第20話 彼女の背中 第4話 “消されたはずの証拠”が残っていた
前回のお話、お読みいただきありがとうございます。第20話 彼女の背中 第4話です。
拓は、最近の純の変化に気づいていた。
彼女が、誰かと楽しそうに話しているのを何度か見かけた。以前はあまり見せなかった表情だ。
「純、最近なんか楽しそうだな」
ある日、声をかけると、純は少し驚いた顔をした。
「そうですか?」
「うん。前はもっと、何か肩肘張ってた感じがしたけど」
純は、少し考えてから言った。
「新しい友達ができたんです。同じ趣味の」
「趣味?」
「はい。『観察』するのが好きで。それを一緒にやってくれる人がいて」
拓には、その言葉の意味がよく分からなかった。
でも、その瞬間、胸の奥にちくりと何かが刺さった。かつて、純が自分だけを「観察」していた時代。あの、少し危うくて、でも独占されている感じが、自分の中で特別なものだったことに、今さら気づく。
「そうか……良かったね」
口ではそう言いながら、心のどこかで「自分だけの純」が消えていくのを感じていた。それは所有欲でもなく、恋愛感情でもない。ただ、あのカフェでの対話が、自分だけの特別な思い出ではなくなっていく寂しさだった。
でも、純の目が、以前よりもずっと澄んでいるように見えた。
「あの子は、前に進んでるんだ」
そう思うと同時に、自分は進めているのかと問う自分がいた。
その夜、拓は久しぶりに裏アカを開いた。純からのメッセージが来ていないか、無意識に確認していた。来ていない。当たり前だ。もうあの関係じゃない。
でも、過去の投稿をスクロールしながら思う。あの頃の自分は、少なくとも「隠すこと」に誠実だった。今の自分は、隠しながら「普通」を装っている。どっちが本当の自分なんだ。
「何を期待してるんだ」
自分に呆れて、アプリを閉じる。
瞳が、隣で静かに寝息を立てている。その寝顔を見ながら、拓は思う。この穏やかさが、いつか崩れる気がしてならない。そんな予感が、時々、胸をよぎる。
そして、その予感の正体が、「自分が崩すかもしれない」という恐怖だということに、まだ気づいていない。
その無自覚なまなざしの先で、静かに何かがほころび始めていた。
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