事件3-6 化けの皮
向けられた銃口、吸い込まれるような漆黒の穴に視線がくぎ付けになる。
ここ最近の私は、何故か詰めが甘い。バッドエンドを回避するために思考を巡らせ、死を恐れてやまない。なのに、なのに、死にかけている。「死ぬのが怖いときは死なない」そんな言葉を頼りに今まで生きてきた。なのに、刃先や銃口を向けられる。
ドスッと銃口を向けている奴が倒れた。まただ。また、奴に助けられた。暗闇から姿を現したのは、いつも来るなという私の言いつけを守らない、だが、そのたびに私を助けてみせる。紛れもない私の助手、星野凪。
「おい誰だ!」
物音を聞きつけ、科学室から人が飛び出してくる。星野はすっと地面に落ちていた拳銃を拾うと、そいつの額に銃口を向け、動きを制止させた。
「早く写真!」
私はその言葉にハッとし、城ヶ崎に撮った写真を送る。
「何だよおまっ…!」
星野はその男の股間を蹴り上げる。
「よし、逃げましょう!」
星野は拳銃を持ったまま私を先導する。
背後からの銃声。瞬間、頬に鋭い痛みが走った。咄嗟に物陰に隠れる。星野が私の頬にハンカチを当てて頬から流れる血を止めてくれた。
「かすっただけみたいです。ここからどうやって逃げましょうか…」
しょうがない、一度やり直すか…。いやしかし…。辛い。あの頭痛にも、吐き気にも、世界が歪むような不快感も、全て辛い。ここ最近、やり直しを多用しすぎてその感覚が強くなっている気がする。
破裂音とほぼ同時に高音の耳鳴りが内耳で反響する。横を見やると、星野が拳銃を発砲していた。
「何やってんだ!」
星野がなにか口を動かすが、耳鳴りで聞こえない。瞬間、星野に手首をつかまれ、外界につながる階段まで全力ダッシュを余儀なくされた。
私たちが学校の敷地を出た直後、遠くから聞こえていた甲高いサイレン音が、校庭に流れ込んできた。私たちはそれを横目に、タクシーを捕まえるとそれに乗り込む。
「もしもし、ちゃんと逃げれた?」
電話越しの城ヶ崎。
「ああ、なんとかな。それより、何で星野がこっちに来てること言わなかった?そもそも、なんで止めなかった?」
「しょうがないでしょ?気付いたらいなくなってたし、わざわざ連絡するには時間がなかったのよ。あ、防犯カメラの映像は唯が加工したから、あんたが面倒事に巻き込まれることはないと思うわよ」
そりゃどうも。そういって電話を切ると、横に座る星野を見やる。
「銃の使い方わかるのか?」
「え!?あ、その、本で読んだことがあって!」
本を読むだけで銃は撃てるものなのか。答えは否。昔、あいつに連れて行かれたハワイの射撃レンジ。9mm弾の豆鉄砲に俺は心底驚いていた。初めて実弾を撃つにしては、あの構えと目付は…。
「それと、昔練習したことがあるんです!」
なるほど、星野も昔海外で撃ったことがあるのか。そういえば、留学経験があると履歴書に書いてたな。
「そうなのか、だからか。それより、なんで撃った?当たったのか?」
「威嚇です!当ててもないですし…。私が撃ったから、逃げる隙ができたんですよ?」
まあ、犯罪なのは犯罪なのだが…。今星野を失うのは正直痛手だ。黒澤が私たちに関する証拠をデータ上からは削除してくれているおかげで、知らぬ存ぜぬは突き通せるだろう。
「厄介な事件だったな」
小さくつぶやくと、この事件について、頭の中で整理を始めた。なぜ、あんなカルト的なバカらしい依頼が、こんな事件に発展したのか。始まりは、あの掃除用具入れからだったか。




