第拾弐幕の拾壱
大スクープを目撃。しかし素朴な疑問も発生。
思わず大声を出してしまいそうになるイナリを、さくらが口をふさぐ。だが彼の指摘は真実で、手をつないでいる相手が一体誰なのか気になるかんなとイナリをさくらは何とか止めようとする。
そんな中、イナリはかりんの近くを見ていたらふと視界に入った不思議な光景について質問をぶつけてきた。
「ねえ、人間って食べ物や飲み物を写真だけ撮って飲まずに捨てる人もいるの?」
イナリが指した先では、一人の若い女性がベンチに座り、片手でタピオカの入ったカップを持ち、もう片方の手にはスマホを操作してカップを撮影していた。しかし、自分が買ったタピオカと、それを手にして自撮りを済ませ少しの間が空いた途端、それだけで満足したのかたった一口飲んだだけでその辺に放置して去っていったのだ。それだけでなく、先ほどかりんと美卯がクレープを食べていたベンチに座っている女性がクレープの写真だけを撮影して一口も食べずに近くのごみ箱に捨てていたのだ。
「ああ……悲しいことなんだけどごく一部にいるんだ」
「あたし……ああいう子無理」
女性に嫌悪感を示していたかんなは、その理由を説明する。
彼女は良家の子女として、食べ物は調理する以前にも収穫した人や加工した人といったたくさんの人の労力、それに動植物の命があって成り立っているから残さず食べるよう小さいころから言われていたからだと語る。彼女の考え方に、さくらとイナリは全面同意し首を縦に振って共感していた。さすがにアイリス作の料理に似て非なるものについては擁護できなかったようだが……。
「だから出されたものは人間が食べることができるなら残さず食べる主義なんだよね……ってさく!?」
気が付くとさくらは若い女性の方に足を向け、ベンチから遠ざかっていく彼女に声をかけていた。
「すいません、あなたタピオカ飲まずに放置しましたよね?」
「それが何? あんたには関係ないでしょ?」
いきなり喧嘩腰で迫るさくらに唖然とするかんなと、カバンの中で息をひそめつつ火種を撒いてしまったことを焦るイナリ。
「もったいないと思わないんですか? お店の人の気持ちを考えてください!」
正論ではあるが冷静さを失い完全にインファイトのストロングスタイルで意見をぶつけるさくらに、かんなは止めに入る隙を窺うがなかなか入れずおろおろする。
「お金出して買ったのはあたしなんだから、あたしがどうしようが自由でしょ? それに毎度毎度全部飲んでたらカロリーがどれだけになると思ってるの?」
「だったら撮りたい食べ物や飲み物を買った人にお願いして撮らせてもらえばいいんじゃないですか?」
さくらの反論はごもっともであると感じるかんなとイナリだが、完全に売り言葉に買い言葉になってしまっていてこれ以上の口論は間違いなく危険だと判断したかんなが止めに入ろうとする。だが、二人の周りには騒ぎを聞きつけたギャラリーができており、かんなはその波に呑まれていってしまった。
行列に並んでいたかりんは後方が何やら騒がしいと感じ気になっていたが、自分たちの番が次になったため抜けるわけにもいかず後ろ髪を引かれていた。
「どうしたの? かりんちゃん、もう次だよ?」
「なんか騒がしいのが気になっちゃって」
「……かりんちゃん、優しいんだね」
ラパンとしての顔をのぞかせた美卯はその優しさが命取りになるとかりんに警鐘を鳴らしていたが、当のかりんは誉め言葉として受け取っていた。
「(はっ……私……何言って……)」
上杉謙信でもないのになぜ自分の獲物に情けをかけるような発言をしてしまったのか混乱する美卯。そんな中、自分たちが注文する番になりかりんに手を引っ張られ列を進んだ。
女性たちに引っ張りだこのティーガーを、空中からプチッツァが発見する。彼の本当の姿を知ってしまったら戦慄すること間違いなしだろうと彼女が感じていたのもつかの間、突然彼は女性たちのため息を背にして走り出したのだ。彼が向かっている方向にプチッツァが顔を向けると、そこではさくらと女性がたくさんの人々に囲まれていたのだ。
「(さくらの匂いがする……! こっちだ……!!)」
行動に至った理由は理解できたが、彼の場合はそれが歪みに歪み切っているため頭を抱えるしかできなかった。
「愛ってほんと怖い……。あ、来た来た」
口論が繰り広げられる場に、人波を力ずくでかき分けてハンジールが現れる。
「お、キャットファイトか? だが戦いに男も女も関係ないよな?」
彼の手には新型の素体があった。
「えーっと、確か……負の感情よ、その姿を顕現せよ! はっ!!」
ハンジールは力強く素体を投げ、タピオカを飲まずに捨てた女をタピオカのカップのネガボットへと変える。カップになっている胴体の中では、女がミルクティー漬けにされている状態になっていた。
タピオカ1杯でカップ麺1つくらいのカロリーになるから飲むときは計画的に。撮るためだけに買うなんて論外だぜ。




