第93話 食堂
「かずくん!今日は食堂に行かない?一緒にお昼食べよ!」
羽矢と莉菜が毎度恒例、ほぼ同時に一輝のクラスへ到着した。
クラスメイト達も慣れ始め、以前よりも注目されることは無くなった。
「いいよ」
一輝は二つ返事で立ち上がり、弁当袋を持って席から立ち上がった。
「私もお弁当持ってるんだけど。増本さんが今日持ってないらしいの」
莉菜は羽矢に視線を向けながら、説明した。
「悪いな。今日は母親がどうしても弁当を作れなかったらしい」
羽矢も事情を述べた。
「そうか。そういうこともあるだろうね。弁当を毎日作るのはおそらく大変だろうから」
美月が毎日作っているが、大変そうなのは十分承知だ。
「朝元は弁当を作った経験がないだろ?大変さは理解できないだろうに」
羽矢はニヤニヤしながら一輝をからかう。
「何を!増本もそうだろ」
一輝は黙らずに応戦した。
昔からの仲だからこそ負けたくない部分もある。
だが、美月に弁当を作ってもらっているのはもちろん非常に感謝する。
美月がいなければ、一輝は毎日学校で学食だろう。
「ちっ。珍しく痛いところを突いてくるな」
羽矢は居心地が悪そうだ。実際に自身が料理ができない自覚があるのだろう。
「ははっ。この点では増本も俺も変わらないね」
一輝は思わず笑った。意外な共通点だった。
「ふん。余計なお世話だ」
気に食わないのか。羽矢はぷいっと視線をどこかへ走らせた。
「まぁ、雑談はここら辺で終わらせて食堂に向かおうか」
一輝は行動するように促す。
「全くさっさと行くぞ」
羽矢は一輝や莉菜を催促した。いち早くこの状況からエスケープしようと試みる。
「わかったから!そんなに急かさないで。莉菜行こう!」
「うんかずくん!どこまでも付いて行くよ!」
羽矢が第一に教室を退出した。
一輝と莉菜も隣に並びながら、羽矢のすぐ後を追い掛けた。
「うわぁ〜。結構人がいるね」
食堂には多くの生徒で賑わっていた。
「ああ。正直驚きだな」
羽矢は入り口で周囲を眺めながら、感想を呟く。
「すごい列だね。それに座る席も大部分は埋まってる」
莉菜が周囲を見渡すが、空いた席は見当たらない。それほど人で混んでいる。
「私は列に並ぶ。2人は空いた席を探してくれないか」
羽矢は最後列を指差し、1つの提案を提示した。
「わかった。増本の席も確保しておくから」
一輝と莉菜は空いた席の探索に移動した。羽矢は最後列に身を置いた。
「中々見つからないね。もしかして座れないのかな」
莉菜が不安そうに独り言を言った。
「そうだね。その可能性はあるね」
一輝も懸命に探すが、空いた席を発見できなかった。
「あの。俺達もう昼飯食べ終わったから座れるよ」
3人組の1人が莉菜に声を掛けた。緊張した面持ちだった。
「本当に?でも悪いよ。無理しなくていいからね?」
「いやいや全然無理なんかじゃないよ。丁度、教室に帰るって話をしてた。なぁ、お前ら?」
一輝にとって見覚えのない男子はわざとらしく残りの友人に同意を求めた。
「ああ」
「その通りだよ」
残りの2人の男子も了承済みなようだ。
「だから、どうぞ座って」
1人の男子が席から立ち上がり、もう2人も続けて倣った。
「ありがとう!かずくんここは厚意に甘えない?」
莉菜は上目遣いで一輝に問い掛けた。
「うん。そうしよう。ありがとうございます」
まず莉菜が座り、一輝も隣に腰を下ろした。
「本当にありがと!優しいね!」
莉菜は上目遣いで席を譲った男子たちへ華麗にウィンクした。
パチンッと目から数個の星が散った。
「ぜ、全然大したことないから!!」
3人の男子は顔を真っ赤にしながら、高速でその場を去ってしまった。
3人共嬉しそうにコソコソ会話をしながら、食堂の出口は差し掛かった。
「すごい優しい人達だったね?私も見習わないと」
「うんそうだね。・・・それにしても相変わらず莉菜の人気っぷりは健在だね」
「そうかな?あの人達は純粋な優しさで席を譲ってくれたと思うよ。私目当てでは無いはずだよ」
莉菜は疑う素振りもなく、さらっと返答した。
いやいや。
一輝は胸中でツッコミを入れた。
明らかに、先ほどの男子達は莉菜が困ってたから席を譲った。わかりやすい態度だった。
実際に、彼らは顔を真っ赤にして去った後、嬉しそうになにやら盛り上がっていた。
「まだまだ時間が掛かりそうだね」
莉菜は行列に並ぶ羽矢を見据える。まだ先は長そうだ。




