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修羅神   作者: 不病真人
第一部 撼世奇人 

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第十四話 活気滅殺拳

フォンは味合うように口を動かしていた。

苦痛のせいか。

否、戦意が勃発しているだ。

血の味を嚙みしめながら、ゆっくりと腰を落とした。

 彼の本能がこの状況を好機と判断したように、体は興奮し続けている。


肋骨の奥で熱い疼きが脈打つが、毒はまだある、なのにそれを快楽の波に変換し続けていた。

 (...今の俺...見なくてもわかる、酷い有様だ....すなわち勝機の一つ!こいつは俺が怪我で判断を濁していると錯覚しているはずだ、あの傲慢さを見て....)


 コブラの赤い義眼が、暗闇の中で冷たく輝いている。機械仕掛けの蛇は、微動だにせず構えを取っていた。


「へっ来いよ、独眼野郎。俺の隙、もっと探してみろ」

  フォンの言の葉は狂った笑みを帯びていた。

煽り立てるのを戦術の起点とするようだ。


コブラは反応を見せず、無言で義肢を振り上げた。

 ビュン

「うっ」

 コブラは何を思ったか、フォンの体に刺さっていた針先を抜き出した。

(...?突っ込んでは来ないのか?あのヒリュウのように...武器で自分を引っ張らない?)


 ヒュ

刃状に変形した腕先が、青白い電磁を帯びて唸りを上げる。

 シュッ!

 義肢から何かが再び射出された。今度はフォンの左肩を狙う高速突き。フォンは体を捻り、わずかに躱した。

 「チッ」

(だが避けられる!速いが軌道は単純...いける、このまま距離を)

刃が肩口を浅く裂き、血が飛び散る。しかしその瞬間、奇妙な熱が傷口から広がった。

(ッ……!? 何だ、この熱……)

 傷は浅いはずだった。

なのに、フォンの体内で何かが爆発的に動き始めた。


 「何をした!!!」

━━ゼロ予備動作肩衝(ショルダータックル)、ヒリュウ戦で覚えた技だ。


 「ヒリュウか!」


しかしコブラは最も容易くそれをかわした、いや、かわしたと言うよりも、むしろ打ち返した。

空いている手でフォンを殴ったのだ。

(何!?)

フォンはすぐさまそれに気がつく。おかしさに。

 

 体の支配(コントロール)がいいおかげだろうか。

すぐに自分が猛毒に侵されることに気がつく。


 (体が鈍い!!?)


そう、彼は本能で察した。

その筋肉の奥底、細胞一つ一つが勝手に反応し、猛毒キノコの残滓を触媒にして、新たな毒素を自ら生成し始めたのだ。


「ゴミめ、奴隷の技でこの俺に...お前は生きたままに挽肉にする」


 ビヨン

それはコブラの義肢がなる音。


 「何をした!」


「いちいちうるせぇ蝿だ、くたばれ...と言うよりもゴミに事実を伝えてやる、泣き叫ぶ顔を見せろカッスめ」


 「義肢に毒を塗っただろう!だが俺の」


「黙れ!人間扱いされるとでも思ったか、毒とは、所詮ゴミはゴミだな、汚らしい。毒なわけはない。」


 コブラの義肢——その電磁回路と特殊な振動波が、打撃の瞬間に相手の生体組織を強制的に“毒製造モード”へ切り替える特殊作用を持つ。

だが相当特殊な技術、つまり体術、肉弾戦技術を持たないと意味がない。

その名も

「光栄に思え」

━━━ 機巧蛇形拳:毒性転化衝

(うわださ、うっ...体が...)

 フォンの体が、自分自身の毒を増幅させている。

無理矢理身体能力を向上させている体内分泌させる存在すらも抑えられることのない、体内分解を停止させ...否、分解していたそれが逆転させられている。

 脊髄が熱くなり、神経網が火花を散らし、血液が一瞬で粘つく蜜のように変わる。

 これがコブラの技の本質だった。

単なる打撃ではない。相手の肉体に直接干渉し、自己毒素生成を誘発する、残虐な生体、改入(ハック)

 フォンの既存の菌毒を“燃料”に変え、体内で新たな猛毒を大量生産させる。

肉体を内側から蝕む、肉体を騙す技。


「ぐはっ……!」

 フォンは歯を食いしばった。

だが抵抗しようとしても、代謝が加速して毒を体に巡らすだけで、製造は停止なんてしてくれない。

ただ毒がさらに深く食い込み、神経が雷鳴のように轟く。

 世界が一層遅延し、自身の動きだけが加速する。だが今度は、生成された新毒が視界を赤く染め、筋肉を溶岩のように熱くした。

つまり、苦痛。

それは判断を遅らせる、死に至る“毒素”

━━痛覚!

(目が...それに腕が重い)

 コブラは嘲笑を浮かべ、左腕の電磁鎖を振り回した。

「硬さも技もこの俺の前じゃ無駄だ、カス」

 ガギィン!

