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正義の味方の1人娘ですが、悪の組織に就職しました ~今日も脅迫動画を父に送ります!~  作者: うちうち


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(おまけ)「莉名もついに男友達を家に連れてくるようになったのね……」

 この前、屋上で飛んだのを白河くんに見られてから、気になることがある。



 白河くん、めっちゃ見てくる。俺は廊下で、もはや相棒となった『罪と罰』で顔を隠し、そっと教室内の様子に耳を澄ませた。音で誰が何をしているかはだいたい分かる。教室の中で椅子がきしむ音、ページをめくる音、ペン先がノートに触れる音。その向こうに、さっきからずっとこちらに向けられている視線の気配がある。



 やはり間違いなく、白河くんは俺をガン見している。……やっぱり夢で済ませるのは無理があったのか……? この前なんて、真顔で鉄の棒を俺の前に差し出してきた。食いつくとでも思ってか。「いや、何となく買ったんで見せてみたくて」と言っていた。1万4800円もしたらしい。金をドブに捨てておられる……!


 ともかく、しばらく目立たないようにしないと。








 というわけで、俺は教室に入らず、廊下の窓際で立ったまま本を開いているのだった。


……ところが。







「あんた、戸倉? ずいぶん調子に乗ってるらしいじゃない?」


 振り向くと、知らない女子生徒が腕を組んで立っていた。制服のリボンの色を見る限り、先輩だ。あまり感情を隠すタイプではないらしく、眉間に皺を寄せてこちらを見上げている。


 身に覚えはあった。さすがに『罪と罰』は調子に乗りすぎだった。でも知らない先輩にいきなり絡まれるほどなの? そんなに俺の文学少女は重罪だった……?


 そして、先輩からは「来な」と顎で示された。


「あの、本置いてくるのでちょっと待っていてください」

「いいから来て」








 仕方ないのでそのままついていくと、連れていかれたのは校舎裏だった。体育倉庫の陰になった細い通路で、片側には古い自転車置き場、もう片側には使われていない掃除用具入れが並んでいる。昼間でも薄暗くて、呼び出しイベントをやるには妙に雰囲気が整った場所だった。




 そこにはさらに三人の女子生徒が待っていた。制服のリボンを見る限り、やっぱり全員先輩。合計四人。


 リーダー格らしい先輩が俺の真ん前まで歩いてきて、腕を組んだまま顔を近づける。


「なんで呼ばれたか分かってるよね?」


 低い声で言われたので、俺は正直に答えた。


「すみません、文学少女は無理がありました……反省してます……」


 四人の表情が同時に固まる。「……はぁ?」という声が重なった。完全に「何言ってんだこいつ」という空気である。だが次の瞬間、その困惑は怒りに変わった。


「ちょっと目立ってるからって!」

「男子に色目使っちゃってさ!」

「一年のくせに!調子乗ってんじゃないわよ!」


 と、言葉が一斉に飛んでくる。

 あ、やっぱり俺、目立ってるんだ……。あと真ん中の人、それ心外です……! いつ!?





 そして、一人の先輩がいきなり手を振り上げた。ぱしっと風を切る音がしたので、俺は半歩だけ体をずらす。空振り。先輩の手のひらが空気を叩く。危ない危ない。たぶん大丈夫だとは思うけど、もし俺に当たって骨折でもされたらえらいことである。


 さて、どうしたものか。俺が後ろの校舎を超音波メスでいきなり5分割くらいにしたら先輩の態度も変わるかもしれないけど……。さすがにそれはヤバそうなので却下。とすると……うーん。





 俺が悩んでいるあいだにも、先輩方の怒りはどんどん盛り上がっていく。「これ見よがしにデカい本持っちゃって!」「その本ムカつく!」「文学少女とか痛すぎ!」と次々言われるが、そっちが「そのまま来て」って言ったのに……。あと『罪と罰』に罪はないと思うんだ。最後に関しては申し開きができない。






 そのときだった。「待って莉名ちゃん!」「早まるな!」という声が校舎裏に響く。振り向くと、森くんと櫻子ちゃんが走ってきていた。なぜか櫻子ちゃんは、大きな台車をガラガラと押してきていた。台車の上には大きなバケツと黒いゴミ袋とシャベル、ブルーシートが載っていた。





 2人は俺たちの様子を見るなり、そろってほっと息をついた。そして、「よかったまだ生きてる……!」「相手って最初から四人だった!?」と同時に確認してくる。なぜ人数を確認する必要が……? でも来てくれたんだ。ありがとう。




 すると先輩方は援軍が来たと思ったのか、「続きはまた今度よ! 覚えてなさい!」というやられ役の三下みたいな捨て台詞を残して去っていった。困った。この調子で何度も呼び出されると面倒だ。かと言って……俺って前世含めても先輩に校舎裏に呼び出されたことないから……どうしたらやめてくれるんだ……?








