63話 思わぬ展開で解決
放課後、時刻は18時。
最近では日課のように3人の女子生徒が教室に残っている。もちろん。文化祭の準備は終了している。
「いや~。ここまで。順調だね。始めて2、3日が経ったけど手応えしかないよ」
山田に対して嫌がらせをするように提案した1人の女子生徒がイスに腰掛けながら満面の笑みを浮かべる。
「そうだよね。筆箱、靴、教科書とか。色々隠したけど。バレないもんだね。まあ、筆箱や教科書は机の上に置いてあって、勝手に取って隠しても他の生徒にばれないと思ってやったんだけどね」
1人の女子生徒も座って、足を組みながら同調する。
「それにしても見た?あの普段、堂々としてしっかり者の山田さんが動揺して筆箱やローファーを探す顔。最高だったよね~~」
「「「あはははっっっ」」」
3人の女子生徒は忙しくなく両手を叩き、汚い高笑いを上げる。
教室に大きな笑い声が響き渡る。しかし、室内には3人しかいないため、誰も注意したり変な目を向けてこない。そのため、遠慮なしに大爆笑できたのだろう。容易に想像できる。
「それにしても今後どうする?ここらでやめる?それともさらにエスカレートさせる?」
1人の女子生徒が立ち上がり、笑みを作りながら残りの2人に問い掛ける。やはり、話を切り出したのは提案を持ち掛けた女子生徒であった。
「う~~ん。もうお腹いっぱいなぐらい山田さんの焦った顔や仕草は見えたからね~~」
足を組む女子生徒は顎に手を当て、考え込む。もう1人も黙っているが、考え込んでいる表情をしている。
「2人とも悩んでるんだ。なるほどね。じゃあ、私の意見を言うね。私は、もっとエスカレートした方が良いと思う。だって、エスカレートさせれば、もっと追い込まれて動揺したり、戸惑った山田さんにお目にかかれるかもしれないんだよ?」
女子生徒はイスから立ち上がり、意地悪な笑顔を形成する。その笑顔は独特でありつつ、奇妙でもあった。
「でも、これ以上したら、私達が犯人ってバレるかもしれない」
女子生徒2人は不安そうな顔に変貌した。やはり、バレたことのリスクもある程度は理解しているのだろう。もし、バレれば意図的に山田に嫌がらせを行った女子生徒の立場は少なからず悪くなってしまう。それを恐れているのだろう。実にそういうところは人間らしい。
「そうだね。でもバレると思う?今日まで嫌がらせをしてきて誰か気づいた人はいた?多分いないよね。だから、大丈夫だよ!!大丈夫。それにね。そんなに長くはやらないよ。長くてもこれから1週間ぐらいだから」
「う~ん。確かに。今までばれてないもんね。だから大丈夫。そうか。そうだよね!!」
2人の女子生徒が立ち上がる。その結果、3人全員が立ち上がった状態になっている。
「じゃあ、これからも継続して嫌がらせを実行する、でオッケーかな?」
以前から立っていた女子生徒が嬉しそうに2人の顔にそれぞれ視線を走らせる。
「うん」
「オッケー」
残りの2人は同調するように返事をする。
「了解。それじゃあ、決まりということで・・・」
すると、いきなり教室の戸が開放される。
女子生徒達はぎょっとし、一斉に音がした方向に目を向ける。
「驚いたよ。まさか、葛原さん、杉浦さん、湾内さんが協力して山田さんに嫌がらせをしていたんだね」
一輝が後ろ側の戸から入室する。松本も一輝に続いて教室に足を踏み入れる。
「な、なんであんたたちがいるのよ。てか、私達以外のクラスメイトは帰ったんじゃなかったの!」
葛原は怒りを露わにする。恐らく焦りから生まれたものだと推測できる。人は焦ったり困ったりしたら途端に怒るときがある。ちなみに、葛原が今回の山田に対する提案を行った人物だった。
