第39話 覇王の誤算(カイ)
戦は、
始まっていない。
それが、
問題だった。
「……再度確認する」
カイは、
地図を指で叩いた。
音は低い。
怒鳴る必要もない。
「なぜ、
動けない」
「補給が、
追いつきません」
参謀の答えは、
前日と同じだ。
「迂回路では、
損耗が大きすぎます」
つまり――
勝てない。
「……敵は?」
「シェンは、
まだ動いていません」
それも、
分かっている。
互いに、
出られない。
「原因は?」
問いは、
分かりきっている。
「……第三の地です」
参謀は、
そう言った。
カイは、
小さく息を吐く。
あの場所。
要塞でも、
都市でもない。
守備も薄い。
軍も持たない。
それなのに、
戦争が止まっている。
「……理解できない」
カイは、
率直に言った。
「通せばいい」
「通されてもいい」
「どちらかに、
なればいい」
それが、
戦の論理だ。
「だが、
奴は選ばない」
剣を持たず、
旗を掲げず。
立っているだけ。
「……無策だ」
そう断じたかった。
だが、
現実が否定する。
「排除案は?」
カイが聞く。
参謀は、
一瞬だけ間を置いた。
「……理由がありません」
それが、
最大の障害だ。
「戦争を、
邪魔している」
それだけでは、
足りない。
「敵ではない」
「だが、
味方でもない」
その曖昧さが、
刃より危険だ。
カイは、
椅子に深く腰掛けた。
考える。
斬る。
潰す。
征服する。
どれも、
成立しない。
「……奴は、
戦っていない」
ぽつりと、
呟く。
「それなのに、
戦を止めている」
矛盾だ。
だが、
目の前にある。
「覇王として、
どう見るべきでしょう」
参謀が、
慎重に問う。
カイは、
すぐに答えなかった。
「……計算できない」
それが、
結論だった。
「計算できないものは、
戦場に置けない」
だから、
進めない。
初めてだった。
剣を抜く前に、
退くという判断。
それを、
余儀なくされている。
「誤算だ」
カイは、
低く言った。
「強い敵ではない」
「賢い敵でもない」
「……だが、
最悪の存在だ」
地図の上で、
第三の線を見る。
それは、
城壁よりも硬い。
カイは、
剣の柄に手を置いた。
抜かない。
まだだ。
「いずれ、
理由が生まれる」
それを、
待つしかない。
覇王は、
そう結論づけた。
理解できない相手と、
戦う理由ができる瞬間を。
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