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第1話 輝かしいあの頃 

序盤を少し読みやすいように改変しました!

「……来たな」


 冷たい風が肌を刺す。

 森のぬしの赤い闘志とうしに燃え、森に入ってきた四人をギロリとにらむ。

 

「こっちだぞ! 樹帝竜じゅていりゅう!」


 魔剣士ブレイドが剣を構え、地面を蹴る。


 迫りくるブレイドに、竜の爪が振り下ろされる。ブレイドは回避するが、大地は割れ、土煙つちけむりが辺り一帯に立ち込める。

 

 間髪入れず迫り来るもう一つの爪。ブレイドは二度目の攻撃を剣先で受け止める。


「〈電撃エレクティゼーレ〉!」


 魔法使いリーネが声を上げる。空が裂け、青白い雷光らいこうが落ち、樹帝竜の肩を貫く。


「危ない! リーネ!」


 樹帝竜は咆哮ほうこうを上げ、怒りに任せて翼を振りかざし、リーネに襲いかかる。

 透かさずブレイドが助けに入る。しかし、翼の端が彼のをかすめた。


「ッ!!」


 退化した翼はすでに飛ぶ力を失っているが、その硬さと表面の鋭い棘は凶暴だ。ブレイドの背中に血がにじんだ。


「我らが信心を捧げし神よ。我が偉大なる主よ。今、彼の者の創傷そうしょうを癒やし給え! 〈我らが女(ノイ キューラル)神の加護を(ヴァイセルグ ラート)〉」


 修道女アネットが両手を胸の前で合わせ、祈りを捧げる。淡い光が彼女の手から放たれ、ブレイドの背中へと吸い込まれる。すると、傷口が一瞬にして治った。


「アネット、感謝する!」


 アネットに礼を述べると、ブレイドは竜へとせまった。竜は鋭い爪で、それを阻止しようとする。


 剣と爪がぶつかり、火花が散る。


「うおおおお!!」


 ブレイドは両手で剣を持ち、攻撃を食い止める。しかし、相手はブレイドの何倍もデカい。徐々に押されていく。


 だが、それでいい。それで十分だった。


「今だ!! メアシス!」

「ブレイド、感謝する!! うおおおおお!!!!」


 勢い良く飛び上がった勇者メアシスが、竜の頭に向かって、剣を振り上げる。その雄叫おたけびに気づき、竜は顔を向けるが、すでに遅い。

 メアシスの剣が竜の頭を貫いた。竜は、脳天から青い血しぶきを上げながら、その場に倒れた。


「中々に手強かったな」

「でも、こいつがこの森の災いの原因だ。これで周辺の村への被害もなくなる」 

「しかし、メアシス様、このような寄り道をしていてよろしいのでしょうか?」


 リーネが杖を両手で持ち、少し気まずそうに言う。するとメアシスは彼女の方を向いて、ほほ笑みながら問いかけた。


「なぜそう思うんだい?」

「我々、王国勇者隊の役割は魔王討伐です。こんな地方の魔物討伐などは他の冒険者に任せるべきではありませんか?」


 王国勇者隊おうこくゆうしゃたい

 それは魔族領と国境を接する王国ーールクスリア王国において、国から公認され、金銭的援助を受ける者たちを指す。彼らの最終的な目標は、魔族たちの首領ーー魔王の討伐だ。


「そうだね。王国からお金を貰っている以上、僕たちはいち早く魔王を倒さなければならないのかもしれない」

「でしたらーー」

「でも、僕たちは『勇者隊』だ。そして僕は勇者を目指している。魔王を討伐することは勿論だが、救える命を救うこともまた勇者として必要不可欠なことだと、僕は思う」

「それは……」


 リーネはメアシスの言葉を聞くと、黙りこんだ。そんな様子を見て、メアシスはニコッと笑って続けた。

 

「それに魔王を倒した勇者が、効率厨こうりつちゅうで他の人助けは一切しなかった、なんて噂されたら、たとえ魔王を倒したとしてもカッコがつかない。ブレイドもそう思うだろ?」

「ああ。というかお前がもし面倒くさいとか言って、ここら辺の村人を見捨ててたら、俺もお前を見捨ててたよ」

「だろ? って、それは少し薄情はくじょうじゃないか!?」


 メアシスとブレイドのやり取りを見て、アネットがクスリと笑う。


「ブレイド君、それは流石に言い過ぎですよ。こんな見た目でもメアシス君は繊細なんですから」

「……それは僕が鈍感そうな見た目をしてるって暗にディスってるよね? まったく、二人とも辛辣しんらつだなぁ」


 メアシスは少し困った顔をして、頭をかく。

 

「いや、俺が勇者としておしているのは正義感にあふれ、『もう誰一人として傷つけさせない』とか、この上ない理想を高らかに語る、勇者メアシスだけだからな」

「おい、少しからかってないか?」


 メアシスが照れ隠しのように微笑する。


「勇者ってのは人類の希望だ。そんな存在が、高い理想の一つも語らず、現実的なことばっかり言ってたら、それこそきょうざめだろ?」

「ふふっ。私もそう思います。メアシス君のそういう所、とっても素敵だと思います」


「おいおい。二人して今度は俺をおだててるのか? リーネ、キミも何か言ってやってくれよ」


 そうやって、戦っては笑い合い、いつかメアシスの抱く理想を世界にもたらすために切磋琢磨せっさたくましていた日々。


 ブレイドには、それがひどく懐かしく感じられた。



◆◆◆



「なあ、メアシス、次の行き先なんだが……」

「ああ。その件については大丈夫。リーネがもう決めてくれたから」


 メアシスはブレイドの言葉をさえぎるように言った。その言葉に覇気はなく、どことなく冷たさが感じられた。メアシスの態度にブレイドが下唇したくちびるを噛んでいると、メアシスの横にいたリーネが口を開いた。