 針が奥まで刺されば鎖がこれほどのものかとフォンの腕に絡みつき、電撃がさらに奥深く影響する。

電撃はやがて打撃に転向する、筋肉を震わせているからだ。

 その打撃の瞬間、それは再び発動する


 毒性転化衝


フォンの腕の細胞が反応し、外来のものを弾くどころか、製造しては毒素を生成する。

 血管が膨張し、皮膚の下で毒の膜が形成される。フォンの体が、まるで自らを毒で満たすために生きる、そんな生物と化していた。

「熱い...痒い....」

 毒の新たな波が肉体を超越的な領域へ押し上げる。

適応しようと抗体過度に製造したところで、それは微量な毒素があり、むしろ大量の毒がある場合は悪手。

もう彼は自分の抵抗力を上げても意味はなかった。

ここまで毒が作られているならば。

根比だ。

 体内にあるものを分解できなければ、絶え間のない綱引きになるだけで、やがてフォンの体は崩れるのを待つだけ。

 「やめろお!フォン!それ以上は過敏反応でお前の体は死ぬ!」

レイの声だ


 「...れ...い」

筋膜が極限まで張りつめ、骨が支柱のように固定される緊張統合構造が、自動的に活性化しコブラの鎖を掴み、引き寄せながらにただフォンを苦しめる。


 「はは、それで死ねいいいい!」


(レイ....?ヤマを助けてるのか...けど今は俺を助けてほしい....)

視線の先のレイを見て、虚になるフォンは考えた。

やがてその考えは彼を優勢にするところに到達する。


 「無理だフォン!見ろ!ヤマにかけた呼吸によるもの!気を!」

(呼吸!?てぇ!)

さらなる考えも深追いまではできずに、フォンは右掌底を己が腕の関節部に叩き込んだ。

 ドン!

 重い音が響き、油圧が漏れるシューという音。

フォンは打撃を鎖まで追い込ませて、コブラに打撃を与えるつもりだろうか。

だがコブラの反応は速い、義肢を一瞬で引き戻し、刃状の指で己の体に打撃を与えては、警戒する。


「なっ、なぜ自分を殴るコブラ!!」

 「...死ねゴミカス」

 (...説明もなし..か...俺にあれを差して毒をしたから...毒...?いや俺に毒があれば強くなるのがあったが....まさかあいつも自分を毒で強化できるのか..?)


 「小僧...振動で俺を攻撃しようとしても無駄」


「黙れ!振動を伝えてやるつもりはない、俺の秘策は出来た、いや秘技か。」

(しかしこの野郎……打てば打つほど、俺の体が毒を吐き出すようになってやがる!だが……これ、これこそ使えんじゃねぇか!)

 フォンは低く滑り込み、右足でコブラの膝を内側から蹴り上げた。

はずだった。


 「雑魚が!」

なんとコブラの膝が逆向きに動き出し、フォンの足を逆に傷つけている。

「ガッ!!」

 

しかしフォンの蹴りには、生成された毒の反動が乗っていた。故にただでは終わらない。

皮膚が極限まで伸ばされ、高張力膜となって衝撃を吸収・再分配しコブラの体がわずかに浮くことになる。

 コブラの赤い義眼が明滅した。

「下賤の餓鬼」

 機械的に響く音共にコブラの義肢が再び変形し鞭のようにしなる刃が絡み出せば、鎖を巻きつけて、肥大化したような姿となる。

重ねられしそれは螺旋に動く。


(よくわかった...体に毒を生成させるように...お前の本質は肉体操作!体への暗示か、それで)


 考えている時もコブラは当然待ってくれるわけではない。

義手がフォンの胸を狙う。

 フォンは駆け出すと壁を蹴って跳躍し蛇のようにくねりながら死角へ回り込む。

素早さ勝負はどうやら彼が上、勝ちのようだ。

「蛇の真似か!?この人呼んで大ヘビの俺に向かって!」

コブラは予測済みだった、腕を後ろに伸ばし、電磁鎖を射出。

否拡散した、螺旋状に回転しながらに鎖はまるで拡散したように解き放たれる。

「乱れ打ち!起動しろ!黒風飛雨」

 鎖がフォンの足首に絡みつき、引きずり下ろす。

同時に無数の針がまるで暴風雨のように撒き散らされてはあたりを打ち壊しながら、塵を起こす。

 ドゴッ!

 床に叩きつけられた瞬間、打撃が毒の生成を誘発する足の筋肉が自ら毒を生産し、神経が焼き切れるような快楽が爆発し

フォン自分の意思と関係ない力を感じながら、足の付け根から、何かの力で膝を動かされたように、奇妙な体勢のままに彼はは即座に体を起こし...

否上半身から腰にかけてヘタレ混んだままに、彼の膝だけ曲がる!

(ッ!まずい!体を起こさない..いや!無理だ!膝が勝っ...勝手に前に曲がろうとして!折れる!!)

「おうらあ!」

 彼はそのままに膝を折って加速した、筋肉など、それが折れた瞬間に起こる衝撃を最大限に活用して、空中で行動できるように力を加えたのだ。


 そのまま彼はコブラに向かって突進した。

左肩を前に出し、予備動作ゼロの衝突を仕掛ける。


 コブラの拳が迎え撃つ。

「死ねぇ!」

拳がフォンの肩に激突し、たように見せかけてなんと彼は手を開けた。

握り拳から掌を開けるようになった。

(なっ、受けるつもりか!?そのまま俺を受けっとめて..?投げる..?)

 「はああ!」

再び毒が生成される。

だが今度は今までのと段違いであった。

「なっあああああ!」

 フォンの肩が大量の毒素を吐き出し、血管が破裂するほどのものだった。

血飛沫が毒の霧となって舞う、紫がかったそれは、血管の中で血液があまりの速さで凝固しては、上昇している血の流れのせいで折れてしまった表れ。

 

 ドゴォォッ!!

