第40話 覇王の誤算(シェン)
帳簿は、
嘘をつかない。
「……数字が、
合わない」
シェンは、
静かに言った。
声を荒げる必要はない。
数字が示している。
「物流の滞りは、
第三の地が原因です」
商務官が、
端的に報告する。
「通過は可能」
「だが、
保証がない」
その一点で、
全てが止まる。
「保証とは、
責任だ」
シェンは、
帳簿を閉じる。
「責任を取らない者と、
取引はできない」
それは、
商人としての絶対条件。
「……金では?」
「無理です」
即答だった。
「価格が、
存在しません」
それが、
一番の異常だ。
シェンは、
指で机を叩いた。
規則正しく。
「国なら、
税で測れる」
「軍なら、
兵で測れる」
「都市なら、
人口で測れる」
全て、
価値に換算できる。
「だが、
あの地は違う」
通行は自由。
奪わない。
保証しない。
それでいて、
人が集まる。
「……投資できない」
シェンは、
はっきり言った。
「価値が定まらないものは、
投資対象外だ」
それが、
常識だ。
「では、
排除を?」
商務官が、
恐る恐る問う。
シェンは、
すぐに否定した。
「排除にも、
コストがある」
「理由なき排除は、
信用を失う」
信用は、
金より重い。
「……理解できません」
商務官が、
本音を漏らす。
シェンは、
頷いた。
「理解できないものは、
管理できない」
「管理できないものは、
市場を乱す」
それが、
恐怖の正体だ。
シェンは、
帳簿の余白に、
一行書き込む。
――第三極
価値:不明
影響:大
それだけで、
十分だった。
「……妙だな」
独り言のように、
呟く。
「価値を主張しない者が、
一番価値を持つ」
矛盾だ。
だが、
現実だ。
「接触は?」
「最小限に」
「同盟は?」
「保留です」
すべて、
歯切れが悪い。
シェンは、
椅子にもたれた。
計算できない相手と、
競り合うのは初めてだ。
「……誤算だ」
低く、
そう言った。
「強欲ではない」
「愚かでもない」
「だが、
最も扱いづらい」
地図を見る。
第三の線。
そこだけ、
価格が書けない。
「いずれ、
価値を示す瞬間が来る」
シェンは、
そう結論づけた。
「その時、
市場は動く」
良くも、
悪くも。
覇王は、
帳簿を閉じた。
数字にならない存在を、
どう扱うか。
その答えは、
まだ出ていない。
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