「ええ。次の目的地はブルー公爵領よ」


 ブルー公爵領。

 ルクスリア王国の公爵家であるブルー家の領地で、王国の北東方に位置する。魔族が実効支配する北方に隣接するため、魔族の侵攻を受けやすい土地だ。

 

「いや、それもそうだが、今はサール地方に魔族が出現して、大変なことになっているんだ。そっちの方を優先すべきじゃないか?」

「いいえ。ブルー公爵の私邸してい近くの牧草地帯で、魔素を多く浴びた家畜がオーク化して、暴れているの。そちらを優先すべきだわ」


 魔素を多く浴びた動物や植物が魔物化することはよくあることだ。しかし、オークは中ランクの魔物で、冒険者などでも対処できるため、軍や騎士団、ましてや勇者隊が出るほどのことではない。それにブルー公爵は私兵を二千人ほど保有する有力貴族だ。それらで対処できるはずだ。

 対してサール地方は山間部に位置しており、中小の街が点在する田舎。

 そんな所に、魔物よりもはるかに強力な魔族が来襲したとなれば、大きな被害が出ることは目に見えている。

 

「オークなんて公爵の私兵でどうにかなるだろ? それより、サール地方では強力な魔族も出て、騎士や民兵では抑えきれないくらいになってーー」

「黙りなさい! ブルー公爵家は王国でも有力な名家の一つよ。そんな偉大なる方が困っておられるのだから、そちらを優先すべきだわ。ねえ、メアシス様?」

「ああ。リーネの言うとおりだと思う」


 リーネに促されるまま、メアシスは言った。輝きを失った目に、感情の色のない表情、覇気のない声。

  

(ああ。まただ)

 

 ブレイドは心の中で呟いた。悲しみと憤りの混じった感情がブレイドを襲う。ここ数ヶ月の内に、メアシスは変わってしまった。まるで別人かのように。


「メアシス! なぜだ! サール地方には魔族も出てるんだぞ! あそこの騎士や民兵だけじゃ対処しきれない! 彼らを見殺しにするつもりか!?」

「そんな辺境の地のことは現地人たちに任せておけばいいわ。私たちは王国から金銭的援助を受ける、王国勇者隊よ。私たちが第一にやるべきことは王国の有力者を助けること。そうすれば、メアシス様への信頼は増し、他の勇者隊よりも多く援助を得られるわ」

「彼らだけじゃあ、もう保たないと言ってるだろ! 何だ? 平民は見捨てて、貴族にびるっていうのか!?」

「二人とも、喧嘩はやめてください!」


 ブレイドは怒りに任せて、毒づいた言葉を放った。アネットが制止しようとするも、二人の争いは止まらない。


「有力な支援者パトロンを得れば、それだけ装備や情報、その他様々な支援が得られるのよ。私たちのすべきことは、メアシス様がどの勇者隊よりも早く魔王を打ち倒すことができるよう、最大限に支援すること。真剣に勇者を目指すのなら、"小さなこと"ではなく、"大きなこと"に気を配らねばならないわ」

「お前が勇者を語るな! メアシス……! お前はどうなんだよ!?」


 ブレイドは、メアシスに最後の希望をぶつけた。昔のように、途方もない高らかな理想を、その口から聞きたい。そう強く思った。

 

「リーネの言う通りさ」


 だが、返ってきたのは冷たい一言だった。その目はかつての理想や思い出など、まるで映っていないかのように、空虚で冷やかだった。


「ッ! ……そうかよっ!!」

「ブレイド君……!」


 怒りにまかせ、バンッとドアを勢いよく閉め、ブレイドは部屋を後にする。アネットの声が虚しく響いた。


(どうしちまったのかな……)

 

 ブレイドは自室に向かって歩きながら考える。メアシスはあんな奴じゃなかったのに。どうして、あんな風になってしまったんだろうか。頭の中でぬぐいきれない疑問がグルグルとうず巻く。


 数ヶ月前から、メアシスはどこか冷たい態度を取るようになった。その変わり様は、まるで人格が変わってしまったのかと思うくらいで、ブレイドやアネットと冗談交じりの会話を交わすこともなくなった。


「それにあれは……」


 ブレイドには、もう一つ気がかりなことがあった。メアシスの背後に白いモヤのようなものが薄っすら見えるのだ。気のせいと言われればそれまでの、かすかなモヤがここ数ヶ月、ブレイドの目には見えていた。


「……考えても仕方がないか」


 ブレイドは自室へとたどり着き、部屋のドアを開ける。


「……?」

 

 すると、棚の上に手のひらサイズの水晶玉が置かれていた。水晶は魔力を消費することで、相手にメッセージを送ることができる道具だ。ブレイドでも扱えるが、彼は自身の水晶を持っていない。誰かがブレイドの部屋に置いていったということになる。

 魔法が使えるのはアネットか、リーネだ。


(だが、どうして俺の部屋に……?)


 ブレイドは水晶へ手を伸ばした。


「うわっ!?」


 水晶玉を手に取った瞬間、禍々《まがまが》しい文様が浮かび上がってきた。


「な、なんだこれ……?」


 一目見ただけで恐怖を感じさせるオーラ。その文様は他の者に内容を見られないよう施される封印魔法ふういんまほうのように見えたが、それが放つオーラは、とても人間のものとは思えなかった。

初日は3話、更新予定です。

導入ですが、追放をしっかりとしたものにしたかったので、少し長くなってしまいました。中途半端な所できりたくなかったので、2話くらいまで長いですが少々お付き合いいただけると幸いです。


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