5話 わがままお嬢の騎士団観光
はわわー、騎士がムッキムキですー!
十分王都を堪能し、ついに騎士団見学の日が来た。
騎士団の本部につくと、案内約の騎士クランが出迎えてくれた。街でも何度か見かけたが、やはり近くで見る騎士の鎧というのはいいものだ。ファンタジー系のゲームを嗜んでいた私的にはもうこれだけでも満足だ。これ以上見せられたら嬉しすぎてもう一回くらい転生できそう。
「まずはこちら、我々の訓練場です。素振りやペアでの模擬戦、さらに定期的に各隊の隊長による直々の指導もあります。残念ながら本日はありませんが」
非常に残念だ。隊長さんが「その程度では戦場に出たところで肉壁が関の山だぞ!」なんて怒鳴っているところを見てみたかった。さすがにそんなセリフは言わないかな?
「ははっ、シエラ様は興味深々ですね」
はっ、危ない危ない。こんなところママに見られたら確実に怒られる。
「ええ、国を守る騎士が普段どんなことをしているのか、興味がありましたの」
しっかり教えられたような口調でそう言っておく。
「それは光栄です」
この国の騎士式の敬礼をして、私に感謝を示した。やだなにこの騎士さんかっこいい。
「騎士はたくさんいると聞きますが、その騎士たちの装備はどうやって調達しているのですか?」
「はい、今では国王の指名した鍛冶屋のものを使っています。この数に予備分がありますから、相当
大変でしょうが、質を落とさず毎度納品してもらっています」
国王に指名されるとはよっぽど信頼されているらしい。その鍛冶屋にもいずれ出向いてみたいものだ。にしても、さすがに一人という事はないだろうけど、この騎士団全員分と予備分までしっかり用意するなんてどんな規模の鍛冶屋なのだろう。
「あれ、そう言えば騎士でも所属によって鎧が違うのですね」
ふと思った。紋章が違うのはまあ当然だろうが、鎧のデザインなどが全然違う。我がエイオス家の騎士と王宮騎士団で違うのは当然だが、王宮騎士団の中でも隊によって少し違う。
「よく見ておられますね。鎧はいわば制服みたいなものですから、所属がわかりやすいように各隊で少し変えているんですよ。それに、鍛冶屋によっても違いますからね」
「我々エイオス家の私兵はエイオス領の鍛冶屋が作った鎧なので、ここの騎士団とは大きく違いますな」
にしても結構デザインが変わるものなんだな。誰の趣味かはわからないけど、うちの騎士たちの鎧はデザイン重視な気がする。白馬に乗って助けに着そうな鎧だ。そして、王宮騎士団の鎧は多少の差はあるものの、どちらかというと重装歩兵といった感じの鎧だ。その鎧をまとって素早く動いている。筋肉すごそう。
「ちなみに、我が王宮騎士団の鎧は重たいので、これを着て戦うための鍛錬も相当厳しいものとなっています」
だろうね。筋トレだとかそういう次元じゃなさそう。新人の騎士なんてもう阿鼻叫喚の嵐なのでは。
「では、次に参りましょうか」
そうして私は、騎士団のいろいろなところを見学して回った。
だだっ広い食堂、武器庫、鎧を脱いで書類に埋もれる隊長らしき人、騎士が住む寮の部屋、少し離れた場所にある参謀本部、さらには対空部隊の訓練も見ることができた。
騎士が剣で打ち合う姿もなかなかかっこよかったが、対空部隊が弓と魔法を組み合わせて空からの攻撃や魔法使いを打ち落とす姿もこれまたかっこよかった。何がいいって、あの騎士達動きに無駄がなくて統率も取れているうえに、皆顔もいい。街を歩くだけで女性たちが寄ってきそうな顔だ。休憩に入って「疲れたな」なんて言いながら鎧を脱ぐ姿もとても眼福でした。
こちらに向かって敬礼をしてきたときはちょっとときめいた。
そんな騎士たちと、明日から五日間一緒に過ごすことになる。
これも私のわがままなのだが、せっかくだし騎士団の生活を体験したいと頼み込んだのだ。にしても、まさか実現するとは。
「ここが最後です」
最後に私が言った場所は団長の部屋だった。
「お初にお目にかかります。王宮騎士団団長、リグノールと申します」
「シエラ・エイオスですわ」
騎士団長というからどんないかつい人が出てくるのかと思ったが、意外と優男という感じだ。見た目からしても結構若そう。
