第拾弐幕の拾
邪魔者が消えた後は友情を深める時間。
「お待たせ。大丈夫?」
「うん。あの二人は?」
「私と一緒にいたからおまわりさんに職務質問されちゃった」
男二人が年端も行かない女の子を連れていたら警察に事案だと思われても仕方がない。かりんはそう感じて小さく笑う。いつもの元気を取り戻した彼女は再び繁華街を歩きだす。
しばらく歩くと、美卯がある店を見つける。その店の前には、ずらっと長蛇の列ができていた。
「あったあった! ねえ、ここでタピろうよ!」
その店は先日花ヶ咲にできる予定だったのが白紙になった店とは違うチェーンのタピオカの店だが、SNS映えが半端ないと実際のSNSでの投稿と口コミで爆発的に人気を得て、今やこの近辺では一番人気といえる店でもあった。
美卯は実際の投稿をかりんに見せる。普段はこういった「映え」には縁のない日々を過ごすかりんであったがおいしそうな雰囲気を醸し出している写真のドリンクに行列に並ぶことを快諾。
純粋にタピオカに興味があったことももちろん、各種イベントでいつもコスプレを披露している彼女にとって、行列はその段階に至るまでに必ず立ちはだかる「入場」という壁で現れているため慣れっこなうえに毎年夏と冬に行われる世界最大規模のイベントのそれに比べたらこのくらいのものはなんてことはないレベルだった。
さっそく最後尾に並ぶ二人。はぐれないようにかりんは美卯と手をつなぐが、ただつないでいるのではなく恋人の如く互いの指を絡めているのである。同性であるとはいえ相手は大ファンである因幡卯月、ドキドキしないはずがなかった。
一方美卯はラパンとしての顔を見せ、自力ではできない振袖小町、ひいてはすぐ隣にいる相手の抹殺のための援軍を今か今かと待ち構えていた。
「(バレてないみたい……あ、プチッツァ)」
彼女が空を見上げると、大きく翼を広げたプチッツァが滞空していた。すかさずアイコンタクトをするが、彼女は首を横に振った。ネガボットの素体は今回の作戦をメインで行うハンジールが持っており、彼の到着なしには作戦が始められないのだ。
「(今日の奴、使えない)」
「今日は確かハンジールの番だったはずだけど、あいつ何してんだか……。それに、ティーガーもいなくなっちゃうし……」
苛立ちをぶつけられていた当人は、日課である腹筋と腕立て伏せとスクワットをそれぞれ1000回ずつ行い、プロテインを流し込んで汗を拭き、少女たちから呆れられているなどとは微塵も思っていない満足した表情で出発するところだった。
そこに、ある人物が声をかけ、ハンジールはうっすら焦燥しながら出発した。
はぐれた相手は、眉目秀麗なその姿で自分と同じ年代及びそこから少し上の世代の異性に囲まれていた。
「ねえねえ、一緒にプリ撮りませんか!?」
「ツーショお願いします!」
「喜んで! ……皆さん押さないで! 順番ですよ!」
黄色い声を引っ提げて次々にやってくる女性たちを無下にはできず、さわやかな笑顔で順番に対応するティーガー。もちろんこれはネガボットになれそうな人間を探すための演技なのは言うまでもないのだが。
「(……チッ、俺はさくら以外の女には興味ないんだがな……)」
一緒に写真を撮ってもらった若い女性は笑顔でティーガーに手を振り去っていく。想い人が目と鼻の先にいることを知らないティーガーは、その背に向けて社交辞令の笑顔で手を振り、次の女性の対応に追われていた。
列に並ぶかりんと美卯は、アイドルとファンという関係を忘れガールズトークにいそしんでいた。他愛もない会話に花を咲かせる彼女たちは昔からの親友のようだった。
「ほんと、かりんちゃんといると退屈しないよ」
「私も美卯ちゃんと一緒にいるのすっごく楽しい! 美卯ちゃんがよければ、これからも友達でいようね!」
満面の笑みを浮かべるかりんだったが、美卯はそれに対し何とも言えない表情しかできなかった。
「あ、りんりん並んでる」
同じ店に行こうとしていたさくらたちは、かりんも目的地が同じだったことに気づく。だが、さくらのカバンから顔を出したイナリがとんでもない事実に気づく。
「……かりんが誰かと手つないでる!!」
結局女性は顔のいい男を常に求めているのであった。




