第106話 彼女の傍観者 ―拓の窓― 第4話 純の小説を読んだ夜
『彼女の計画』に書かれていた「拓」は、確かに俺だった。同時に、俺じゃなかった。
純はいつも、俺のことを見ていた。でも、彼女が見ていたのは、本当の俺ではなかった。彼女の頭の中で育てられた「拓」――それは、俺の知らない顔をしていた。鋭く、時に残酷に、人間の本質を捉える。彼女の目はいつも、誰かの奥を覗き込んでいた。俺もその例外ではなかった。
でも、彼女の何かは、俺の奥には届かなかった。彼女が求めているものと、俺が持っているものの間に、どうしても埋まらない隙間があった。それは、彼女にとっては戸惑いであり、同時に魅力的な「未知」だったのだろう。
振り返れば、俺はいつも「見られること」を求めていたのかもしれない。誰かに見られて、認められて、そこに自分の居場所を見つける。それが当たり前だと思っていた。でも、純は違った。彼女は見る側だった。でも、彼女の見た「拓」が俺じゃなかったと気づいたとき、初めて自分が何かを「見られていない」ことに気づいた。
あの夜の感覚が、今この文章を書く原動力になっている。自分の中にあった見えない何かが、初めて言葉になった瞬間だった。それが、小説ではない。ただの、自分のための記録。誰に見せるでもなく、ただ自分がここにいたという証として。