「見学、楽しんでいただけましたか?」
「それはもう、堪能させていただきましたわ。あの重装備で身軽に動く騎士達、なかなか訓練を積まれているようですわね」
「ええ、国を守る要ですから。限界以上の訓練で常に上を目指しています」
何そのスパルタ。そしてそれについて行く騎士たちも本当に尊敬する。しかし、何年に一回くらいは筋肉モンスターみたいな騎士が現れていそうだ。
「さて、せっかくの見学、そして明日からの生活で使えるように、こちらを用意いたしました」
そう言うと、リグノールは部下に私サイズの鎧と剣を持ってこさせた。なんで私サイズの鎧を用意できているのかは気にしないでおこう。
「こちら、シエラ様専用の鎧と剣でございます。シエラ様ももう六歳、すぐに成長して使えなくなるとは思いますが、是非」
確かにもう来年には合わなくなっていそうだが、まあ服も鎧も子供にとっては大体そんなものだ。が、この鎧が着れなくなるのはちょっと悲しいな。
私専用というだけあって、当然サイズは私に合わせてあるのだが、どこから聞いたのかわからないが、私が好きそうなデザインになっている。
防御力はそこまで高くなさそうだが、弱点はしっかり守られている。
ライトノベルで見る女騎士の鎧を幼女サイズにしてみましたという感じでとてもかわいい。何なら普段来ているドレスよりこっちのほうが好きだ。
早速着替えてみるか。
「リグノール団長、どこか着替える場所はありますか?」
「それでしたら、こちらへどうぞ」
リグノールに案内された更衣室で、セナに手伝ってもらって鎧に着替えた。いや、これを鎧といっていいのかはわからないが。
剣は腰のベルトに下げている。
「我ながら最高に似合っているのでは」
「これは……旦那様には見せられませんね」
私サイズというだけで、デザインが明らかに大人っぽい。こんな幼女の身体で興奮する変態はそういないと思うが、太ももが出ていたり、下手に動き回ると下着まで見えてしまいそうなデザインになっている。まあこういうのも好きだからいいけどね。ただパンツ見られるのはさすがに恥ずかしい。
「あ、そう言えばこれを忘れていました」
白々しくそう言い、セナがスパッツをくれた。絶対ちょっともじもじしてる私を見たかっただけだよねこ
れ。セナまさか……いや、まさかね。
「ふぅ、なんか落ち着くね」
「ええ、下手に露出するよりはこっちのほうがいいですね」
「絶対セナがやらせたでしょ!」
「はて、何のことでしょう?」
やっぱりセナがやったんじゃないか。今度仕返ししてやろう。
「着替え終わりましたか?」
セナと盛り上がっていると、団長の声がした。
「こほん。ええ、今出ますわ」
すぐに外向けモードに切り替えて、更衣室から出た。
「おお、お似合いです、シエラ様!」
「ありがとうございます、リグノール団長」
「なかなか様になっています。これは、またその年になったとき是非またいらして、今度は正式に入団していただきたいものです」
「そういう道も悪くはなさそうですわね」
たまに親の営む声も聞こえるし、弟か妹に家を任せて騎士になるのもいいかもしれない。けど私にあんな重装備で戦う覚悟はないから出来れば今みたいな軽装がいいな。
「期待して待っていますね。それでは、本日はこれにて終了となります。この後はお屋敷へ戻られるのですか?」
「ええ、その予定で——」
「もしよければ寮の空いた部屋で過ごせたらと思うのですが」
セナのが答え終わる前に、わがままを言っておく。まだ私は可愛い六歳の女の子、しかも侯爵家の娘だしこの程度のわがままなら聞いてくれるはず。豪華な屋敷の部屋もいいけど、前世で一人暮らししていた時に住んでいたマンションを彷彿とさせるちょうどいい広さの部屋で寝泊まりしたい。
「申し訳ありません、一人用の空き部屋が不足していて……。二人部屋を一人で使っている女性の騎士がいるので、その方と同室でいいなら——」
「是非そちらに!」
「お嬢様、あまりわがままを言うものではありませんよ」
「大丈夫ですよ、むしろ二人部屋にシエラ様が来てくだされば寂しさも紛れるでしょうし。しかし、メイドの方はどうするのですか?」
