56話 初めて3人集合
「朝元大丈夫か!」
「かずくん!!しんどくない?」
羽矢と莉菜は一輝の自室に足を踏み入れるなり、心配した面持ちで声を掛ける。2人の顔に余裕はなさそうだ。
「ああ。朝よりはだいぶ楽になった。今では、たまにしか咳き込まないから会話もある程度できるぞ」
一輝はベッドから起き上がり、羽矢と莉菜を安心させるために微笑を浮かべる。この行動はもちろん意図的である。
「そうか。そんなのか。朝元、あまり心配かけさせるなよ!」
「よかったよ。本当に。少し軽くなったみたいで」
羽矢は自身の先ほどの言動を誤魔化すように笑い、莉菜はハ~っと息を吐いて胸を撫で下ろす。
「そんなに心配してくれてたの?」
一輝は2人の言動から心の状態を推し量り、嬉しい気持ちになる。心配してくれる人間がいるのはやっぱり嬉しい。
「そんなわけないだろ。少しだ。少し」
「私はすごい心配したよ。かずくんの言葉を聞くまでずっと落ち着かなかったんだよ」
2人の態度は異なるものだった。
羽矢はそっぽを向きながら、素っ気なく答えた。
一方、莉菜は心底、心配した顔で一輝を見つめながら、返答した。瞳はわずかに潤んでいる。それほど気に掛けていたのだろう。
「お・・・お邪魔します・・・」
緊張した面持ちで松本が入室する。羽矢と莉菜がいるからか、居心地はすこぶる悪そうだ。
「さあさあ。比奈さん。ゆっくりくつろいでくださいね。それと、おにぃの風邪は大方、治まりましたが、完治はしていないと思うので。移らないように気をつけて下さいね」
美月はご機嫌な様子で流暢に言葉を紡ぐ。自身を危険から救ってくれた比奈が自宅に足を運んでくれた事実が嬉しいのだろう。しかも、美月が大好きである一輝のお見舞いに来てくれたのも大きな要因かもしれない。
「ま、松本さん!?どうしてここに?」
一輝はベッドの上で少し仰け反る。
予想だにいない人物が現れたためだ。
「なんだその反応。おかしくないか?」
「うん。何かありそうだね。気になるよ」
羽矢と莉菜は瞬時に冷たい目に変貌し、それを遠慮なしに一輝にぶつける。
「あっ。いや~。それはね。色々あってね・・・」
一輝は明らかに目を泳がせながら、指で頬を優しくなぞる。
「色々って何かな?すごい気になる」
莉菜からおぞましいオーラが放たれる。
「それはね。言えないかな。デリケートな問題だから」
一輝はちらっと松本に目を向けてから、口を開いた。松本のことを思っての言葉だった。
現に、松本はほっとした表情を浮かべる。やはり、自分が進んで命を捨てようとした過去を必要以上に知られるのは嫌なのだろう。
「美月ちゃんは知ってるの?」
莉菜は一輝から話を聞けないと判断し、次に美月に狙いを定める。もちろん、笑顔ではなく、余裕も損なわれている。
「はい。知ってますよ。ですが、私もおにぃと同じで答えられません。そうすれば、比奈さんが大きく損をしてしまいますから」
美月は淡々と答える。おそらく、一輝と同様の考えを持っているのだろう。
松本は申し訳なそうに俯く。
その後、苛立ちから、莉菜はきっと松本を睨みつけた。鋭く、怒りも帯びた眼差しだった。
羽矢も納得がいかなそうに豊満な胸の前で両腕をクロスさせる。
「この話は終わりにしよう。違う話をしないか?」
一輝は空気を変えるために、敢えて立ち上がり、視線を集めた。
それから適当に学校で起こった出来事について尋ねた。
しかし、方向転換も上手くいくわけもなく、歪んだ空気の中でぎこちない会話が行われたことは想像に難くない。
⭐️⭐️⭐️
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