「くたばりやがれ!!!」

 フォンはジタバタしながらに抵抗しようとする、まだコブラの義肢が繋がっているからだ、しかし義肢の油圧がすぐにそれを吸収する。


 ならば残るはコブラによるトドメのような即座の反撃、彼は空いていた手を握りしめてはでフォンの脇腹を抉る。

ゴリ シュ

毒でフォンの体の強度が弱くなっているのか、拳がが肉を裂き、打撃の瞬間にフォンの体がまたも毒を生成する。


 今度は肋骨の隙間から新毒が内臓へ染み渡り、フォンの視界が白く灼けるほどの加速を生む。

「一体...何が...」


 「コトダマ!お前のような実力者にしかきかないが、所詮ゴミはゴミだ、血統も伝承もない伝統なきゴミども!」


 「フォン!よく聞け!コトダマだ!!!一定の強さに達したものだけにしか聞かない!催眠に近しいものだ!!!」


「トッ...言霊を知っていると...何者だ?貴様」


「フォン!やつの行動全ては催眠となる!距離を詰めろ、だがいつもと違うように!腕が自在に伸びる敵を相手にしていると思え!!」


 「ありがとな!!はは」

 フォンは笑いながらコブラの義肢を両手で掴んだ。膂力を極限まで高め、引きちぎろうとする。

金属が軋み、火花が散る

 「ふん、カッスが、お前を殺してからじわじわとあいつを拷問して聞いてやる。だからしね!!!」


 コブラは口から何を飛ばす


 「ぷっ!!」

それは水の霧!

そのせいで毒を誘発するだけだった、少なくともフォンにとってはそんな電撃が彼に、彼に、彼を止めてしまうほどのものとなる。

 「次は首を止める!もちろん息を止めるわけじゃない、血液が脳に行けないようにしてやる、そうすればどれだけ長く息を止められてもお前は死ぬ、もっともその前に決め技で殺す!」


 「フォン!フォン!それ以上聞くな!手を離せ!耳を塞げ!」

(わかったけど、うばばばば!!)

ドン!

 コブラの拳がフォンの喉にめり込む。


喉の奥から毒の熱気が噴き出す。体が痙攣するが

「チッ弱っても硬いな...まだそこまで血が..毒が回っていないのか..?まぁいい、ならば先にお前に植え込んでやる。弱って頭に叩きつけたかったがな...この言霊を!!」

フォンは離さない。逆にコブラの体を引き寄せ、頭突きを叩き込んだ。

 ガキィン!

 フォンの額がコブラの義眼に直撃。レンズにヒビが入り、赤い光が乱れる。

 「いっぇ!てめぇ!!」

コブラが初めて低く呻いた、まとめに当たった初めての攻撃だった。

 その隙にフォンは義肢を捻り上げ、関節部を引きちぎろうとする。

ピタ

油と血が混じった液体が噴き出すが、コブラは左腕でフォンの顔面を殴打する、打撃のたびにフォンの顔面細胞が毒を生成し、頰が熱くなる。

(つまり頭突きをもう出来ないこれ以上!!!くそがあああああ!)

 二人は狭いパイプ内で絡み合い、殴り、蹴り、引き裂き合う。

 「やっと止まったか、クソガキ、今度こそおしまいだ、言ってやるぞ、お前の脳みそが...お前が無駄に血の流れを早くしてんのはもうわかってんだよ!」


 「れが、くたばれ!!どうしたあああ!!」

「あああ?てめぇの息の根どころか、血が回らないように殺してやるって言ってんだよ!!」


 「コトダマ……!」

コブラの声が、狭いパイプの中で不気味に響いた。

「その名は……『血止めの言霊ちとめのことだま』、 “血流制御鎖”」


 瞬間、フォンの全身が凍りついたような錯覚に襲われた。

心臓が、ドクン、と大きく跳ねた次の瞬間――

 鼓動が、止まった。


 いや、止まったわけではない。

ただ、血の流れが、急激に遅くなった。

 血管の中で血液が粘性を増し、まるで溶けた鉄のように重く、ねばつく。心臓が必死に送り出そうとする血液が、途中で固まりかける。

「が……っ!?」

フォンの喉が引きつった。

息はできる。肺は動く。

しかし、酸素を運ぶはずの血液が、脳へ、筋肉へ、ほとんど届かなくなっていた。

加速した血液がそう止まってしまえば当然恐ろしい末路がそこにある。

視界全体が炸薬が近くで爆発したかのように白く霞み、指先が痺れる。

 力が入らない。まるで自分の体が、遠い他人のものになったかのようだった。

「ははっ……!どうだ、感じただろ?

お前の血は今、俺の言葉に従ってる。『止まれ』と言えば止まる。『遅くなれ』と言えば遅くなる。

これが言霊だ!お前の中途半端さが仇になった!俺が最強だ!」


 彼は台詞を吐き捨てるように言いながらも手を止めてはいなかった、義肢や腕でフォンの首をさらに強く締め上げた。

「もうお前は、動けない。血が回らなきゃ、どんなに毒を吐き出しても無駄だ。筋肉は酸欠で悲鳴を上げ、脳は徐々に死んでいく。このままさらに圧をかけて死を加速させてやる。血が遅くなったお前には、この加速と言う言葉も辛く聞こえるだろうな、ゴミカス無能下等蛆虫

……さあ、ゆっくり味わえよ。自分の死を。」


(くそ……っ! このままじゃ……本当に……!)

だが、奇妙なことに――

 血の流れが遅くなったことで、フォンの体内で暴れ回っていた「毒」の拡散も、同時に鈍くなっていた。

毒は、血流に乗ってこそ全身を蝕む。

血が遅くなれば、毒の勢いも弱まる。

その事実に、フォンは一瞬で気づいた。

(……これを利用できる……!)

フォンは歯を食いしばり、両手でコブラの義肢をさらに強く掴んだ。

そのはずだ。

(なっなんでう...ご...意識が....!)


