閑話:ある職人の話
50話突破したので、今回は閑話です。
「作るのは、布の服系で水干をポケット多めで。
服の色は白地で、両胸に五芒星型の刺繍ですね?
布に使う素材はどうしますか?
布とは言ってますが、金属から布に素材変換もできますから
少し重くなりますけど、防御力を上げることもできますよ。
え?
はい分かりました、お任せですね。
刺繍に使う糸の素材や色はどうしますか?
例えば、そうですね。
私のこの服だと、蜘蛛の黒糸で刺繍することで
毒・麻痺に耐性を持たせてますし
同じ蜘蛛でも白糸なら他の糸には劣りますが、
全ての状態異常に耐性が付きますし
青糸でしたら凍傷だけですが完全無効化とMPの回復速度が微妙に上昇しますよ。
でも、天虫の赤糸の場合の方がですね・・・」
個人的な所用で懇意にしているギルド”小人の鉄床”を訪れた少女は
ギルドマスター経由で1つの依頼を受ける。
彼女はあらゆる素材を使いこなし、
時には法則すら無視して防具を作り出す。
防具作成に特化した彼女は、誰もたどり着ける筈がない領域に
偶然とは言えたどり着いてしまった、この世界にたった1人の職人。
彼女はそれを理解しているからこそ、余程の事情がなければ依頼を拒まない。
そして、彼女は職人であるからこそ
作る時は己が出しえる全てを賭けて、最高の物を作り出そうと努力する。
彼女が依頼を拒む時。
それは、大きく3つに分けられる。
1つ目は、分を弁えず身の丈に合っていないことが明白な時。
依頼した時に身の丈に合っていないことが明白であっても、
いつか装備できるよう、目標として持っていたい
と言われれば、彼女は多少の装備制限を付けることを条件として依頼を受ける。
しかし、金に糸目は付けないから
最高の防具を作れという依頼に、ある時を境に決して応じることはない。
そんな輩は、彼女作の鎧の防御力を己の力と誤解した挙句、
余計な騒動を起こすからだ。
そして、そんな輩は後で難癖をつけてくると相場が決まっている。
実際、防具作りだけでゲーム内での生計を立てていた頃に
難癖をつけられたのも1度や2度ではない。
そんな彼女を救ってくれた人物の1人が、大手生産ギルド ”小人の鉄床” を
当時は立ち上げたばかりのギルドマスター玉鋼である。
”小人の鉄床” に加入し、玉鋼を介して依頼を受けるようになってからは、
玉鋼が合格を出したプレイヤーしか彼女に制作依頼を出すことが出来なくなっていった。
それ以降、仕立屋さよは玉鋼に全幅の信頼を寄せている。
その信頼は、ドクターに請われて
”小人の鉄床” から ”ピンクボム” に移籍した今となっても揺らぐことはない。
2つ目に、他の職人を不当に貶められた時。
彼女は、他の職人を貶めるプレイヤーの依頼に応じない。
彼女からすれば、『自分は偶然、他の職人よりも多くの物を作り出せる職にいる』だけなのである。
故に、他の職人達と同じ物しか作れなかったなら、
その自分は他の職人と同等であり、他の職人達は自分と同等なのである。
それは、彼女にとって『他の職人を貶めることは、自分を貶めることと同等だ』ということに他ならない。
彼女は、誇り高いというわけではないが、馬鹿にされて黙っていられるほど大人しいわけでもない。
玉鋼がOKを出したプレイヤーであっても、断ることにしている。
この点に関しては、玉鋼も納得している。
もっとも、力尽くで彼女を従えることが出来るとしても、
彼女のスキル【重装甲】に依る、異常な程の防御力の前に
彼女にダメージを与えることが出来る筈もないのだが。
彼女を知る者が付けた二つ名『走れる鉄壁』は伊達ではない。
彼女自身、本職こそ生産職だが盾役としても本職以上に活躍できるのである。
そして3つ目に、専属契約を結びたいと言われた時。
彼女は専属契約を結ばない。
彼女の考える専属契約とは、
『第三者を介さずに、一定期間以上に渡って、特定の個人あるいはギルドに防具を提供すること』
である。
個人的に何度か彼女に依頼をするだけなら、
『単なる顧客』から『お得意様』にジョブチェンジするだけなので問題ない。
しかし、特定の誰かあるいはギルドが
『誰々、何処々々(どこどこ)のギルドには防具を作らないで欲しい』
などという依頼を出した場合、その依頼人は『顧客』どころか『邪魔者』に成り下がる。
その誰かの依頼によって、特定のプレイヤーやギルドに防具を渡さなくなっていけば
繰り返していけば、最終的にその誰かプレイヤーと専属契約を結んでしまうことになるからである。
これだけは、さよが恩人と仰ぐ玉鋼がマスターを務める ”小人の鉄床” であっても例外ではない。
一度、玉鋼の預かり知らない所で、商売根性を出したギルメンがやらかしてしまったが
玉鋼が知った瞬間にキャンセルを入れたことがあった。
ギルメンからすれば、
「売れるんだし、ギルド資産も増えて良いこと尽くめ」
程度の軽い気持ちだったのだが
玉鋼からすれば、
「相手がいくら恩義を感じていても、それを利用してまで儲ける気はない」し、
「儲けたいなら見合うだけの物を自身で作れるようになれ。」という思いがある。
自分を恩人と慕うさよを、妹分だと思っていたのかもしれない。
この一件で、さよは玉鋼から
「これ以上恩を感じる必要はないし、
あったとしても俺がそれを利用する気はないので
好きなように作って、好きなように売れ。」
という言葉をもらっている。
「俺はお前を頼ることはあっても利用はしない。
ギブアンドテイクでやっていこう。」
というつもりで玉鋼は言ったのだが、さよは
「好きなものを作って、好きな値段で売れ。」
と勘違いし、趣味に走った有り得ない防具を大量に生産した挙句、
それによってジョブレベルを上げ続け、
仕立屋というジョブを、ほとんど極めてしまったのだから始末に負えない。
さよの中で黒歴史として、文字通り封印している
3着の”大奥っぽい派手な着物”シリーズと、
5着の”魔法少女っぽいフリフリ衣装”シリーズが
それらの防具に該当する。
この一件以降、玉鋼から説教されたこともあり、
さよは特定のギルドに対して、必要以上に肩入れをすることも止めた。
この一件がなければ、”ピンクボム”に移籍することなく
さよ個人のスキルを利用するためではなく、さよ個人の力を借りるために
”小人の鉄床”から派遣されているという形になっていたかもしれない。
「はい、質問は以上です。
確認しますが、作るのは白の水干。
素材は金属系で、こちらにお任せ。
上半身、下半身装備だけで頭部装備は無し。
上半身は、オプションとして両胸に蛮蝶の紫糸で五芒星の刺繍。
期限は4日で、材料の持ち込みは無し。
予算は2つ合わせて30万G。
では、それまでに ”小人の鉄床” の玉鋼さんに渡しておきますので
当日、玉鋼さんに代金をお支払いの上、受け取ってください。」
かくして、彼女は今日も新たな防具を作りだす。
依頼人の想像を遥かに超える防具を。
紫五星の水干・上
防御+20/20
紫五星の水干・下
防御+20/20
セット効果
防御+10/50
全ステータス+13
麻痺完全無効
MP消費-7%
詠唱時間-8%
注:紫五星の水干は
上下を同時に装備していなければ、
これらの効果は発揮されない。
断っておきますが、
ネストは巣という意味あって、鉄床という意味ではありません。
巣=寝所=床 から。
生産職らしく、鉄床にした玉鋼がネストと言っているだけです。




