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人徳スキルしか持たない俺が、 英雄だらけの大陸で覇王にまつりあげられる話 〜戦えないのに、人が集まりすぎて困ってます〜  作者: 山奥たける


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第38話 第三の線

 最初に変わったのは、

 地図だった。


「……線が、

 増えています」


 セレナが、

 新しい羊皮紙を広げる。


 赤。

 青。


 そして――

 もう一本。


「誰が引いた」


「誰でもありません」


 彼女は、

 そう答えた。


「皆です」


 意味は、

 すぐに分かった。


 交易商。

 傭兵団。

 小領主。


 それぞれが、

 それぞれの都合で線を引く。


 結果、

 同じ場所を避ける。


 同じ場所を経由する。


「……ここだ」


 俺は、

 指で一点をなぞる。


 村でもない。

 国でもない。


 だが、

 線が交わる。


「第三極、

 と呼ばれ始めています」


 セレナの声は、

 落ち着いている。


「呼んでいない」


「ええ」


「それでも、

 呼ばれます」


 それが、

 現実だ。


 昼。


 評議体が集まる。


 議題は、

 拡張ではない。


 防衛でもない。


 位置だ。


「ここを、

 どう扱うか」


 交渉役が、

 言葉を選ぶ。


「どちらにも属さない」

「だが、

 どちらとも接している」


 矛盾だ。


 だが、

 成立している。


「……国境線を、

 引くべきでは?」


 誰かが言う。


 静まり返る。


「引かない」


 俺は、

 即答した。


「引いた瞬間、

 奪うか、

 守るかを迫られる」


 それは、

 拒否したい。


「では、

 どうする」


「何もしない」


 また、

 同じ答えだ。


 だが、

 皆もう分かっている。


「何もしないことが、

 一番難しい」


 誰かが、

 呟く。


 否定できない。


 夕方。


 街道沿いに、

 簡易の標が立てられていた。


 誰が立てたか、

 分からない。


 だが、

 書いてある。


――通行可

 保証なし


 俺は、

 それを見つめた。


「……勝手に、

 書かれたな」


「ええ」


 セレナは、

 苦笑する。


「ですが、

 正確です」


 腹が立たないのが、

 怖い。


 夜。


 焚き火の前で、

 一人考える。


 線を引いていない。

 名乗っていない。


 それでも、

 世界が線を引く。


「……第三の線、か」


 それは、

 防衛線でも、

 国境でもない。


 避けられない境目だ。


 その頃。


 赤の陣営では、

 地図に新しい注記が書かれていた。


――不確定領域

 進軍計画再考


 青の陣営でも、

 同じ文字が並ぶ。


――保証不能区域

 投資対象外


 同じ評価。


 同じ結論。


 だが、

 消せない。


 俺は、

 焚き火を見つめながら、

 静かに思う。


 これは、

 勝ちでも負けでもない。


 だが、

 戻れない形だ。


 第三の線は、

 引かれた。


 誰の手でもなく、

 世界そのものによって。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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