第壱幕の壱
華のお江戸の振袖小町、再スタートです。読んだことのある方もそうでない方も新しい気持ちで読んでみてください!
265年もの長き間、徳川将軍家によって平和に治め続けられ、後世からは「太平の世」と呼ばれているのが江戸時代であることは周知の事実だが、その中心地であり、徳川幕府のおひざ元であった江戸においてはそうではなかった時期がごくわずかではあったのだがあった。
その太平の世においての平和が崩れたのは、現代で言う「明暦の大火」、または「振袖火事」、はたまた「丸山火事」とも呼ばれる江戸の大半を焼いた火事が起こった明暦3年、西暦にして1657年のことであった。
たくさんの人々でにぎわう江戸の町は、魑魅魍魎が毎日のように跋扈し、その対応に悩まされていた。町人や武士たちはもちろんのこと、幕府の役人すらも手を焼いていた魔物たちは日々暴虐の限りを尽くす。そう、江戸の町を大混乱に陥れ、傍若無人の限りを尽くす悪がいたのである。
これまで町を包んでいた冬の寒さが和らぎ、それと入れ替わりにだんだんと春の日差しの暖かさが巡ってきている今日もまた、魔物たちはどこからともなく現れ、家屋を破壊し、食べ物や酒、金目の物を次々と奪っていく。
「ふはは、こんな腐り切った世界など滅ぼしてくれる! この私が、新たに理想郷を作るのだ!!」
魔物の群れに囲まれた一人の男が叫ぶ。彼は錆びた剣を腰に差し、左手首には光を反射せず、鏡面に大きなひびの入った円型の鏡を小さな盾のように装備していた。
「そこまでです!」
そこに、首から勾玉を下げた一人の金髪碧眼の十歳ほどの少女が現れる。彼女が現れるとともに、待ってましたと言わんばかりの江戸の人々による大歓声が彼女を出迎えた。
「おおっ! 今日も来たか!」
「あの子が噂の!? 聞いてた通りの別嬪さんだねぇ!」
それとは正反対に、男は苦虫を噛み潰したような表情で彼女を罵る。
「き、貴様……! いつもいつも私の邪魔をしおって……! 今日という今日こそは消えてもらおうか!!」
「それはこっちの台詞です! ……開花!!」
少女が勾玉を空に向かって掲げてそう叫ぶと同時に、虹色の鮮やかな光に包まれる。その刹那、少女はきらびやかな着物を纏った姿に変わっていた。
「うおっ、眩しっ! ……着物が変わってる!?」
「あの着物、きれいだなぁ……」
彼女がその着物を纏うや否や、老若男女から上がっていた歓声はさらに勢いを増す。彼女こそが、魔物たちと日夜戦い江戸の町を正体不明の悪から守っている少女である。人々は彼女のことをこう呼ぶのだった。
第1話の冒頭は主人公が出てこない、よくありますよね。ここからどうなるか、ご期待ください!