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舞姫への試練

 人気のない山道で、現在位置が全くわからない――つまり、完全な迷子である。

 日が暮れてきて、だんだんに薄暗くなってくる。

 普通の女の子なら、心細くて泣き出してしまうようなシチュエーションだと思うが、セーラ皇女の意識は、暗くなれば灯りの魔法を打ち上げる事で救助を求める事ができる、と、ポジティブシンキングである。


(逞しいなあ)


 と、ぼくは、他人事のように、そんな皇女に感心して心の中で呟いた。

 休憩して体力、気力、魔力が、多少なりとも回復したせいでもあるだろう。

 さて、さすがに、いつまでも裸ではいられない。

 人目は無いし、この地域は暖かいので、このままでも構わないのではあるが。

 しかし、最近では、揉んだり弄ったりする意欲が減少しているんだよなぁ。慣れたせいだろうか。

 ――などと、つらつらと考えながら、シャツとスカートを身につけようと立ち上がった瞬間、目の前に魔法陣が展開した。


 転移魔法のそれの中から、侍女の姿を模した魔道人形が現れた。

 先刻に見たものとほぼ同じだったが、目に当たる部分に水晶が埋め込まれている。

 その魔道人形は、皇女ぼくを見ると、


「ほっほっほ、珍しい波動につられて来てみれば。いやいや、舞姫を志願するにしても、気が早い娘もいたものだ」


 と、笑い声をたてた。

 ユアと呼ばれた、あの、伝説の人形遣いの声だった。

 どうも、皇女ぼくが放った魔力を関知して現れたようだ。

 後から知った話だが、幻惑の魔法で、対魔物用にアゾナ周辺に結界を造ったものの、アゾナや、その周辺を訪れる人々もこの結界で近づけ無くなってしまった為に、通常の人間らしい魔力を感知したら、保護する為に、配下の魔道人形を送っていると後で知った。

 ちょっと大変そうな感じはするが、一度に多数の魔道人形を操るユアにとっては、容易い作業のようだ。


「さすれば、要望通りに、アゾナの奥院に通ずる試練の館に送ってやろう」


 よくわからないが、アゾナに転移されるようだ。

 ようやく、皆に合流できる……と、安心しかけたが、まだ、服も着ていない状態で、魔法陣に包まれたのには慌てた。


「ちょ、ちょっと――」


 魔力を感知しているだけなので、皇女ぼくの格好がわからなかったのだろうと、この時は、そう思った。

 しかし、実際には、この魔道人形は目に埋め込まれた水晶を通して、操者にその光景を映す、カメラ内蔵タイプとでも言うべき種類だった。

 魔力をいっさい持たない亜人の話を聞いて、このタイプの人形を、かなり大量に放ったと言うことを後で聞いた。

 つまり、人形遣いユアは、皇女ぼくの現在の姿を正しく視覚認識していたからこそ、さっさと転移先を選定したのだ。

 伝説の人形遣いは、じつは早合点な人でもあったようだ。

 そして、皇女ぼくが衣服の類を身につけるのは、かなり先の事となった。



 城塞都市アゾナ。

 楽神にして乙女の守護を司る女神アゾナの神殿都市でもあるこの都市の中心部に「奥院」は存在する。

 ソルタニア皇都のナウザー神殿奥院とは異なり、アゾナのそれは城塞内の城塞ともいうべき造りで、かなり高い壁に囲われている。

 この壁は、手がかりが全く無い、堅くてなめらかな――極端に言えば、つるつるした材質で出来ており、人間は元より、虫の類もここを登る事は不可能だ。

 結界魔法も使われているようなので、浮遊の魔法も無効化されてしまう為、鳥でもなければ、この壁を越える事は、まずもって無理だろう。

 奥院への出入りは、魔道人形によって厳重に警備された門のみであり、この門は“試練の館”と呼ばれる、いわば、出入りをチェックする検査専用の施設とセットで設計されている。

 従って、アゾナ神殿の奥院への入所を希望する者は、修行に耐えられるかどうかの健康状態を、検査された上で、この試練の館において、アゾナ神殿の巫女に当たる《アゾナの舞姫》に相応しいか否か、つまりは、穢れを知らない乙女であるかを審査される事となる。

 ただ、審査の内容については、経験者は一様に堅く口を閉ざす為、全く知られていない。


 ……と、言うのが、セーラ皇女の知識にあった話である。

 そして、皇女ぼくは、その“試練の館”における、審査を身を以て体験する事になったが、詳細の説明は割愛させて頂きたい。

 いや、ぼくは構わないのだが、セーラ皇女の意識が暴走というか、いつかのダークの鏖殺行動以上に抑制が難しい状態になりそうなのだ。


 詳細はさておき、簡単に言うと、奥院に入る資格――つまり「穢れ」を知らないのか、知っているのか、乙女であるのか、どうかを徹底的に調べるのが試練の館で行われる審査である。

 概要としては、被験者は、一糸纏わぬ状態で審査の女官に囲まれて、自分で広げさせられたり、女官に広げられたり、剥かれたり、剥かされたり、指を入れられたり、入れさせられたり、撫でられたり、まさぐられたり、道具を使われたり、その他、口に出しては言えないようなことをされまくるわけだ。


 満遍なく、上も下も、前も後ろも。

 途中でギブアップしたら失格で、最後まで耐えた娘が、アゾナ神殿が正式に「穢れを知らぬ乙女」と認めた舞姫候補者と言う事になるわけだが……しかし、なんだか、本末転倒な審査ではないだろうか。

 穢れをしらない娘に色々な経験をさせまくるような検査と言えなくもない。


 セーラ皇女の意識は羞恥と懇願の悲鳴を上げっぱなしだったが、ぼくは、これを耐え抜いた。

 まぁ、自分で揉んだり、いじったりするのもよろしいかったわけではあるが、他人から無理矢理に――と言うシチュエーションも、また格別である。

 相手が男ならばともかく、検査の女神官は、みんな綺麗なお姉様たちだったので、その意味では抵抗がなかったが、どうも、その反応が訝しく思われたらしく、後で聞いたところでは、歴代でも屈指のキツさの責め――じゃなくて、検査だったそうだ。

 まぁ、精神的にはともかく、肉体はセーラ皇女のものなので、最終的には、“穢れ無き乙女”である事は確認されたわけではある。

 こうして、ぼくはアゾナの奥院に入る事になったのだが、みんなに合流する為には、さっさとギブアップすべきだったと、この時になって気がついた。

 いや、色々と、堪能してしまったせいではある(てへ)



 アゾナ奥院において、巫女である舞姫とその見習いとなる娘には、一つの制約が課せられる。

 それは、衣服で体を隠してはいけないと言うことだ。

 アゾナの神事においての決まり事だそうだ。

 まぁ、大妙寺晶ぼくの世界では、例えば南インドのジャイナ教の坊さん……おっさんからじじぃの年代の、全て男なのだが、彼らは無所有と言う教義に従って、すっぽんぽん(うげぇ)で町中を歩き回っている。

 何も身につけていなかった皇女ぼくを見て、ユアが早合点したのは、そういう事情があったらしい。

 ちなみに、この(まことに結構な)制約は、アゾナ奥院、もしくは、それに準ずる施設における決まりであって、アゾナの巫女がどこでも全裸でいるわけでは無い。

 かくして、皇女ぼくは、仲間との合流や、あの深紅の戦士の調査も棚上げにして、この若い女性限定のヌーディストクラブとも言うべき施設で、しばらく過ごす事になってしまった。

 この時は、無論、この経緯が、ダークにとって重要な「アレ」を入手する事に繋がるとは、全く思いもよらなかったのだ。

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