第拾弐幕の捌
謎解き、それは自分たちが依頼人になるともいえる。
若者や観光客が集まる通りを歩くかりんと美卯こと卯月。慣れない町のためどの店に行くか手をこまねいていたが、お目当ての店を見つけた卯月に手をつかまれ、走る彼女のペースに合わせられて目的地に駆け足で進んでいく。かりんは自分の腕の彼女につかまれた部分にそこはかとなく違和感を抱きはしたが、それよりも美卯の早歩きから走るに近づいていくペースについていくのに精いっぱいで考えている余裕は彼女に与えられなかった。
その頃、あおいと蓮、そしてアイリスは手分けして三嶋大河という名前に聞き覚えがないか聞いて回っていた。
あおいは伊吹神社で幹夫に、蓮は商店街に向かい駒込をはじめとする商店街の人々に、アイリスは渦中の人物である大河や渉と同じ小学校を卒業した公英に聞き込みに行っていたが、幹夫を除き渉と同じ回答が返ってきた。あおいは彼から聞いた答えに嫌な予感を覚える。
前にさくらがトラックに轢かれそうになったイナリを助けた大きな交差点で、あおいと蓮が車道をはさみ再会する。横断歩道で信号が変わるのを待っている蓮の近くには、ボールを持った一人の小学生になりたてくらいの年と推測できる少年が立っていた。
信号が青に変わり、あおいがいる側の歩道に向かって蓮が横断歩道を進もうとしたその時だった。
若い女が運転している乗用車がブレーキもかけずに信号を無視して猛スピードで走ってきたのだ。蓮はすぐに歩道に戻ったが、少年は持っていたボールを落としてしまいそれを拾いに行ってしまった。
「危ない!」
考えるよりも先に体が動いた蓮は少年を助けるためもう一度横断歩道を駆けていく。このときだった。自らの身の危険を顧みずに走る蓮と、固唾をのみ思わず目をつぶったあおいは、過去にも似たような出来事が自分たちのすぐ近くで発生したという記憶の扉の鍵が開いたのである。
車にはねられたボールは大きく弾み、あおいがキャッチする。走り去っていく車の後ろ姿が見えなくなると、横断歩道の上では体勢を崩しつつも蓮は間一髪少年を抱きかかえて傷一つなく救出していた。立ち上がった二人はそのままあおいの近くまで歩いてきた。
「大丈夫か? 危ないから横断歩道は気を付けて渡るんだぞ」
突然降りかかった恐怖に涙目になっていた少年は蓮に額をつつかれると、小さな声で返事した。
「ありがとう、お兄ちゃん!」
涙目になっていた顔はどこかへ飛んでいき、笑顔で手を振り去っていく少年に、蓮とあおいは手を振って返す。
「ねえ、蓮……こんなこと、前にもあったよね? 私の記憶が間違ってなければ……」
「ああ、確かあの時は……! そうだ……!!」
少年が去った後、二人はそれぞれの記憶を照らし合わせ、あの時彼に言われたことは嘘ではなかったことを確信する。そうしていると、アイリスから連絡が入る。
「公英くんが言ってたんだけど、やっぱり三嶋って人は……」
「こっちも思い出したことがある。神社で落ち合おう。もし先に着いたら神主さんにも話しておきたいから呼んでおいてほしい」
閉ざされていた記憶の扉が開いた。だが、これを絶対に知ってはならない人がいる。そう考えた蓮とあおいは口頭でアイリスに伝えるため伊吹神社でアイリスと待ち合わせすることにした。
閉ざされてる記憶が開く瞬間の気持ちよさってありますよね。ただ今回はそれが嫌な予感に……。




