第94話 手作り弁当
「待たせたな。ようやく列から解放された」
羽矢が両手にお盆を持って、一輝と莉菜に合流した。お盆にはうどんが載る。うどんの容器から湯気が立ち上る。温かいのだろう。
「おかえり〜。大変だったね」
莉菜は陽気に羽矢を労った。
「ありがとう。かなり疲労が蓄積した。それにしても良く空いた席を確保できたな」
羽矢は不思議そうに疑問を呈した。
現に周囲には未だに多くの生徒が存在した。各々が食堂の席に座り、様々な話題で駄弁る。
「私達も最初は諦め気分だったよ。でも優しい男子3人組が席を譲ってくれたの!」
莉菜は嬉しそうに席を確保するまでの経緯を首尾一貫に説明した。
「ほぉ?それは幸運だったな。気が利く男子もこの学校に在籍するんだな」
羽矢は感嘆する。コクコク頷くように頭を縦にも振った。
「そうなの!珍しいよね!!」
莉菜は身体を前のめりにし、共感の意を示した。その際、声も大きくなり、テンションも上がる。
「ああ。私もそう思う」
羽矢も同意する。
いやいや。
一輝は再び胸中でツッコミを入れた。羽矢と莉菜の純粋さには関心すら覚えた。
「じゃあ、私は先にいただくぞ。いただきます」
羽矢は両手を合わせ、うどんに箸を付ける。まず丁寧に1本を啜った。
「うん。美味しい!」
羽矢はうどんの味を評価した。
「かずくん。私達も食べよっか!」
莉菜の言葉を合図に、一輝は弁当袋を開けた。
「莉菜の弁当はどうして普段より大きいんだ?明らかにいつもの倍はありそうだけど」
一輝は率直な感想を口にした。言う通り、普段よりも圧倒的にサイズが異なる。
「気づいた?・・・実は今日はカズくんのために弁当を作ってきたの」
莉菜は弁当袋から2つの弁当箱を取り出した。1つはピンク色、いまひとつは青色だった。もちろん2段式の弁当箱だ。
「え!?本当に!」
一輝は驚きの声を漏らした。今まで同級生の女子に手作り弁当を作ってもらった経験など無かった。そのため、非常に幸せなサプライズだった
「うん。しかも私の手作りなの。自分で言うのも恥ずかしいけど今日は早起きしたの」
莉菜はわずかに頬を紅潮させた。自然な程よい赤色が彼女の頬を染めた。
「ありがとう!嬉しいよ!!」
自然とお礼が漏れた。嬉しさからご機嫌な声に移行した。
「かずくんが喜んでくれて嬉しい。うん。はいどうぞ!」
莉菜は満面の笑みで一輝へ弁当箱を差し出した。弁当箱は青色のものであった。
「ありがと!」
一輝は莉菜から弁当箱を受け取った。
「関心だな!莉菜は女子の鏡だな」
「そんなことないよ。かずくんへの気持ちだから」
羽矢と莉菜は簡単なやり取りを交わした。
「食べてもいい?」
一輝は興奮気味に訊いた。即座に弁当の中身を確認したい気分に支配される。
「いいよ。初めてだからお口に合うか分からないけど」
莉菜は緊張した面持ちで了承した。
「いただきます!」
一輝は律儀に両手を合わせて食事の挨拶をした。
一輝は手早く弁当箱を開封した。まず包まれた風呂敷を剥がし、プラスチックの弁当箱を開けた。
「うわぁ〜。美味しそう!」
一輝は感嘆な声を漏らした。
弁当箱の中にはタコさんウィンナーや卵焼き、ひじきやきんぴらごぼう等が入っていた。
一輝は箸でタコさんウィンナーを摘んだ。そのまま口へ運んだ。
「どう?美味しい?」
莉菜は不安そうに一輝の顔を窺う。
「うん!美味しいよ!!」
一輝は莉菜の料理を称賛した。嘘偽りは存在しなかった。
「本当に!よかった〜」
莉菜は目を閉じ、胸を撫で下ろした。
「そんなに心配してたの?そんな心配が不必要なほど申し分なく美味しいよ!」
「えへへ。かずくんが私の料理を褒めてくれた。嬉しい〜〜」
莉菜はだらしなく顔を綻ばせた。もじもじ身体もよじらせる。
「ははは。よかったな莉菜!」
羽矢は豪快に笑い声を上げた。
「卵焼きも食べていい?」
一輝はうずうずしながら、卵焼きを箸で摘み、莉菜に尋ねた。
「うん。ごゆっくり。でも今度は私が食べさせてあげる」
莉菜は自身用の箸を取り出し、一輝のために作った弁当から卵焼きを摘んだ。
「はい。あ〜ん」
莉菜は幸せな表情で、一輝の口元に卵焼きを接近させた。
「ちょっ、莉菜!さすがに難易度が高いよ」
一輝は心の底から動揺した。急展開に心が落ち着かない。
「はい。あ〜ん」
莉菜はあっさり無視し、卵焼きの位置をキープする。あとわずかで一輝の口元へ接触しそうだ。
「おい朝元!莉菜の優しさを無碍にするつもりか?」
羽矢はむっとし、両腕を胸の前でクロスさせた。
これは覚悟を決めるしかないかな。
「い、いただきま〜す」
一輝はきつく目を瞑り、勇気を振り絞って箸を咥えた。
一輝の口内に卵焼きの甘い味がじゅわっと拡がった。
「うん・・・美味しい」
一輝は目を瞑りながら素っ気なく答えた。完全に恥ずかしさを隠すためだ。
「うん!よかった!!」
莉菜は上機嫌にガッツポーズを形成し、自身の弁当箱を開けた。流れるように箸でタコさんウィンナーを摘んだ。
「ね、ねぇ。もしかしてそのまま箸を使うつもり?」
一輝はおそるおそる問い掛けた。このままでは間接キスになってしまう。
「そうだけど。何か問題かな?」
莉菜は平然と答えた。実に不思議な顔を作った。それから、タコさんウィンナーを口へ放り込んだ。間接キスの概念など知らずに、咀嚼し始めた。
「・・・あっ。・・う、うん。特にないよ。ごめんね」
一輝は莉菜の反応に罪悪感を感じ、自然と謝罪した。
一輝だけ妙に意識してるだけかもしれない。
「あはは。これは莉菜に1本取られたな朝本!」
羽矢は笑みを絶やさない。時折、うどんを啜りながらもニヤニヤ一輝と莉菜のやり取りを認識していた。