 とりあえず、家に帰った後、ニシャプール様に相談してみた。なんとなくだけど、ニシャプール様ってああいう経験ありそう。


 すると「舐められたら終わりよ。思いっきり怖がらせればいいの」と言われた。なるほど。


「1人ずつ潰せばいいんじゃないです?」と言ったのはマシロさん。彼女は、アメリカでフェイスシールドをやめたらしく、代わりに潜水服のヘルメットみたいなやつを被っている。意外にマシロさんの方が好戦的だな……。


 1人ずつ、怖がらせる……? いや、怖がらせるってどう……?


 と、とりあえず。いろいろやってみる?






* * * * * * * * * * * *





 白河(ゆう)には、気になって仕方がない相手がいる。


 女子生徒だ。名前を、戸倉莉名という。決して、そういう意味で気になるわけではない。確かにとんでもない美人がいるとは思っていた。自己紹介でちょっと困っていそうだったので、助け舟を出したら嬉しそうに笑っていた。見た目に反して不器用な子なのだと思ったのだ。その時は。






 そんな莉名は、ある日、屋上の柵の向こうにいて、焦った顔して振り向いて。そのまま、屋上から転落した白河の腕を持って空を飛んだ。そして、なぜか手すりに噛みついてバリバリと食い始めた。鉄をかじっていた。そのまま頭に羽(?)が生えて、ばさばさと羽ばたかせて空の向こうに消えていった。


 夢だ、と白河は思った。絶対に夢だ。夢以外にあり得ない。でも、手すりには、かじられた跡がはっきり残っていた。


 そして、当の莉名は「絶対夢だよ」「夢」「ゆめゆめ」と、会うたびに何度も言ってくる。怪しすぎた。いくら考えても、何が本当なのか分からなかった。



 夢だと言われすぎたせいか、夢の中にも出てきた。

 暗い廊下の向こうから、制服の莉名が、無表情でこちらを見ていた。

 目が合った。

 彼女は、にっこりと笑う。目だけが笑っていなかった。

「遊びましょ」

 白河は走った。どこまでも続く、薄暗い廊下を走った。でも足音が聞こえない。追いかけてくる音がしない。それが余計に怖かった。そして振り返ると、さっきと同じ距離に、同じ表情で莉名が立っていた。走っても、走っても。

 目が覚めた。

 翌朝、白河は目の下にくまを作って登校した。






 さらに莉名は、白河も知っているちょっと面倒な先輩たちにも絡まれていたらしいが……ある日以降、彼女たちは、莉名を見ると目を伏せ、足早に去るようになった。いったい何があったのか。いわく。


 「夜中、3階にある自室のカーテンを開けると、窓の向こうからこちらを覗き込んでいた」とか。

 「『わたしが男に色目使ったって具体的にいつのことですか』とずっと耳元で声が聞こえる」とか。

 「喧嘩自慢の彼氏をけしかけたら彼氏が四つ折りにされた(?)」などなど。



 先輩たちは、混乱したような証言を繰り返すばかりだった。そして、最後には「これ以上話したくない」と言って口をつぐんだ。よほど恐ろしい目に遭ったのだろう。




 

 さらに、中学時代の様子を情報集めしようとしたが、同じ中学からやってきたのは白河と同じクラスにいる森明宏と琴坂櫻子の2人しかいない。しかし、琴坂櫻子の方は、早々に探りを入れるのを諦めた。莉名の話を始めると、一瞬で真顔になったからだ。目が「殺すぞ」と言っていた気がする。あちらに深入りするのは危険だ、と直感が囁いた。





 それでも進めた調査の結果。

 集まったのは、信じられない話ばかりだった。


 同居人の女性が中学校の体育祭で100m走のあといきなり木に登りすぐ落ちてバラバラになったとか。次の日、その女性は普通にスーパーで買い物していたとか。

 その女性と同一人物かは不明だが、潜水服のヘルメットを被った同居人が、近所を徘徊しているだとか。

 人の頭蓋骨に穴を開けて脳を吸う巨大な蛾のペットを飼っているとか。





 そんな存在が、女子高生として高校に通っている。

 何か目的があるに決まっていた。




 それなのに、彼女は今日も、『罪と罰』を真剣な顔でじっと見つめている。白河は知っていた。3日前から、彼女の見ているページはまったく変わっていない。





 彼女はいったい何なのか。空を飛び、羽があり、手すりをかじる。妖怪か物の怪か。普通に考えて、そんなものがいるわけがない。白河は、幽霊も妖怪も信じないタイプだった。しかし、彼女が空を飛んだのも事実。とすると、あらゆる可能性を選択肢に入れる必要がある。



