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魔法使いの弟子、のはず ~その依頼、魔法を使わず解決します~  作者: 茅@溺愛超え発売中!


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毒か薬か 3

「あんた! 先生連れてきたよ! あたしの声が聞こえるかい?」


 ダイニングの床に倒れた肉屋の店主は、顔色が悪いのに汗をびっしょりかいていました。


「……きもちわるい」


 朦朧としているのか、会話が成立していません。


「――脈が速く、震えもあるな」


 さっと周囲を観察した見たルカは食卓に目をとめると、状況を理解して店主の口にポケットから出した飴を放り込みました。


「ちょっと! それ薬じゃなくて飴玉だろ! あんた一体なに考えてるんだい!」


「旦那さんは低血糖です、血糖値が回復すれば症状は治まります。糖尿病の治療を開始するにあたり、ご本人には低血糖の症状も対処法も説明しました。できればご家族にも説明したかったので、診察に同席していただくようお願いしていましたが、結局今日までお会いできませんでしたね」


「え? あ――」


 思い当たることがあるのか、女将さんは気まずそうに黙り込んでしまいました。



 数分後。店主はまだ顔色が悪いものの、椅子に座って会話ができるほど回復しました。


「どうして倒れたか、わかりますか?」

「そ、その――こいつだ! こいつに塗られた薬が原因だ!」


 ミカエルと目があった店主は、包帯が巻かれた腕を突き出しました。


「へえ。亜鉛の軟膏で低血糖になったと」


 目を細めるルカに、店主はミカエルからもらった軟膏を見せました。


「ずいぶん真っ白な薬だね――そういえば、前に白粉に含まれる金属が原因で死ぬと聞いたことがあるよ!」


 勢いを取り戻した女将さんも加勢しました。


「それは鉛の話ですね」

「これもそうなんだろ!」

「亜鉛と鉛は別物ですよ。亜鉛は体に必要な栄養素で、鉛は有害物質です」

「え――」

「白粉に含まれていて問題になったのは鉛。彼が作った軟膏に含まれているのは亜鉛。この軟膏が白いのは、酸化亜鉛が白色で蜜蝋も黄みを帯びたベージュ色だからです」


 そもそも昔、鉛が白粉に使用されたのは、白くてきめ細かい仕上がりにできたからです。

 見た目が鉛に似ていながら、異なる金属であることから、オズテリアでは亜鉛と呼ばれていますが、国によってはこの二つは全く違う名前がつけられています。


「でっ、でも金属だろ。体に良いとは思えないよ」

「このお店で売っているレバーは鉄分が豊富で、貧血に効果があります。牛乳に含まれている骨の基になる成分など、意識していないだけで、僕たちは食材に含まれる金属を日々摂取しています。水銀のように毒にしかならないものもあれば、薬になったり体に必要な金属もあるんですよ」


 ミカエルにかけられた冤罪を晴らしたルカは、卓上に手を伸ばしました。


「これは昼食を食べ終えた皿ですね。隣にあるのは僕が処方している血糖を下げる薬です。空の薬包紙が二枚あります。一回一袋の薬なのに、一度に二回分飲みましたね。何故ですか?」

「うっ……」


 周囲の視線が突き刺さり、観念した店主は「普段飲むのをサボっていたけど、受診日が近いことに気付いて、検査で良い数字を出すために倍飲んだ」と白状しました。

 ミカエルとラファエロのやり取りを見て、自分も結果が悪ければ怒られると思ったとのことです。



「……どうやら誤解があるようですね」


 店主の予想は外れ、ルカは怒りませんでした。


「怒られたくないから治療する、というのがまず間違いです」


「あんたの前に居た医者は、受診が遅れても責めなかったし、薬飲まなくても怒ったりしなかったぞ!」


「その結果どうなろうが自業自得だと考えるタイプだったんでしょう。僕たち医師は治療を求められたら拒否してはならないとオズテリアの法で定められています。つまり来るもの拒まず。患者を選り好みしてはいけないだけで、積極的に患者を治す義務はありません」


 ちなみに差別を禁じているだけであり、奉仕活動ではないので、支払い能力の無い相手は拒否できます。


「は!? 患者を治すのが仕事だろう!」


「正確には『治したいと願う者の力になる』のが仕事です。どんな薬を出そうが、本人が飲まなければ意味はないし、僕たちに強制的に飲ませる力もありません。自己判断で通院を中断しようが、治療に不真面目だろうが何も言わない医師は、患者の選択に口出ししない主義なだけです」


「……」


「健康診断も、持病の治療も、長年使用している体を手入れする行為です。あなたが商売道具の包丁を使用後に洗って、切れ味が落ちたら砥ぐのと同じですよ。この世で一番あなたの体を大切にできるのは、持ち主であるあなたなんです。日々の服薬は、検査で良い結果を出すためじゃない。替えのきかないあなたの体を労るためにすることです」



「……その。悪かったな。色々と」


 ルカを見上げていた店主は、チラリとミカエルを見ると素直に謝罪しました。


「わかればいいんです。ちなみにあなたは、前回は十二日、前々回は十六日、受診が遅れていますね。折角なので、この場で残薬がどのくらいあるか確認します。ついでにご夫婦揃って治療への理解が浅いようなので、病状の説明から日々の生活指導までしっかり行いましょう。なあに、今日の午後は休診予定だったので、時間はいくらでもあります」


 ルカの提案に、夫だけでなく妻の顔色も悪くなりました。

 これは全部終わるまでお帰りいただけないパターンです。


「糖尿病は食生活も重要です。お店の定休日に往診すれば、受診遅れも解消されて、食事内容も確認できますね。ちなみに先月まで鍛治師のディエゴさんを同じように指導させていただきましたが、見事禁酒に成功しました。『酒を美味しいと思えなくなった』と、今では晩酌の代わりにカモミールティーを飲んでいますよ」


「ひぃぃ」


 実は甘党の店主は震え上がりました。

 ディエゴと店主は、かつて飲み仲間でした。過去形なのは、ある日ディエゴが酒場にやってこなくなったからです。


 先日、久しぶりに姿を見せたと思ったら、「女房よりも愛している」と豪語していたエールを一口飲んだ途端、悲しげな顔をして帰ってしまいました。

 それ以降、彼が店に来ることはありませんでした。


「俺の血は酒でできてる!」と言っていた男の変わりように、店の常連たちは戸惑ったものですが、まさかルカに調教――もとい教育的指導を受けた結果だとは思いませんでした。

 ディエゴと同じ道を辿る自分を想像して、店主は涙目になりました。

 女将さんの方も、毎週献立をチェックすると宣言されて、先ほどの夫以上の冷や汗をかきました。


「……だからコイツ苦手なんじゃ。加減を知らんのじゃもん」


 善意で言っているうえに、口先だけで終わらないので逃げようが無いのです。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

誤字脱字の報告も助かっています。


【私の面白いと世間の面白いズレてる?症候群】に陥っているので、評価、ブックマーク、感想など頂戴できたら心強くあれます。

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