 血が動かない。

当然、体は硬くなる。

フォンの筋肉が、すでにに岩のような硬度を帯び始めた。

皮膚の下で、血管が鋼の管に変わり、肉が石のように固まる。そんな感覚を感じてしまうほどに彼は自身の変化に未知を感じた。

毒で固まった血液が運動能力を失ったせいでその体の中で固まり、異常な硬化を遂げていけるようにしたのだ。


すでに引きちぎりかけていた右の義腕を、残りの力でねじり上げる。

「まだ……終わってねえ……!」

「は?うごかねぇのにお前何してんだ?死ねよ」

 コブラが舌打ちしたその瞬間、フォンは全身の体重を預けるようにして、体を大きく捻った。いや倒れるのに近いだろう、すでに動かしようなない状態に近づきすぎてしまっているからだ。

 「チッ、ならてめぇを地面に叩き!なっ、重ッ!!!」

 フォンは即座にその現象を理解し、想像を働かせた。

血が動かないことを、ただの弱点ではなく、武器に変える。

自らの体を、血流の停止によって「生きた鋼鉄」に変える姿を、脳内で全力で描き続けた。

すると、想像が現実を追い越した。

フォンの体が、目に見えて硬質化していく。

いや硬質化というよりも、血がなさすぎて固まりすぎた筋肉が、塊になるほどに体内で鉛のように凝固した

血でさらに盛り上がっていた。


無理矢理にもその体は、固まってきた。


 肩の筋肉が金属のように盛り上がり、頰の皮膚が石膏を塗ったように硬くなる。

毒を生成する細胞すら、硬化した肉の中でゆっくりと蠢くだけになった。

(流れねぇならじっとしてもらう、圧縮してもっと硬くなってもらう。そうすると俺の中でどんどんと分厚く、硬いものが作られる。まるでただの鉱石を金属に加工するように。)

 利用したのだ、動かない血液を固めて、さらに毒は作られ続けるのを利用して、その両者を利用して、自分の体内で、骨格、防具、両者を合わせたもの、いわば外骨格...いいや、彼の現状からするとそれは内骨格である!

「なっ……!?」

コブラの義眼が、初めて驚愕の色を帯びた。


 血が回らない。

だからこそ、体の重心が異常に安定する。

ふらつくはずの体が、まるで鉄の塊のように重く、動かない。

その「動かない重さ」を、逆に武器にした。

「うおおおおおっ!!」

 「硬!!!」

フォンはコブラの義肢を支点に、自分の体を振り回すようにして体重を乗せた。

抵抗は行われるも、やがて二人の体が激しく絡み合いながら倒れ込む。

ドゴォォォッ!!

金属の床が悲鳴を上げ、二人は地面へと叩きつけられた。

フォンが下、コブラが下。

コブラは全く優勢ではない体型に固定されてしまう。

腕を引き伸ばされて、その固定された義肢めがけて、倒れる姿。

上半身が腕によって地面に持ち込まれる姿。


「がはっ……!?」

しかしコブラの義肢の重さによりフォンの肺からは空気が押し出された。

血液が硬くなったならば、押し出されるわけないじゃないか、なぜだと思うこともあるだろう。

しかし未だにその血の塊は増えているため、義肢に面積を奪われているとなれば、当然空気を押し出すしかない。


 フォンのこの押し出され窒息は、決してコブラの義肢によるものではない、彼自身の硬化が主体だった。


 「血が止まっているというのに……体が硬くなるだと? ふざけたていへんやろうが……!」


 コブラは即座に次の言葉を紡ごうとしたが、フォンはもう動いていた。

硬化した体は、重く、鈍く、しかし元々重いフォン体重とコブラの不利な体勢で結果として彼は絶対的な質量を持つことになる。

 血が回らないことで生まれる「動かない重さ」を、フォンは自ら受け入れ、積極的に利用したおかげだ。

ふらつくはずの手捌きや足取りを、逆に鉄塊並みの安定さへと変換する。

「はああああっ!」

 フォンは両手でコブラの義肢を掴み、極限の膂力を発揮して引きちぎろうとする。

金属が軋み、火花が散った。

(くそ硬くなりすげてうまく動かない)

 硬化した指が義肢の継ぎ目に深く食い込み、油圧の支柱を歪ませる。

「離せ、このクソガキ……!」

コブラが空いた腕でフォンの顔面を殴りつける。

肩を外してまで、関節を外してまで、彼は拳をフォンの顔に向けて叩きつけていく。

ボン

しかし、硬化した頰はほとんどダメージを受けず、逆にコブラの拳が跳ね返された。

そもそも距離からしてろくに届くはずもなかった。

ならばなぜわざわざ関節を外して打撃をした、この体制ではただでさえ弱いのに加えて、さらに関節を外した打撃をしても意味はないはずだ。

 さらに弱くなるだけだったはずだ。

力を加えられる距離ではなかった。

打撃のたびにフォンの顔から紫がかった血飛沫..否。毒の霧が噴き出す。


 「うおおおおお!このまま毒に溺れ死ねえええ!」

(なっ!そうか!こいつはうまく当てなくても、俺の体を操っては強力な一撃にしてしまう!)


「ッッはあああ!義肢だから痛みも何もねぇぞ小僧おおお!」

 血の流れが遅いままのフォンは、通常ならすぐに相手の殴打反動で跳ね返されるはずの体重を、まるで岩のようにコブラにのしかけ続けられる。

動けないはずの体が、逆に止まっていることで最強の固定具となっていた。

「この……クソガキ……! 離せ……!とっとと死ねよ!」

 コブラが腕でフォンの顔面を殴りつける。


「へへ……っ……血が回らねえと……こう……なるんだよ……!」

フォンは笑った。

口から血と毒が混じった液体が滴る。


ガキィィンッ!!

