59話 文化祭の準備
次の日。文化祭の準備が本格的に始まった。
一輝のクラスメイト達は放課後に残ってカフェで提供する商品について議論している。
モカやらカプチーノやら専門的な用語がどんどん生徒達の口から溢れる。
一輝もクラスの雰囲気に流されて、一応教室に残っていた。
だが、積極的に輪に入るなどせず、周囲を見つめながら、黙って自席に座っていた。
ちなみに、羽矢や莉菜には文化祭の準備のために教室に残ると伝えている。
「どうしたの?ちょこんと1人で座って」
松本が一輝に声を掛ける。彼女も今は文化祭の準備に参加していない。
「松本さん。いや〜。空気を読んで放課後に残ったのはいいけど、やることがないな〜と思っててさ」
一輝は誤魔化すように頭を掻きながら、作り笑いを浮かべる。
こうして、少しでも相手に不快感を与えないようにする。
「そう。要するに暇なのね」
「その言葉が適切だね」
松本は一輝の隣の席に腰を下ろす。もちろん、自身ではなく他人の席である。
その席の持ち主は今のところ教室に存在しないため、万が一にもトラブルが起こることはないだろう。
「朝元さん、松本さん。もしかしてやることない感じ?」
学級委員の山田が気になった面持ちで2人の間に乱入した。
そのため、山田は一輝と松本の座る席の間に身を置いている。
「う、うん。実はそうなんだ」
一輝は突然の山田の登場に上手く対応できず、歯切れの悪い答え方をする。
「ほぅほぅ。なるほどなるほど。松本さんも朝元さんと同じだね?」
山田は確認のため、松本を指差しながら言葉を投げ掛ける。
「ええ。間違いないわ・・・」
松本はびしっと指を差されたことで、若干不快そうな表情を見せる。
だが、山田はそれに気づいていないのか。薄く笑みを浮かべているだけだった。
「じゃあさ、カフェの商品のアイデア出しに協力してくれないかな?結構行き詰まってるみたいだから」
山田はカフェの商品に関して議論を重ねるグループを指差した。
「俺、カフェに関する知識とか全く持ってないけど大丈夫なの?」
一輝のネガティブな思考から生じた言葉が紡がれる。不安から漏れた言葉でもあった。
「それは大丈夫だよ!それに、知識とかを持ってない人の常識外れの意見が良い効果をもたらし、良い刺激になると思うし」
山田の言葉を聞いて、一輝は納得する。確かにそれならあり得る話だと。その上、自分にも何かできるのではないかといったやる気も湧き出る。
「松本さん、一緒にカフェのアイデア出しに協力してみない?」
「私なんかが参加しても大丈夫かしら・・」
松本は乗り気ではないようだ。彼女の声色からは不安しか読み取れない。
「おっと。私もアイデア出しに参加しないと。2人も気分が乗ったらでいいから参加してみて!待ってるから!!」
山田はなぜかウィンクを披露すると、議論に精進するグループに合流する。
「俺は行くけど、松本さんはどうする?」
一輝は席から立ち上がり、隣に座る松本に尋ねる。
「わかったわ。朝元君が参加するなら、私も協力するわ。どうせやることもないからね」
松本も席から立ち上がる。不思議と彼女は嬉しそうだった。
「じゃあ行こうか」
一輝は数秒ほど松本と見つめ合うと、議論が活発に行われるグループの集まる場所に向かう。
「あっ。朝元さんと松本さんも協力してくれるみたいだよ!」
山田は一輝と松本を視認すると、2人が参加しやすい空気を作り出す。
そのおかげで、一輝達は容易にグループに溶け込めた。
それから、一輝は話を振られれば、積極的に意見を発した。
松本も同様に能動的ではないが、聞かれれば精一杯自身の意見を主張した。
山田はそんな姿の2人をを微笑ましく見守りつつ、時折質問をして、2人が発言しやすい環境を作った。
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