01 - 2 パティエンス
ハルト様はセーレナ様の問いを受けこちらを見やり、指を折りながら語り始めました。
曰く「初代国王オルトゥスは聖女ソフィアに長く懸想し、あらゆる手段を持って手に入れようとした」
曰く「拒絶した聖女は高所から身を投げ治療の甲斐なく死亡したが、息を引き取る前に聖女の複製が六十四体作られた」
曰く「初めの一体はオルトゥスの妃となり、それ以降は次代が戴冠する度一体ずつ供与された」
曰く「聖女ソフィアの能力は【未来予知】。その能力を複製にも期待したが発現しなかった」
曰く「【未来予知】はないが、積み重ねたデータから最善の方法を選択し処理する能力がある」
「前提としてはこの通りです」
初代国王の聖女への偏愛も、聖女が自死によって逃れようとした事も公にされておりません。
わたくしは動揺しました。
それにそもそも複製とは一体何の事なのでしょう。
「昨夕は聖女を模した情報を精査できる人形を供与されるが、受け取るか否かは陛下次第という事だけお伝えしました」
「ええ、そうですね。先のクレプスクルム陛下は受け取られたようですけれど、そうでなかった国王はいらしたのですか?」
「いいえ、ディルクルム陛下を含む六十三人全員が望まれました。ただし正妃ではありません。飽くまでも統治上の道具です。初代国王の意向で秘匿された存在となりました」
「ああ、それでわたくしはクレプスクルム陛下の人形を知らないのですね。あの、分からないのですが、複製とは何なのですか?」
「今の技術からは想像できないお話をしなければなりません。神殿の禁域を見ていただければ手っ取り早いのですが、とりあえずかい摘んでお話しましょう」
ハルト様はわたくし達を見て、薄く微笑まれました。
「建国縁起からも知れる通り、私達の祖先は流浪の民でした。
それは他の大地や国ではなく、星からです。
暗き海は光のない星空。船というのは星を渡る船です」
星を……渡る? 夜空の?
突拍子もない話に、わたくしとセーレナ様は顔を見合わせ首を振りました。
「船は千人余りを乗せたもので小さな都市がそのままあるようでした。
貴族や平民といった身分制度はありませんでしたが、元老院の祖となる指導者達がおりました。
初代国王オルトゥスはそのうちの一人、船の艦長でした」
「聖女様もその中に?」
「いいえ、彼女は機関室長の娘で船の中の教育機関の学生でした。
ただ、その頃から【未来予知】があり、小さな、本当に些細な予知をしていました。
ある日、動力トラブルの未来が見え、彼女の父親に知らせる為に機関室へ行ったのです。
オルトゥスはたまたまそこにいて出会ってしまったのです。
彼女の能力を知った彼はその力を欲し、手に入れようとしました」
ハルト様はまるで見てきたかのようにお話になります。
とても不思議に思いますが、今はそれを口にする時ではないので自制します。
「それからしばらくしてこの星にたどり着きました。
そしてこの場所が移住に適していると聖女によって示され、この地に降りたのです。
オルトゥスは建国と同時に国王となりました。
しかし、彼は唯一聖女の心だけは手に入れられず、悲劇が起きました」
「……身を投げられたと」
「そうです。そこでオルトゥスは私に命じました。『ソフィアの複製を作れ』と」
「あなたが? 千年前の出来事ですよね?」
「ええ。私はエンジニアでした。と言っても、この今の私は当時の私ではありません。
この体は【聖女の人形】よりもっとお粗末なまがい物です。
端的に言うとハルト・カツラギの記憶を植え付けられた機械です」
そう言ってハルト様はわたくし達に顔を近づけました。
「私の左目をご覧ください」
そこには金属的な細工が光っていました。
わたくしもセーレナ様も驚きを隠せません。
「私は本物のハルトに代わり六十四体の聖女の複製の管理をしておりました。
簡単に説明しますが、複製とは聖女の体の一部から情報を抜き出して、それを元に聖女と同じ体を作ったものです」
「そんな事が可能なのですか? そのような技術を何故今は目にする事が無いのですか?」
「これは星船の中だけにある技術です。元老院は科学を嫌いました。
ですが【聖女の人形】のために星船を維持しています。最低限の動力で」
ふ、と小さく息を漏らし一拍置いてからハルトは暗い笑顔をわたくしに向けました。
「でも、それももう終わり。六十四体目、最後の複製は放たれたのだから」
ハルト様は自分をまがい物の人形と言っていました。
──それは真実?
ふいにわたくしの体に怖気が走りました。