「正直いうと、俺達もこの教室を使って話をする予定だったんだ。最近の山田さんに関する話をね。でも、その前に職員室に用事があった。5分ほどで用事を済ませて教室に戻ったら、葛原さん達が会話をしていたわけだ」
一輝はなぜかちらっと松本を一瞥する。
松本は一輝に反応して、こくっと頷く。
「どうするの?」
「やばいよ。私達が犯人だってバレちゃったよ」
杉浦と湾内が縋るように必死に葛原に助けを求める。心が落ち着かないのか。2人とも手があたふたとせわしく動く。
「くっ。こうなったら。仕方ない。ええっ。そうよ。聞かれてたなら白状するしかないわね。犯人は私達よ!」
葛原は覚悟を決め、真実を打ち明ける。やけくそになっている感じも多少あるが。
「どうして山田さんに嫌がらせを?」
一輝は間一髪に葛原に問い掛ける。
「学級委員だか何だか知らないけど。いつもリーダーをしてクラスを牽引している感じが嫌だったのよ。それに、普段の態度や積極的な行動もうざかったわ」
葛原は鬱憤を晴らすように勢いよく捲し立てる。流れるように。
「そうか。そんな理由で・・・」
一輝は半ば呆れていた。あまりにも理由が陳腐であったからだ。
「・・・。言質は取れたわね・・・」
松本は少し複雑な顔をしながらも、教室内に身を置く皆が聞き取れる音量で呟く。室内に少数の人数しかいないため、その声は割と響いた。
「はっ?」
葛原は目が点になる。残りの杉浦と湾内は素っ頓狂な態度を示す。
「私達が教室に入ってからの会話はこれで録音しているから」
松本は制服のポケットからスマートフォンを取り出し、女子生徒達に見えるように掲げる。
「なっ!?」
事態を把握したのだろう。葛原の顔色が悪くなる。それに呼応して、杉浦と湾内も似たような表情を作る。
松本はスマートフォンを起動し、録音していた音声を止める。それから、音声データを再生する。
その結果、一輝や葛原の声がスマートフォンから吐き出される。
数秒ほどして、松本は音声データを停止させる。
「そういうことだから。でも、今後、山田さんに嫌がらせをしないって約束できるんだったら、この音声データを拡散しない。絶対ね。松本さんもそれでいいよね?」
「ええ」
松本は素直に首肯する。
「嘘はつかないから。選択するのは葛原さん達だよ」
一輝は圧力を掛けるように、敢えて低いトーンの声を出す。少しでも彼女達の心に負担を与えるのが狙いだ。
「ねぇ。本当にやばいよ。あの音声データが拡散されたら私達の居場所は消えちゃうよ!」
「本当に!!地獄の学校生活が始まるんだよ?だから、もう嫌がらせなんかしないって約束しようよ!ねっ」
杉浦と湾内は葛原を説得しにかかる。やはり、学校生活で立場が悪くなるのは避けたいのだろう。
「くっ・・・」
葛原は悔しそうに一輝と松本に睨む。先ほどの会話を音声で録音されているため、気に入らない山田に対してこれから嫌がらせができない。その事実に苛立ちを覚えての行動なのだろう。
だが、一輝を無視して嫌がらせを続ければ、音声データは拡散され、自分達の居場所はほぼ必ず消滅するだろう。そんなことちょっと考えれば誰でもわかる。だから。
「わかった。今後、一切山田さんに嫌がらせをしない。だから、音声データの拡散だけはしないでほしい。いや、ください」
葛原は悔しそうに地面を見つめながら、頭を下げた。
一輝達が命令や指示をしたわけではない。
しかし、葛原は自分を守るためにきちんと腰を折って頭を下げていた。その頭は一輝が返事をして、拡散しないことを口にするまで下げられていた。
皮肉にも、葛原の体勢はお手本みたいにきれいだった。




