第壱幕の伍
過去編、いよいよクライマックスです。史実のできごとを脚色してます。
この現状に対する江戸の町民の反応は様々だった。振袖小町の今までの活躍と奮闘を労う者、掌を返して火事の惨状になった原因である彼女を非難する者、町の変わり果てた姿に絶望する者、家族や友人、恋人といった大切な人を火災で喪い涙する者、それぞれが違った思いを宮司にぶつけてくる。どこからともなく現れる魔物から江戸の平和を守るためにまだ幼い少女を犠牲にしてしまったどころか、彼女が守りたかったたくさんの人々と街を巻き込んでしまうという最悪の結果を招いてしまったことに対するやるせない気持ちと、大事な何かを失ってしまった悲しみは、江戸に住む誰もが抱いていたのだ。
火災はこの日のみではなく、翌日には与力の宿所を火元にした火事が起こり江戸城の大半が焼失し、その翌日には在家からも出火する事態になった。
魔物を操っていた男の生死と行方が分からなくなったことも関係しているのか、この江戸全体が悲しみに包まれた痛ましい事件を機に、江戸の町を魔物が暴れ回る事態が起こることは二度となかった。
それから後日、振袖小町だった少女の葬儀が行われた。先日振袖小町に助けてもらった若い夫婦や少年、呉服屋の娘をはじめとしたたくさんの町人だけでなく、時の征夷大将軍である徳川家綱も身分を隠してこの葬儀に参列し、彼女の小さな亡骸が入った棺の前で自分の正体に気づいていた住職にこう語った。
「振袖小町、命を懸けて江戸を守るため戦ってくれたことに感謝する。このようなことにはなってしまいつらく悲しいのは皆同じだ。君の勇気と正義を、皆は決して忘れないことだろう。お悔やみ申す」
小さな棺の出棺が済み、住職が遺体を荼毘に付そうとしたその瞬間、突然棺がカタカタと小刻みに揺れ動き、ひとりでに扉が開く。次の瞬間、死に装束を着た彼女の遺体が浮かびあがり、立ち上がった彼女は生前に開花した際に放っていたものと同じ光を放つ。そして住職にこう語りかけた。
「あの男が言っていた通り、遠い未来に災厄が訪れようとしています。私の志がなくならないように、私たちのことは未来永劫、ずっと語り継いでください」
そう言い残して、彼女の遺体は文字通り天へと昇っていったのだった。
これがのちに、現代にまで伝わる「明暦の大火」の真実であり一部始終にあたるのだが、振袖小町本人や徳川家綱の願いもむなしく、時代が流れていくにつれて火事が起きた部分を除き振袖小町の活躍は創作上の物語として扱われていき、昔話として語り継がれることはあっても、史実として語り継がれることはなくなってしまった。振袖小町の亡骸と飛散していったカケラたちの行方、そして謎の男のその後を知るものは、誰もいなかった。
歴史ものに実際の歴史上の人物が出てくる、ありますよね。明日の更新からは現代に舞台が移ります!