なんとコブラが倒れ込んでいく、うつ伏せからどんどんと頭や腰の高さが下がる。

「俺、あのくだ登った時に思ってたけどさ...うっ..ここ全然呼吸しにくいよね、それなのにむさ苦しい..体温上がってら俺の近くでお前は激しく動いている。」

 今度はコブラの義眼が完全に割れ、赤い光が火花を散らして消えた。

「ぎゃあああっ!? てめえの……目がぁぁっ!」

コブラが初めて本気の悲鳴を上げた。

フォンはじっとコブラの顔を見上げながら、低く囁いた。

「……ここ、あの地下に繋がったいるから金属が火花ちらしたりすると爆発すると思うよ、小さいけど、どうも。俺知ってるからな。ここ来る前に屁をよくする生き物とかくらい洞窟で試したんだよ、瘴気とかそういうの爆発するって、おかげでプリケツ..なんて呼ばれるようになるほど服をなくし..ゴッぷ!」


 コブラの義肢が、軋みを上げて音を立て始める。

「ぐ……ぐああ……! 離せ……この……!」

コブラが必死に腕を振り回す。

しかし、フォンはじっと耐え、義肢を掴んだ両手に全神経を集中させた。

金属が、ミシリ……ミシリ……と音を立てて歪んでいく。

「まだ……言えるか? そのコトダマとやらを。

血が止まった俺に、もう一度……同じ言葉を……!」


コブラは歯を食いしばり、叫ぶ。

「バカめ!喋りすぎたことを後悔しろ!!」

その瞬間――

フォンの体が、わずかに震えた。

 血流が遅すぎて、脳に酸素が行き渡らなくなってきたのだ。

相手への圧をかけるための会話が、喋りが彼を気絶寸前まで追い込んでしまう。

視界が完全に白くなり、意識が遠のきかける。

(……あと……少し……)

 「うおおおお!」

コブラはフォンを前にしながらそのまま雑巾がけの時のような姿勢で駆け出す。


 「落ちろおお!」

グシャァァァッ!!

 当然二人の体重や力を乗せられるその義肢は油圧パイプが千切れる寸前となり黒い油と血が混じった液体が噴水のように噴き出した。

だが火花はなかった。

ギャ がシャン

(て...うぎかして...)

コブラは義肢を動かしていた、ちぎれないように、破裂しないようにわざと事前に変形させていた。

 「やったぞおおお!」

その喜びからすると決して計画済みではない、瞬時の反応だろう。

 コブラの絶叫が響き渡る。

「地獄に堕ちろおおおおおおおお!!!」

ヒュゴオオオオ

風の音

 目指す先は空つまり遠く、そして深くある地底に繋がっている大穴。

「フォン!起きろ!落とされるぞおお!」

シュ!

 レイが駆け出す音

「無駄だああああ!殺す!こいつは殺す!」

「俺は、死ぬ直前まで……お前を道連れに……してやる……!」

血が回らない体で、フォンはつぶやく。


その時だった。


「…………っ!?」

フォンの動きが、止まる。

 コブラは、ヒビ割れた義眼の残骸から、血走った本眼を覗かせながら、狂ったように笑った。

「……言霊は、まだ……終わってねえ……

次は……『心臓よ、止まれ』……だ。」

――その言葉が、フォンの胸の奥に、直接響いた。

心臓が、凍りつくような感覚。

ドクン……ドク……。

鼓動が、ゆっくりと、確実に、止まろうとしていた。


 

 「 八識遮断!」

ドクン……ドク……ドク……。

 フォンの心臓が、氷の棘で締め上げられるような激痛と共に鼓動を極限まで遅くした。

 固まりかけた血液も心臓の脈が途切れかけると、弱くなっていくかのように、硬度がなくなる。

コブラによって押し出される際の衝撃で砕け散る血を補充するものが、それがなくなったせいだ。

 ここから血の塊は減れば減るほどに少なくなり補充はできない。

故にフォンの硬化していた体が一瞬だけ硬度を緩め、わずかに弛緩した。

つまりはコブラが運び出すのに最適な状態へと近づく。

だがそれもフォンには重要ではないものだった。

彼は苦しんでいたからだ。

(……心臓が……!)

 視界が真っ白に染まり、意識が急速に遠のいていく。

血が止まり、酸素が脳に届かない。

硬化した肉体が、今まさに崩れ落ちようとしていた。

その隙を、コブラは見逃さなかった。

「落ちろおおおお!!」

グシャァァァッ!!

義肢の油圧パイプが悲鳴を上げるもまだ繋がっている。

コブラは狂喜の声を上げた。

「やったぞおおお!!!!」

ヒュゴオオオオオ――!

風を切り裂く轟音と共に、二人の体はパイプの終端――暗く深く続く巨大な地底の大穴への道乗りへと飛び出したいく。

 「俺はただ殴るだけと思ったか!全ては “八識遮断”を使うためだ!!」

 穴の直前。冷たい上昇気流が二人の体を包み、底の見えない闇が口を開けている。

ただでさえ冷たいフォンの体はきっとそれでさらに固まるだろう。

そこに気がついているのか遠くからレイの絶叫が響く。

「フォン! 起きろ! 落とされるぞおおお!!」

 しかし、もう遅い。

コブラは勝利を確信し、血走った目で走り続ける。

「 殺す! お前もこいつも殺す!」

フォンは血が回らない体で、かすれた声でつぶやいた。

「……俺は、死ぬ直前まで……お前を道連れに……してやる……!」

その言葉が届いた瞬間、フォンの硬化した体が再び微かに震えた。

(……まだ……いける……!

