表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/113

第87話 継承の鏡―光莉の外側― 第4話 光莉の本

1. 書くべきもの


光莉は、十年の旅で出会った人たちのことを書いた。父・拓、母・瞳、純、康介、E、沙織――。


でも、それは「誰かの物語」ではなかった。彼らから学んだことを通して、自分自身の「核」を探す旅の記録だった。


彼女は、最後の章でこう書いた。


父の核について


父は、小さい頃から「なぜ自分だけ」という問いと向き合ってきた。それは傷つくことだった。でも、その傷から何かを学んだ。何かを感じ取った。


「比較」しても答えは出ない。それなら、「比較」をやめればいい。「自分は自分」――それだけ。それが、父の核の始まりだった。


でも、それだけではまだ脆い。父は、その核を育てる方法を探した。演劇サークルで「核があればどんな自分にもなれる」ことを知った。裏アカウントで、「誰にもバカにされたくない」というコンプレックスで核を鍛えた。表の大人の世界とは違う、欲望丸出しの世界で、自分の核を試した。


そして、炎上してすべてが曝された時、父はようやく「これが自分なんだ」と受け入れた。


父の核は、決して生まれ持ったものではなかった。自分を守るために、固い殻を内に作った。それは決して強くはない。でも、考え抜いた深みはある。それは脆さの裏返しであり、優しさの別の形でもあった。


父は、「わからない」と言い続けた。それは逃げではなかった。相手に委ねるための、沈黙だった。何も言わないことで、相手が自分自身で答えを見つけることを信じていた。


私は、父の核を探す旅を始めた。でも、その先にあったのは、自分の核だった。


自分自身の核について


父は「わからないまま」を選んだ。でも、私は違う。


私は、「わからない」ことを「わからない」ままにしない。わからなくても、考え続ける。問い続ける。それが、私の選んだ道だ。


父から「書くこと」を学んだ。母から「受け入れること」を学んだ。純から「誤解と向き合うこと」を学んだ。康介から「見守ること」を学んだ。沙織から「描き続けること」を学んだ。Eから「普通でいること」を学んだ。


でも、それらは全部、「私」になるための材料に過ぎなかった。


私の核は、それらを全部混ぜて、自分なりに発酵させ、時間をかけて熟成させた先に、ようやくできたものだ。


それは、父の核とも、母の核とも、違う。誰かのものではなく、私だけのもの。


でも、それでいい。


「自分らしさ」とは、完成形ではない。生きている限り、変わり続けるものだ。今日の私が、明日の私に「これが私だ」と言えるかどうかは、わからない。


でも、それでいい。


わからないから、考える。考え続ける。それが、私の生き方だ。


光莉はノートを開き、これまで書いてきたことをゆっくりと振り返った。

ただ、自分が感じたことを、見たままの違和感を、そのまま残しておきたいと思った。

出会った人たちに読んでもらえたらいいな――

そんな気持ちで、彼女はページを埋めていった。

特別なものにするつもりはなかった。ただ、感謝の気持ちを形にしてみたかっただけだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