表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/113

第100話 彼女の継承者 ―光莉の選択― 第7話 光莉の選択 ― 感謝を形に ―

すべての人に会い終えて、光莉は自分の部屋に戻った。


十年の旅の末に、もう一度、彼らに会いに行った。

父の穏やかな背中、母の優しくなった視線、康介さんの静かな庭、純さんの鋭くも温かい目、沙織さんの線を引く手、Eさんの孫と遊ぶ笑顔……。


十年の旅の中で初めて会ったときとは、心の置きどころが違っていた。あの頃は「知りたい」という気持ちが強かった。今はただ、感謝を伝えたかった。


光莉は机の上に、これまで書いてきたノートと、彼らに宛てて書いた手紙やメールの控えを広げた。


父への手紙。

母へのメモ。

康介さんへのメール。

純さんへの短いエッセイ。

沙織さんへの手紙。

Eさんへの素朴な感謝の言葉。


どれも、特別なものではなかった。

ただ、感じたままを、素直に書いたものばかりだった。


十年の旅で得た想いを、ようやく言葉にできた気がした。


(みんなに、会えてよかった)

(前とは違う気持ちで、ちゃんと感謝を伝えられてよかった)


光莉はゆっくりと息を吐いた。


ただ、自分が感じたことを、見たままの違和感を、そのまま残しておきたいと思った。

誰かに読んでもらうためではなく、出会った人たちへの、ほんの小さな感謝の気持ちを形にしてみたかった。


彼女は古いノートパソコンを開き、これまで書いてきた原稿をもう一度読み返した。


そして、ゆっくりと新しいファイルを作った。


タイトルは、シンプルに。


『彼女の継承者 ―私が見た家族の物語―』


光莉はキーボードを打ち始めた。

指先が、わずかに熱を持っているような気がした。


一文字一文字、丁寧に打ち込んでいく。


特別な本にするつもりはなかった。

印刷屋に頼まず、自分でプリントして、ホチキスで留めただけの、とても素朴な冊子でいいと思った。


それが、ようやくできた。


光莉は完成した冊子を手に取り、そっと表紙を撫でた。

沙織さんに描いてもらった似顔絵をコピーして貼った表紙は、少し歪んでいたけど、それがちょうどよかった。


(これを、みんなに手渡せたらいいな……)


窓の外では、夜の光が静かに揺れていた。

父がいる。母がいる。康介さんがいる。純さんがいる。沙織さんがいる。Eさんがいる。

そして、この冊子をいつか手に取るかもしれない誰かがいる。


光莉は小さく微笑んだ。


指先の熱は、まだ少し残っていた。

それは、十年の旅の終わりと、新しい何かの始まりを、静かに告げているようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