血が止まってる……心臓が止まりかけてる……

だからこそ……俺は……もっと硬く……なれる……!)

 フォンは必死に想像を巡らせ、止まった血が体を鉄塊に変えるイメージを強化した。

心臓が止まる寸前の静止が、全身を絶対不動の鋼鉄に変える。

黒曜石のような光沢を帯びた皮膚を目指す、金剛石並みの硬度を持つ筋肉を目指す、合金のような骨格を目指す。

フォンは自分の体を必死に操ろうとする。

落下の寸前で再び極限の硬化を遂げるようにとにかく全力を尽くす。


「もうお前は終わりだ!」

しかし、硬化したフォンの両手は、コブラの義肢にがっちりと掴み続けていた。

血が止まり、心臓が止まりかけているはずの体が、異常な握力を発揮する。

いや、握力というよりも硬すぎて離れるのない空間距離を保っているだけ。

重りのような姿である。

「ぐっ……! まだ掴んでやがるのか、この化け物……!」

穴の縁まであと数メートル。

コブラの顔が一瞬で歪んだ。

このままでは自分も道連れで落ちる。

「ちっ……!なんてあるかよばあーか!!」

コブラは即座に判断した。

 

「義肢射出緊急離脱!!」

その叫びと共に、コブラの義肢の基部で爆発的な圧力が解放された。

義肢の継ぎ目が強制的に解除され、金属の留め具が弾け飛ぶ。

黒い油と血が混じった液体が、激しい噴射音と共に飛び散った。

瞬間、コブラは氷球(アイスホッケー)の選手がパックを滑らせる(スライド)させるような要領で、体を低く沈め、腰をひねり、左腕を鋭く振り抜いた。

シュゥゥゥゥゥッ!!


 硬化したフォンの体が、金属の床を激しく擦りながら滑り出した。

まるで氷の上で勢いよく押し出すような動きだった。

氷球(アイスホッケー)で例えるほどに似ている理由は明らかだ――狭い床が、わずかな油と血で滑りやすくなっていたこと、そしてコブラが低姿勢で体重を乗せ、腕の捻りと体幹の回転を活かして一方向への強力な滑り生み出したからだ。

 何よりもコブラは最後の瞬間に左腕を軽く押し出すように調整し、フォンの体に微かな回転を加えた。


 硬化したフォンの体は、その動きを支えるものとなる、さらにコブラ義肢かえあ漏れては彼にかかった潤滑油はさらに支えとなる。


シュ

 フォン床を滑る音を立てて穴の縁へと迫る。

「落ちろおおおお!!」

フォンの硬化した背中が、金属床を激しく削りながら滑走する。

皮膚が火花を散らし、硬化した指先が床に薄い溝を刻む。


 全身に機械の油に速度もある

当然だ。

体が回転しながら進む様子は、まさにパックが氷の上を滑る光景を思わせた。


 ただし、ここは冷たい氷ではなく、油と血に濡れた冷たい金属。


 風切り音が耳をつんざき、フォンの硬化した体が穴の縁を越えようとする。

ならば当然金属でしか利用できないことはあった。


「…………っ!」

コブラは慌てて立ち上がり逃げ出そうとする。

義肢を切り離した反動で体勢が崩れながらも、辛うじて立ち上がり後ろへ下がる。

「来るんじゃねぇ!」

そう叫び、フォンの体は完全に穴の縁を越え、暗い深淵へと滑り落ち始めた。

ヒュオオオオオオ――!

風が咆哮を上げている。耳元で。

闇の中でゆっくりと回転しながら落ちていく。


 コブラは穴の直前で膝をつき、荒い息を吐いた。

切り離した義肢の残骸から、黒い液体がまだ滴り落ちている。

彼の顔には、勝利の笑みと、わずかな恐怖が混じっていた。

「……はは……落ちた……!

ようやく……あの化け物を……!」

しかし、膝下に異変を感じる。

 「なっ!」

「来いよコブラ!金属は硬い!だが氷と違った形を保ちやすい!だからわからなかっただろう!」


 「ま、まさか!」

「ここは平気に見えてもう崩れるんだよ!!!」


 「ぐあああああ!!なんなんだ氷はああああああああ!!!」

ドゴン

「貴様あああ!」

コブラは気がついた、崩れるのはフォンのはったりにすぎず逃げようとした瞬間に自分が滑り落ちるこそが真の狙いと。

 フォンの硬化した指先が、床を滑りながらも意図的に深く抉っていた。

 彼は血が止まり、心臓が止まりかけた極限状態の中で、最後の力を振り絞って金属床に罠を仕掛けていたのだ。

硬化した指で床の継ぎ目を削り、油を塗り広げ、足場を意図的に不安定にしていた。

 金属は硬いが、氷と違って一度傷がつくと形を保ちにくく、そんなことなんの意味もないとフォンは内心思っている

「適当ふかして信じるとはな、滑り降りろ!」

 油と血が混じれば急激に滑りやすくなる、それを傷とか窪みに流れるように工夫する。

フォンはそうして穴の手前数米を崩れやすい滑走領域に変えていた。


「バカかが!このまま踏み止まああああ!」

 ガリッ……ガクンッ!

