影響を与えたとされている。

 その後、自由な木工フリーウッドウォーカーのように拡大することもなく、自然消滅したとも。

 

 「失礼ですがオリフィスさんは、陰謀論にはお詳しいですか」

 「ナギサ。これ以上の無駄話は」

 「待ってください。聖鳥の翼は、フリマ革命に裏から関与したとも言われており」

 「らしくないな。いい加減にしろ」


 呆れたオリフィスは、船へ向かおうとする。

 

 「彼らは()()()と呼ばれる本を出版したと記録されています。そこに例の羽筆の存在についても記されていたと」

 

 オリフィスの足が止まる。ノアから没収した羽筆を思い返す。


 「……異言者(いげんしゃ)だと」

 「いえ、すいません。書かれていたという記録が、別の書物に記されているだけです。写本どころか、原本すら見つかっていません。彼らが秘密裏に発行したとされる書物は、当時の教会が焚書したとも……」

 「だからどうした」

 「カルロの兄が、失礼。ファビオ・バルディーニは、私の書生養成院時代の同期です。色々問題を起こして退学しましたが、彼は当時から反社会勢力や秘密結社の存在について、熱心な興味を抱いていました。その根拠の一つに、彼は過去に一度だけ、私に聖鳥の翼について尋ねてきたことがあります」


 オリフィスは、船に乗る直前、頭から血を流したカルロが、漏らしていた言葉を思い出す。


 『ファビオは、おいらの兄貴です……』


 カルロは交戦したが、すぐに気を失ったという。命を奪われなかったのは、兄弟故の情けかは不明のままだが、カルロは怪我以上に憔悴しきっていた。


 「それと」


 ナギサはコートの内ポケットから、数枚の原稿を取り出す。


 「橋の下に住んでいたニックの未完原稿です。内容こそ古代の聖剣伝説のような幻想じみたものですが、そこに()()()()という組織名が出てきました」


 オリフィスは原稿を受け取り、ナギサが指摘した箇所に目を通す。

 

 「組織については、確かに私の推測に過ぎません。ですがもしかしたら、彼らも例の羽筆を狙ってここにやって来たのではないでしょうか」


 『その羽筆は我々のものだ!』


 エドモンの台詞をオリフィスは思い出す。ナギサは虚像者と交戦中だった為、まだこのことを知らない。 


 「橋の下で死んでいた浮浪者は……」

 「なんですか」


 オリフィスは一度躊躇ったが、いずれわかることだと思い直し、口を開く。


 「()()()()()()()()()()()()()()()()、ビュレアス・オビムフェニルという男だ」

 「えっ……」


 あまりにも突然の飛躍に、ナギサはしばらく言葉を失う。放心するように、顔は青ざめていく。


 「……ありえません。彼はもうこの世にはいないはずです。かつてクニリーア政府が、死亡したと公表したはずです」

 「あぁ。だが生きていた。そして死んだ。それも異国のフリマでな。ただそれだけのことだ」


 ナギサは信じられないという表情で、オリフィスを見る。

 そこでナギサは一つ大きな疑問が浮かび、息を呑む。

 

 「ど、どうしてオリフィスさんは、ビュレアス・オビムフェニルの顔がわかったのですか? 彼は確かニック・ギルバートという名だったと、地元警察の人たちが」

 「奴のツラは新聞でも世界に公開されている。誰でもわかるはずだ」

 「それは理解しています。ですが、橋の下で死んでいた彼は随分と老け込んでいるように見えました。私も彼の顔を確認しましたが、全く気付きませんでした。すみませんが、まだ信じられません。それこそ、陰謀論じみた話みたいで……オリフィスさんは、なぜ彼がビュレアス・オビムフェルニだと見抜いたのですか」


 ナギサは早口で捲し立てるように話す。平気なフリをしているが、いつもの冷静さを失っているようにも見えた。

 オリフィスはそんなナギサを一瞥したあと、消え入るように呟く。

 

 「それは、お前が知る必要のないことだ」


 今度こそ、オリフィスは船に戻った。ナギサはその後ろ姿を見つめる。

 何か自分の知らないところで、物事が動きだしている。それもよくない方向に。

 そんな胸騒ぎを覚えながら、最後に振り返ったライリー島は、驚くほど静かだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