表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/20

油揚げ、厚揚げ、いなり寿司

「……油揚げを焼いてくれ。あと、ぶ厚い厚揚げを甘辛く煮てくれ」


 開店直後、ふらりと暖簾をくぐったのは狐崎様だった。以前とは打って変わって覇気がなく、その姿には深い疲れがにじんでいた。


(口には出しませんが、妖力がかなり減っておられる……)


「油揚げだ、油揚げが食べたい」


「すぐにご用意できますのは、おでんの厚揚げですが、よろしいでしょうか?」


「おお、それでいい。頼む!」


 おでん鍋から厚揚げを二つ取り、しっかりと温めてから器に盛り、カウンターへ置く。狐崎様は迷いもなく箸を取り、一気に平らげた。


「かぁ、美味い。これだよこれ。肉も魚も悪くないが、俺は、油揚げを欲していたんだ。おでんの厚揚げ、もう二つ頼む」


「かしこまりました。ちょうど、焼き油揚げも焼きあがりましたので、こちらもどうぞ」


「ありがとう」


 狐崎様の箸は止まることなく、焼き油揚げもまたあっという間に消えた。まるで、干からびた身体に水が染みわたるように、次々と油揚げを求めていく。


(今夜の狐崎様は……どこかで、かなりの妖力をお使いになったのだろうか。まあ、聞きませんが)


「ところで店主。今日の、持ち帰りの稲荷寿司は何個までいいかい?」


「稲荷寿司ですね。確認いたしますので、少々お待ちください」


 暖簾をくぐって厨房に入り、仕込んでおいた稲荷寿司の数を確認する。迎えに来る、スズとランの分も考えて多めに作っておいたが、全部で五十個しかなかった。


(……今日、狐崎様が特別に欲しておられるようですし。スズとランの分は、また明日にでも作りましょう)


「お待たせしました。お持ち帰りの稲荷寿司は、五十個ございます」


「すべて、いただこう。あと追加で、大盛りのきつねうどんを頼む」


「かしこまりました。ただいまお作りいたします」


 出来上がった、きつねうどんもまた狐崎様はぺろりと平らげた。さっきまでの気怠げな表情が嘘のように、瞳には妖力が宿り、背筋もしゃんとしている。


「美味かった、ごちそうさま。また来るから、油揚げをたっぷり用意しておいてくれよ」


「はい、いつでもお待ちしております」


 稲荷寿司を包んだ風呂敷を肩にかけ、狐崎様は店を後にした。今夜は、油揚げ、厚揚げ、稲荷寿司、すべてを食べ尽くし、持ち帰っていかれた。


(――ふむふむ。妖力を使いすぎると、ああなるのですか。気を付けないといけませんね。そして、我々狐にとって油揚げは、妖の栄養源なのですね)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