 ただ、いくら資料を当たっても、該当する妖怪はいなかった。「羽があって空を飛ぶ」「鉄をかじる」どちらか片方だけなら、いないこともないのだ。両方満たすものがいない。というか「鉄をかじる」は正確ではない。正直ちょっと逃げている。だって「手すりをかじる」妖怪なんて、いくら調べてもいないから。



 しかも、彼女の家には、彼女以外の怪しい存在がうようよしているという。





 白河は決断した。

 ここは、直接確認するしかない。

 そうでなければ、今日も同じ悪夢を見ないという保証はなかった。











「戸倉さん、ちょっといい?」


 白河が後ろから声を掛けたはずなのに、莉名は驚いた様子もなく振り返る。


「なに? 白河くん」

「今日、戸倉さんの家に遊びに行っていい?」

「えっ……嫌だけど……なんで……?」

「もっと仲良くなりたいから」

「そ、そうなの? えー? ど、どうしようかなー?」


 莉名は、普段の冷たい表情を変え、にへら、と頬に手を当てて笑った。嬉しそうで、それが意外だった。白河は、莉名からそういう異性めいた感情を向けられた覚えがない。普段よく向けられているからこそ、敏感に感じ取れるのでほぼ間違いない。とすると……? これは、食料が家にのこのことやってくることを喜んでいる……? まさか。






「あ!!! そうだ! いちおう家には連絡するね。いきなり来たらびっくりすると思うから」

「いいじゃん。びっくりさせてみない?」

「なんかすっごく楽しそうな提案してくる……うーん……まあ、いいかなぁ……」


 莉名は何度か首を振って悩んていたが、最終的には同意してくれた。「最近はにょろにょろしてないし」という謎の言葉も発しており、白河はそれを確かに脳内のメモに刻み込んだ。





 白河は、莉名と並んで歩き出す。


「というか、戸倉さんって実は『罪と罰』読んだことないだろ」

「今読んでるから!」

「どこ?」

「なんか、主人公が老婆を……」

「序盤じゃん」














「ニシャプール様! マシロさん! ただいま帰りました!」


 アパートの玄関で、靴を脱ぎながら莉名が奥に声を掛けた。すると、潜水服のヘルメットみたいなのを被った女性(?)がひょっこりと顔を出す。彼女(?)は、じっと白河の方を見た。


「莉名さん、おかえりなのです。そちらの方は?」

「えーっと……クラスの男子というか……」

「どうも。戸倉さんの友達です」


 とりあえず自分でも結構自信のある、爽やかな笑顔を向けてみた。

 すると、少しの間じっと見られた後、しているかどうかわからないくらいの会釈をされた。反応はそれだけだった。


「今のがマシロさんって言って、わたしの先輩っていうか、お姉さんみたいな人」

「みたいな……?」








「莉名! お帰りなさい!」


 続いて、奥から下半身がにょろにょろした金髪の女性が現れ、さっと引っ込んだ。あまりに一瞬すぎて、よく見えなかった。残像が見えるくらいの早さだった。







「莉名! お帰りなさい!」


 金髪の女性が両手を広げ、笑顔で走り寄ってきた。2本、足がある。足が、ある。白河は、じっと見つめた。さっきのは錯覚だった……?


「この人がニシャプール様。わたしのお母さんみたいな人」


 さっきと同じく「みたいな」という部分や「なぜ様付けなのか」という点は引っかかったが、白河は疑問を飲み込んだ。莉名の家族の話は非常に気になるが、玄関先でするにはデリケートすぎる話題だと思ったからだ。












「莉名もついに、櫻子ちゃんじゃなくて男友達を家に連れてくるようになったのね……」


 リビングで、オレンジジュースを出され。

 少し涙ぐんでいるニシャプール様(?)を見ながら、白河は考える。

 見た感じ、少々変わってはいそうだが……。彼女もこの家も、化物屋敷という感じではない。普通の家だ。やはり、自分の考え過ぎだったのか……?







 そのとき、頭上で「ぱたぱた」という音がした。そして、白河の頭にずっしりとした重みが乗った。見上げると、極彩色の羽がゆっくりと上下に揺れている。羽だけが見えた。しかし全体像が見えない。




 リビングの端に置いてあった姿見のことを思い出し、ハッと振り返る。


 見慣れた自分の頭の上には、1メートルくらいもある巨大な蛾がとまっていた。頭蓋骨に穴を開けて脳を吸いそうなサイズだった。









「あ、この子がモッちゃん。すごく賢くて可愛いんだよ」

「うわああああああああああああ!!!!!!」

「えっ!? なに!?」

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― 新着の感想 ―
埋める準備万端なの、会社なのにによによしちゃいました。
森くんと櫻子ちゃんは莉奈のことを目を離した隙に人を殺す化け物か何かだと思ってる…?悪の組織No.3なら当然か。 この小説のファンアート描きたい…
モッちゃんかわいそう……
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