67話 接触
授業終了後。
一輝はダッシュで教室を後にし、職員室に向かった。
途中、職員室に戻る竹内の姿があった。
一輝は再び、接触して声を掛けて不満をぶつけた。しかし、上手いことかわされた。
適当な理屈を並べられ、一輝の主張など聞いてくれなった。
竹内は仕事の用事を理由に職員室へと帰還した。
一輝はこれ以上、何を口にしても無駄だと察し、制止などしなかった。無駄な行動に終わると容易に推測できたから。
一輝は教室に戻り、いつも通り授業を受ける。だが、通常とは異なり、もやもやしながら授業を受けた。そのため、ノートはしっかり取れてはいたが、内容はほとんど脳内に入ってこなかった。作業のようにただ板書をするしかできなかった。
そんな出来事が複数回起こり、いつの間にか1日の授業は終了した。流れるように帰りのホームルームも終了し、教室が喧騒な雰囲気に包まれる。
一輝は帰りの支度をしながらも、未だにもやもやした気持ちが収まらない。机から教科書やノートを取り出し、リュックサックに詰める動作がいつもよりも明らかに遅い。
「でも、行動しないといけないよな・・・」
一輝はぼそっとつぶやき、帰りの支度の準備を早める。早くしないと、いじめられている当人がバスケ部の部室に移動してしまうと思ったからだ。
特に深く考えたわけではないが、不思議と寒川からいじめを受けている生徒に接触してみようと思った。帰りの支度をしている最中にふとそう思ったのだ。
一輝は異常な早さで帰りの支度を終えると、駆け足で教室を退出した。
そのまま1年生の教室が設置されたフロアへと向かう。本日、午前にも利用しているため2度目の訪問である。
駆け足を継続して1年生の教室目の前の廊下に到着する。
運が良いことに、寒川からいじめを受ける男子生徒が教室を後にする最中だった。
一輝はその光景を視認すると、男子生徒を逃がさないように廊下をダッシュする。その男子生徒の存在する場所を目的地として。
「ねぇ、ちょっといいかな?」
一輝は男子生徒の背中に声を掛ける。
「え!?僕ですか?」
男子生徒はぎょっとしながら、振り返る。その上、人差し指は自身の顔を向いている。
「うん。そうだね。君だよ」
一輝は男子生徒の予想外の驚きように、内心でびっくりするも、その感情をおくびにも出さない。
「ちょっと、大事な話があるんだ。初対面の人間にこう言われて、怪訝に思うかもしれないけど。大丈夫かな?」
一輝は男子生徒に不安を覚えさせないために、優しい口調で言葉を紡ぐ。それでも、少なからず不安は抱くと思うが。やらないよりはましだろう。
「・・・わかりました。今日は部活がないので大丈夫なので。場所はどこですか?もしかして、ここですか?」
男子生徒は逡巡した後、了承し、忙しなく周囲を見渡す。
「いや、さすがにここでは人目が集中して落ち着かないと思うから。場所は変えるよ。1階の空手道場の近くに自動販売機が2つある場所があるのはわかるかな?あそこなら、あまり人がいないから。そこで大丈夫かな?」
「はい。そこなら大丈夫です」
男子生徒は2つ返事で頷いた。
「それじゃあ、行こうか!」
一輝を先頭に目的地に向けて移動する。男子生徒は一輝の後を追随する。
2分ほど歩くと、目的地の場所に到着した。
すぐ近所には空手道場や青色の光を放つ自動販売機が存在する。今のところ、空手道場には誰もいないのか、電気も点いていなかった。
「それで、僕に話って何ですか?」
男子生徒は目を泳がせ、落ち着ない様子だった。知らない人物に話を持ち掛けられたことで不安を抱いでいるのだろうか。
「あぁ、そうだね」
一輝は神妙な面持ちでこくんっと頭を縦に振った。
「単刀直入に言わせてもらうけど。君は同じバスケ部員にいじめられているね。寒川っという部員にね」
「えっ!?」
男子生徒は目を見開き、驚きの声を漏らした。一輝から発せられた言葉が信じられなかったのだろう。
「ごめんね。驚くのも無理はないよね。正直に打ち明けるとね。君が体育館前で寒川からいじめを受けている光景を見てしまったんだ。だから、知ってるんだ」
一輝はあのときの男子生徒がいじめられている光景を思い返しながら、理由を述べる。
「そ、そうなんですね・・・」
男子生徒は恥じるように一輝から視線を逸らした。いじめられている光景を他者に見られたことが嫌だったのだろう。
「1つ聞きたいんだけど。君はいじめられていることをどう思っているの?つらくないの」
一輝は目が合わずとも問い掛ける。これは必要だと思ったからだ。もしかしたら、この男子生徒がMな可能性も無きにしも非ずだから。
「苦しいですよ!今すぐにでも解放されたいですよ!!でも、寒川君は絶対にやめてくれない。抵抗したら、今よりもひどい仕打ちを受けると思うから・・・。それに、誰も助けてくれないと思うから」
男子生徒は大きな声で自身の意見を主張したが、すぐに諦めるように目を伏せた。
「そうか。そうなんだね。正直に吐露してくれてありがとう。それで、提案なんだけど。君が頼れるまたは信頼している先生はいないかな?その人に打ち明けた方がいいと思うよ」
一輝は真剣な表情で男子生徒を見つめる。その目線に気づき、男子生徒と目が合う。
「はい。いますけど・・・」
男子生徒は弱々しい目を作りながら、答える。
「それなら、よかった。それと君の部活の顧問である竹内先生にもできたら相談した方がいいかもしれない。無駄になるかもしれないけどね」
一輝は脳内で竹内の顔を想像しながら、苦笑する。正直、竹内にはいらいらしている。自身の報告を聞かず、対応してくれなかったのだから。だが、どうも竹内を見放すことはできなかった。少なからず、担任である竹内を信頼しているのだろうか。一輝はどうしても竹内が人でなしの人間だと思えなかった。
「僕の信頼している先生は竹内先生なんです。だから、おっしゃるように相談しようと思います」
「そうか。それがいいと思うよ」
一輝はだるそうに髪を掻く。まるで気を紛らわせるように。
「ここらで大丈夫かな。早く先生の元に足を運んだ方がいいよ。ごめんね。時間を取って」
「いえ。大丈夫です。気にしないでください」
一輝は男子生徒の丁寧な答えを耳で捉えると、踵を返した。そのまま昇降口へと向かう。
一方、男子生徒は黙って一輝の背中を目で追っていた。