金属の足元が、フォンが抉った溝と油の膜によって急に滑り、床の一部が軋みながら崩れ始めた。

滑らせるだけではなかった。

コブラはすでに滑らせるのに気づけたとしてもここまでは勘付いていない。

気が付けばすでに遅かった。

 フォンが硬化した体で滑走した際に刻んだ傷と、義肢から噴出した大量の油が、金属板の固定を弱めていたのだ。

そこを滑り落ちるコブラの体重でただでさえ限界だった。


なのに力を入れてしまうとくればさらに落ちていく。

床ごと。


コブラが大穴へと加速する滑走路はすでに出来上がっていた。だけじゃなかった。

乗り物まで用意されてしまっていた。


 「貴様あああ!」


「ぐあああああ!!」

コブラの足が完全に滑った。

油まみれの床が傾き、彼の体が穴の方へ引きずられる。

バランスを崩したコブラは、穴の直前で膝をつき、必死に後ろへ這いずろうとしたが、遅かった。

その時――

落ちかけていたフォンの硬化した右手が、素早く伸びた。

黒曜石のような硬い指が、コブラの左足首をがっちりと掴む。

「っ……!?」

「落ちろ……一緒に……!」

 「ガキッ!!声が近いと思ったらてめぇ!!俺の義手の鎖どもが端にかかって!!落ちないだと!!」

しかし今からフォンの体が完全に穴の縁を越え、暗い深淵へと滑り落ち始めようとする。

コブラを連れていくためのものだ。

ヒュオオオオオオ――!

 風が咆哮を上げる。耳元で激しく鳴り響く。

 掴まれたコブラの体も、一緒に引きずり込まれようとしていた。

コブラは血走った目を見開き、絶叫した。

「離せえええっ!!」

彼は半分残った腕を振り上げ、腕の中に仕込んでいた最後の鎖を射出した。

 鎖の先端に付いた針先が、壁に勢いよく突き刺さる。

ガキィンッ!

