75話 体育祭②
「あっ!かずくんと増本さんが一緒に!もしかして抜け駆け?」
一輝と羽矢がグラウンドに戻ると、偶然にも莉菜と遭遇する。
「いや、違うんだ。自動販売機に飲み物を買いに行ったらたまたま会ったんだ。そうだよな?」
「ああ。それは本当だ」
羽矢は先ほど不本意にも一輝にペットボトルを開けてもらい複雑な状態なのか。ぎこちない反応を示す。
「そうなんだ。何か増本さんの反応に違和感を感じるけど」
莉菜は彼らの言葉に納得していない様子だった。
「まあ、いいや。せっかくの体育祭なんだし、一緒に写真撮ろうよ!かずくん!」
莉菜は一輝に急接近し、自身のスマートフォンに備え付けられたカメラを内側に変更する。その結果、スマートフォンの画面に一輝と莉菜の顔が映し出される。
「い、いきなりだな。まあ、いいけど」
一輝は急な莉菜の行動に少し冷たい態度を取ってしまう。
「だって、かずくんとずっと写真を撮りたかったんだもん!はい、しっかりカメラの方を見て!」
「う、うん・・・」
一輝は指示に従い、莉菜が手に持つスマートフォンに目を向ける。彼は莉菜と幼馴染でありながら、今まで写真を撮った経験がないため、多少なりとも緊張感を覚える。
「はい、チーズ!」
莉菜は撮る瞬間、にこっと笑顔を作ってピースをした。その刹那、パシャっとシャッター音が生まれる。
一輝は自分もピースをしなかったことに少なからず罪悪感を覚える。
「やったー!かずくんとのツーショットゲット!しかも、体育祭の日に!!」
莉菜は無邪気な声を漏らし、興奮した様子でスマートフォンの画面に表示される一輝とのツーショットを凝視する。数秒ほど経過すると、莉菜の頬はだらしなく崩れ、満面の笑みが形成される。
「そんなに嬉しいことなのか。俺なんかと写真を撮っただけなのに」
一輝は莉菜の喜ぶ姿を見ながら、疑問を抱かずにはいられない。自分と撮った写真にそこまでの価値を感じられないからだ。
「な、なあ。朝元。私達も一緒に撮らないか」
羽矢が普段とは打って変わった硬い顔で一輝にそう尋ねる。
「それは構わないが。どうしたんだ?いつもと態度も雰囲気も違うぞ?」
一輝は違和感に思った点をそのまま口にする。
「うるさい!察しろ!バカ!!」
一輝は羽矢にお叱りを受ける。
「な!?バカとはなんだよ!変だと思ったら口にして何が悪いんだよ!!」
一輝は悪口を言われ、ムキになる。
「バカ!察しない方が悪いんだ!なぜ、わからない!!とにかく、一緒に撮るぞ!」
羽矢は強引に一輝と距離を縮め、スマートフォンのカメラアプリを起動させる。
それから慣れた手つきで内側にカメラを設定した。
「ちょっと、まだカメラに収まらないようだな」
羽矢はわざとらしく、さらに距離を小さくする。
「お、おい。さすがに近すぎるんじゃないか」
一輝の鼻腔を羽矢に染み付いた匂いが刺激する。
「よし!きれいに入った!行くぞ!!」
「ちょっと、まだ準備が」
羽矢は一輝の言うことを聞かず、写真を撮る。パシャっとシャッター音が漏れる。
「よし!撮れたぞ!!」
羽矢はご機嫌な声をあげると、即座に一輝から離れる。
「よしよし。ゲットした」
羽矢は嬉しそうにスマートフォンを見つめている。
「お、おい。あまりいいように撮れてないよう感じるから見せてくれ。莉奈もな」
一輝は羽矢と莉菜を交互に見て、撮った写真を見せるように頼む。
「悪いが、察しが悪い朝元には見せる写真はない!」
羽矢は珍しく、プイッと一輝から目を逸らす。
「ごめんね。かずくん」
莉菜は申し訳なさそうにしながらも、やんわりと拒否する。
(まじかよ。なんで2人共見せてくれないんだよ。たかが写真だろ?しかも、俺との)
一輝は納得いかず、胸中で悪態だけをついた。