「ねえセナ、騎士団の生活中だけでいいからセナなしで過ごしてみたいわ」
「ついに、姉離れですか……」
「ち、違うの! ただ、その……」
「申し訳ありません。わかっています、それも経験の一つですから。ただ、何か危険があれば騎士か私を頼ってください。一人でやろうとしないこと。いいですね?」
「もちろん、わかっているわ」
「では、私は屋敷に戻ります。何かあればすぐ駆けつけるので」
「わかったわ。それじゃあまたね」
屋敷に戻って駆け付けられるのだろうか。まあセナのことだから何かあったら私が呼ぶ前に現れそうだけど。それに、セナがいなくても騎士に囲まれているんだから大丈夫か。あとは同室になる女騎士さんがいい人だったらいいけど。
「よろしかったのですか?」
心配そうにリグノールが聞く。
「ええ、騎士の皆さんもいますし、私自身最低限の護身術は身に着けていますから」
護身術といっても必死に練習したちょっと強めの水魔法を当てるだけだが。まあ顔にでも当てれば逃げられるだろう。
「さすがはエムロス卿のお嬢様ですね」
さすが……って、そう言えばエイオス家はそれなりに武力があって、パパ自身も強いって聞いたな。そのうち私も剣術とか習うことになるのかな。
「では、部屋まで案内します」
私なら大丈夫だと納得したのだろう、リグノールが直々に部屋まで案内してくれた。
部屋について「今大丈夫か?」と聞いて返事をもらうと、リグノールがカギで扉を開け、部屋に入れてくれた。
「こちらが今日からシエラ様が住む部屋となります」
「二人部屋というだけあって広いですわね」
「なるべくいい待遇をという事で、セレネ殿下が支援してくださったのです」
セレネ殿下は確か対立する兄弟を傍観してるっていう王女様か。
「そして、現在ここで過ごしている騎士見習いのリシアです」
「団長、この子は……?」
鎧を着たままここに来たので誰か騎士の娘と勘違いしたのか、私をこの子といってしまったせいで、軽くではあるがリシアが団長にどつかれた。
「この方はシエラ・エイオス様だ。部下のご無礼、どうかお許しください」
「気にしないでください。そもそも私もこの格好です、貴族とはわからないでしょう」
「寛大なお言葉、感謝いたします」
なんだかこう貴族として扱われるのはやっぱりむず痒い。セナくらいのちょうどいい距離感が楽なんだけど。
「申し訳ありません、シエラ様。騎士見習いのリシアと申します。以後お見知りおきを」
「シエラ・エイオスですわ。騎士の先輩として、頼りにさせていただきますわ」
「はわわ、先輩……が、頑張ります!」
はわわだって、この子可愛いな。
「では、私は職務に戻らせていただきます」
「はい、ここまでの案内に素敵な贈り物、ありがとうございました」
「はっ、ありがたいお言葉——」
「ああ、そんなかしこまらないで、どうぞ職務に戻りください」
礼儀正しいけどちょっとめんどくさいというか、鬱陶しい。敬意を払うのはいいんだけど、正直私はまだ何もしていない、ただ貴族の家に生まれただけの人間だからここまでされるとなんだか申し訳なくなってしまう。
リシアをうまいこと使ってこの堅苦しい雰囲気を何とかできないだろうか。
「し、シエラ様、どうぞよろしくお願いいたします」
「ええ、こちらこそよろしくお願いします。しかし、ここではリシアさんのほうが私の先輩、もっと砕けた感じでいいですわ」
今は私も騎士団の一員としてここに居るのだ。先輩なら堂々としていいだろう。
「いえ、そう言うわけには……」
「私からのお願い、という事でどうか」
さらに、少し上目遣いで。
「わ、わかりました。では、なんと呼べば?」
敬語のままなのは恐らくもともとこういう喋り方だからだろう。
「普通にシエラとお呼びください。ああ、もちろん公の場では弁えていただけると」
多分リシアも相当怒られるし、多分私も一緒に怒られる。
「で、でしたら私の事もリシアと……。それに、敬語もいりませんから」
「ではリシア、これからよろしく」
「はい、こちらこそ!」
こうして、私の短い騎士団生活が始まるのであった。
はわわー、リシアちゃんはわわー