 鎖が張り、落下の勢いが一瞬止まった。

コブラの体が、穴の縁でぶら下がる形になる。

しかし、二人分、金属の壁の方からこちらまでミシ、ミシリと音を立て始めた。

「くそ……っ! 離れろ、この化け物……!」

 コブラは左腕の力を振り絞り、鎖を巻き取ろうとする。

 同時に、足でフォンの手を蹴り飛ばそうと必死に暴れた。

「死ぬ覚悟はいいか、俺はうろ覚えだけど一度死んだ、だから何も怖くはねぇ、来いよ一緒に、死ぬ時って案外寂しいのが一番辛いんだぞ」

ビュン

 風が二人を激しく叩く穴の端側、穴の壁までに

ゴン

コブラの鎖がさらに軋み、上の壁の固定部分からゆっくりと引き剥がされていく。


「ぐああ……! この……!死ね……死ねえええ!!」

 コブラは鎖を握ったまま、足を激しく振り回してフォンの顔面を蹴りつけた。

そのせいで二人の体が、穴の縁で激しく揺れ動いた。

 鎖が限界を迎え、金属の破断音が響き始める。

遠くからレイの声が、風に混じってかすかに聞こえてくる。

「フォォォン!!」

しかし、その声も闇と風にかき消されていく。

 コブラの顔に、初めて本物の恐怖が浮かんだ。

鎖がゆっくりと伸び、壁の金属が剥がれ落ちる。

「くそ!!鎖はまだ長くなる!俺にはまだ考える時間はある!!!!」

 「来いよ、あんた。」

二人の運命が、暗い深淵の底へと引きずり込まれようとしていた――。


そんな時、コブラは何を思ったのか完全に鎖を切り離した。


 「王毒:相柳!」

「活気滅殺拳!」


 「その技ああああこぞおお!俺の俺の催眠を真似てのつもりかあああああ!」


 「毒じゃねぇ、お前はもうじきに死ぬ、過度に発達した呼吸のせいでな!!」


 「わかった、やめてくれ!もう落ちたら死ぬだけだ!俺はいいやつ」


「ダメだ」


場所はすでに空だった。だからコブラは命乞いのようにしたのだろうか。

 しかしそれを信じるほどフォンは彼を、コブラをみくびってはいなかった。

 ヒュゴオオ

「掴んできやがゅ!」


 「ああ、ここを登ったからな、お前はないだろう、ならばここからは俺の主戦場だ、さっきお前のああされたから、俺もやらせてもらうぞ。」


 フォンが何をしたか、コブラにはわからない、しかしわかるとなるのはまずいというはずだろうと。


誰が見てもそう思うはずだった。

 フォンに空中で締め付けられていくコブラの体が、激しく痙攣しているからだ。

背中に張りついたフォンの硬化した肉塊のような重みと、微かな振動が、コブラの神経を逆なでにする。

 義肢を切り離した左肩の断面から黒い油が噴き続け、風圧に散らされて霧のように舞っていた。

「ぐ……っ、はあっ……はあっ……!」

 コブラの呼吸が、徐々に荒くなっていく。

最初はただの興奮による息の乱れだと思っていた。だが違う。フォンの硬化した体が自分の背中に食い込み、肋骨を内側から圧迫しているせいだけでもない。

過呼吸だった。


 落ちながらもなお、フォンの指が深く食い込み、離れる気配がない。

 コブラは必死に体を捩り、残った腕で自分の胸を叩いた。息が、胸はくるしいからだろうか。


 「はあっ……はっ……はあぁっ!!」

見えるほどにコブラの肺が大きく膨らんでいた。

まるでそれが世界一の財宝のように空気を貪るように吸い込み、吐き出す。

 吐く量より吸う量が明らかに多い。酸素が過剰に取り込まれ、血液中の二酸化炭素が急激に減少していく。

 過呼吸症候群──いや、それすらも超えた異常事態。

血管が拡張し、末端の毛細血管までがパンパンに膨張する現象へと。

 脳に酸素が過剰供給されれば当然視界がチカチカと白く明滅するだろう、そうすれば手足の先が痺れ、熱を持ち始める。

「くそ……っ! 何だこれは……!」

 コブラはようやく気づいた。

フォンの硬化した体が、自分の背中に密着した状態で微かに振動している。

 その振動が、特殊な周波数で自分の呼吸中枢を直接刺激しているのだ。

 まるでコブラ自身の「言霊」を逆手に取ったような、生体ハッキング。

 フォンは落ちながらも、動けない自身の硬化した肉体をどうにかして使っていた。

 血が止まり、心臓がほぼ静止した状態だからこそ、筋肉の微細な収縮が、純粋な物理振動としてコブラに伝わりやすい。


 しかもフォンの体内で生成され続けている猛毒の残滓が、振動と共に微量ながらコブラの皮膚から浸透し始めていた。


「はあぁっ……はあっ……はっ、はっ、はっ!!」

コブラの呼吸はますます速くなり、浅くなる。

 肺胞が限界まで広がり、血管壁が薄く引き伸ばされるのがフォンにまで伝わる。

 やがて細い血管が一本、また一本と内圧に耐えきれず、微細な出血を起こし始めた。


 脳が酸素過多で浮ついている。思考が散漫になり、判断力が鈍る。

それでもコブラは必死に上を見上げた。暗い穴の出口は、すでに遠く小さくなっている。落ちる速度は予想以上に速く、底の見えない闇が猛烈な勢いで迫ってくる。

(……このままじゃ……本当に死ぬ……!)

コブラは歯を食いしばり、残った左腕を必死に動かした。

壁面に突き刺さった最後の鎖を巻き取ろうとするが、フォンの体重と落下の遠心力が加わって、鎖は逆に引き伸ばされるばかりだ。金属がミシリミシリと悲鳴を上げている。

「離せ……この……ガキ……!」

 「いやだ!」


 「ならば死ね!」

切り離し、急激な変速、鎖をちぎらせるほどに巻き戻したコブラ、その衝撃でほぼ握力などを失ったフォンが彼から離れていく。抱きしめる、締め上げる姿勢のままに。


 「しゃああああ!この勢いのままで壁に掴んで!」


その瞬間、コブラの肺が大きく膨らんだ。

「がっ……!?」

激しい咳が込み上げ、口から血混じりの唾液が飛び散った。

 血管が破れ始めていた。肺の奥で小さな出血が起こり、それが気管に流れ込んで息苦しさを増幅させる。


 「お前はもうじき死ぬって言っただろう!潔く死ねぇ!」


 「ば、バカが、なんでまだしなねぇ」

「死ぬのはお前だ!俺の新技活気滅殺」


 「叫ぶなあああ!言霊を真似てやがるんじゃねええ!」


 活気滅殺拳──

それはフォンがその場で編み出した技だった。

ずっとあった発想。

(あいつが俺に教えてきた気とか...だったな)


 そしてやがては、遠くでヤマを治療していたレイの動きを見て、フォンの脳裏に芽生えては着想したのだった。

 微かな始まりに過ぎんかったそれは、フォンがコブラの猛毒の技や言霊を見たことで、組み合わされては生まれ変わる。

 レイは重傷のヤマに対して、微細な手技と気流を操るような動きで血流や淋巴の滞りを解消し、傷跡にたまる毒素の排出を促していた。

傷口を化膿させたり腐敗を起こしたりする何かを。

 その人体内部の気流を操るような繊細な技を、フォンは戦いの最中にも観察した。


そしてコブラ毒性転化衝や己が硬化能力と組み合わせることで、さらに元来あった振動を合わせては、この振動技へと昇華させたのだ。

 振動によって相手の体内循環──血流、気流、淋巴、神経信号──を強制的に狂わせ、過剰な活性を引き起こした末に自壊させる。

 まさに“活気”を滅殺する拳。

その表れとしてはまず呼吸系だ。

そう呼吸

━━━━━━━


 「なあレイ、気ってなんだ...?」



「そうだな...今のお前に理解できる言葉で言えば呼吸だ、もちろんそれだけじゃないが今はそれでいい。」


 「そうか」


 「おーーい兄貴!置いてかないで〜!」


「お、ヤマ、悪い」

━━━━━━━

(走馬灯...ってやつか。)

今、フォンは思い出しながらも着実にそれを実行する。

 自らの硬化した肉体全体を共振の器として使い、コブラの背中にその振動を直接伝え続けていた。

 血が止まり、心臓がほぼ静止した極限状態だからこそ、純粋な物理振動が邪魔をされずに相手の深部へと浸透する。

彼はそう感じた。

 「ありがとな、コブラ」

「はあぁっ……はあっ……はっ、はっ、はっ!!」

 コブラの呼吸はますます速く、浅くなる。

急に訳もわからずに感謝されたことへの怒りか、違う。

すでに彼の肺胞が限界まで広がり、血管壁が薄く引き伸ばされるてはやがて細い血管が一本、また一本と内圧に耐えきれず、微細な出血を起こし始めていたからだ。

その証拠に肺の奥で小さな破裂音が連続し、口から血混じりの唾液が飛び散っていた。

 「くそ……っ! 何だこれは……この振動……!」


「お前はもう」


 「それを言うなあああ!まだだ!まだ王毒を当てられていない!未だに!あれさえ当たれば俺は俺は!」


 「来いよ!」

(じゃあねぇと最初のように最大威力となる拳が当たらんだろう、受動的な振動じゃたり)

「ふざけるな!ふざけるな!なんでそこまでお前は頑丈で頑丈で!なんで話なんか!よくもおおおお!」

「来い!」

 「くそがああああああああおおおおお王毒:相柳!」


「受けてやる、拳でな!」


 「それ以上話すなあああ!相柳!」

「活気滅殺拳!」


 「りゅう!」


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