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裏切られた勇者は”剣神”に至る ~魔力ゼロの落伍者が、魔法の世界そのものを斬り裂く~  作者: 青茶とうご
第二部:魔王の娘と新生魔王軍

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13/20

プロローグ

これから始まるのは、一人の少年が「勇者」という役割を剥ぎ取られ、世界そのものからこぼれ落ちていく物語。

その終着点であり、すべての始まり。

吹き荒れる雪の中、魔王の娘・ルナリエは、人間界最強と目される男「フウガ」の暗殺に動きます。

しかし、そこで彼女が目撃したのは、魔法も技も通用しない、あまりに「異質」な存在でした。

 吹雪。

 視界は白に閉ざされ、輪郭すら曖昧になる。

 音も、距離も、すべてが歪む世界。

 だが、その中に一つだけ。

 “異物”のように、はっきりとした存在があった。

 一人の男。

 薪を割っている。

 武器ですらない、削りかけの木の枝で。

 ――おかしい。

 振るうたびに、薪が断たれている。

 力任せでも、技でもない。

 もっと別の何か。

(……これが)

 報告にあった特徴と一致する。

 剣を持たず、それでも斬る男。

 勇者、フウガ。

 初めて見るはずなのに。

 妙に納得してしまう。

(なるほどね)

 これなら、魔王を殺せる。

 だからこそ。

 ここで消す。

「――勇者、フウガ」

 声を投げる。

 吹雪の向こうで、動きが止まる。

 ゆっくりと、男が振り向く。

 視線が合う。

 それだけで分かる。

 間違いない。これが――

「魔王の娘、か」

 先に名を言われる。

 少しだけ、意外だった。

(情報は向こうにも渡ってる)

 当然といえば当然。

「ええ」

 短く肯定する。

 余計な言葉はいらない。

 一歩、踏み出す。

 雪が軋む。

「あなたは邪魔なの」

 はっきりと告げる。

 感情は乗せない。

「これから人間を滅ぼす私にとって、“例外”は要らない」

 フウガは、しばらく何も言わない。

 ただ、こちらを見ている。

 その視線に、敵意はある。

 だが、それ以上に――

(……迷いがない)

 厄介だ。

「……そうか」

 それだけ言って。

 男は、枝を構えた。

(随分と、軽い決断ね)

 だが、それでいい。

 こちらも同じだ。

 魔力を解放する。

 空間を埋め尽くす魔弾。

 回避不能の密度。

 ――足りない。

 さらに増やす。

 さらに。

 さらに。

「……まだ」

 圧縮され、膨れ上がる魔力。

 空間そのものが軋む。

 終わり。

 そのはずだった。

 だが――

 フウガは動かない。

 ただ、枝を振るう。

 次の瞬間。

 魔弾が、消える。

(……消えた?)

 弾いたわけじゃない。

 防いだわけでもない。

 “結果だけがなかったことになった”みたいに。

 理解が追いつかない。

(報告以上ね)

 踏み込む。

 距離を詰める。

 考えるより先に、潰す。

 それが正解。

 そう判断した。

 だが。

 気づいた時には。

 もう、目の前にいた。

(――速い!?)

 違う。

 移動じゃない。

 “距離が消えた”。

 そうとしか思えない。

 枝が、喉元に届く。

 死。

 確定。

 その瞬間。

 止まる。

(……は?)

 刃が、逸れる。

 わずかに。

 致命から外れる。

 理解できない。

「……なんで」

 思わず、声が出る。

「なんで殺さないのよ」

 合理じゃない。

 意味がない。

 フウガは、静かに言う。

「……選ぶからだ」

 意味が分からない。

「俺は、もう奪わない」

 その言葉を理解する前に。

 視界が裂けた。

 斬撃。

 遅れて、痛み。

 胸が裂ける。

 血が雪に落ちる。

(……やられた)

 膝が揺れる。

 だが、倒れない。

 視線だけは、外さない。

 その目の前で。

 フウガの体が、崩れていく。

(……なに、それ)

 壊れているわけじゃない。

 消えている。

 存在が、薄れていく。

 フウガの視線が、一瞬だけ遠くを見る。

 まるで――

 “ここではない何か”を見ているように。

 一歩、踏み出す。

 手を伸ばす。

 届く距離。

 なのに。

 触れる前に、消える。

「……逃げたの?」

 違う。

 直感が否定する。

 あれは逃走じゃない。

 “離脱”。

 世界そのものから、外れたような。

 フウガは消えた。

 残ったのは。

 赤く染まった雪だけ。

 沈黙。

 吹雪の音だけが残る。

「……意味、分からない」

 呟く。

 本当に、分からない。

 だが。

 胸の奥に、何かが引っかかる。

 あの瞬間。

 なぜ、刃は逸れたのか。

 なぜ、殺さなかったのか。

(……選ぶ、って何)

 理解できない。

 したくもない。

 それでも。

 あの一瞬、確かに”何か”を見た。

 力でも、理でもない。

 ――“意思”。

「……くだらない」

 吐き捨てる。

 そんなものに価値はない。

 ……ない、はずなのに。

「……だったら」

 小さく、呟く。

「壊してみればいい」

 それで消えるなら、それまで。

 残るなら――

「……使える」

 吹雪の中。

 少女は静かに立ち尽くす。

 白の世界に、ただ一つ。

 黒い意志だけが、残っていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

あえて物語のクライマックスとも言えるシーンを「プロローグ」として描きました。

ルナリエの視点を通すことで、フウガがいかに「人間離れした存在」であったか、そして彼が最後に下した決断がいかに「ルナリエの理解を超えていたか」を感じていただければ幸いです。

なぜ、彼はこれほどの力を持ちながら、殺すことを拒んだのか。

なぜ、彼は世界から消え去らなければならなかったのか。

時計の針を少し戻し、彼がまだ一人の「臆病な少年」だった頃から、この物語を紐解いていこうと思います。

もし「この後の展開が気になる!」「世界観が好み!」と思ってくださった方は、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援をお願いします!

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