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第六十七話 新兵器

マンガ原稿をしたり、父が亡くなったりといろいろあって更新できませんでした。これからまた毎週更新していきたいと思います。

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 ――秀彦とのデートから数日が経ち、復興が進む聖都。建物の修繕や物資の流通が戻るにつれ、逆に街から活気が失われていくのは、この聖都が未だ歪なものを抱えているのを感じさせる。それでも以前に比べると多少締め付けが緩くなったように感じるのは気のせいではないと思う。


 結局この数日、僕は秀彦にできる限りのアプローチをしてみたけど、秀彦は眉一つ動かしてはくれなかった。やっぱり男友達に迫られてもそう言う気持ちにはなかなかなってくれないのは仕方ないのかもしれない。


 あまりしつこく迫ってドン引きされて嫌われちゃったら元も子もないから、しばらくの間はあまりベタベタしないようにしよう。

 ……我ながらなんでここまで好きになっちゃったのか。ついこの前まで、ただの親友だったのに。この体になってから、意識は自分なのに心がまるで別人になってしまったような気がする。だけどそれが嫌ではないんだよな……



「……で、何かようですか? 先輩」


「ん~? いや、別に~。なんかアンニュイな表情の美少女が物憂げにしているにゃあって思ってね。ちなみに棗きゅんは何か私に相談したい事があるんじゃないかにゃあ~?」


 ――ここ数日の僕の悩みの一つはこれだ。どうやらあのデートをこっそり途中から見られていたらしく、あの日以来先輩は絶えずニヤニヤ笑いながら僕を見ている。どうやら秀彦に対しての僕の気持ちを知られてしまったらしく。自分を頼ってほしそうに、チラチラと見てくる姿は実に腹立たしい。


「お姉ちゃんは~、棗きゅんがどうしてもと言うなら~、何でも応援しちゃうんだけどにゃぁ~?」


「何の事を言ってるのかわかりませーん。それより僕はこの間コルテーゼさんに教わった新しいお菓子作りしてるんで邪魔をしないでください」


 僕が先輩の視線をニ日ほど無視をしたせいで、今日はアピールが露骨になっている。もはやチラチラではなく熱視線だ。でも葵先輩に任せたら何だか余計な事ばかりしそうだから絶対に頼りたくない。今もなんか右手にレースと紐の付いた布を持っているのが見えるしね。それをどうするつもりだ?


 ……穿かないぞ? 僕は。


 それにしても、あの日のデートを見られるとは思わなかった。僕とアメ爺ちゃん二人がかりでも数時間しか足止め出来ないとか、先輩は勇者じゃなくて本当は魔王なのではなかろうか? 次からはもっと入念に封印しなきゃ。心臓に杭を撃つとか……そんなことを考えながら先輩と睨み合っていると。先輩はフッと表情を緩め、優しいまなざしで僕を見つめてきた。


「でもね、棗君はどう思っているかわからないけど。私は本当に嬉しいんだよ」


「ん?」


「君が幸せに笑ってるのが、私にとっては一番嬉しい事だからね」


「……そう思うならもう少し自分の行動をなんとか自重してください」


 そう言いながら僕の対面に座ってニコニコとしている先輩は、とても綺麗で優しい雰囲気をまとっていた。こういう表情のときの先輩は僕のことを心から想ってくれているのだと感じることができる。血は繋がっていないけど、葵先輩は間違いなく僕のお姉ちゃんなのだ。


 ……頬杖をつく手にレース付きの紐つき布を握っていなければ尚良かったのだけど。


「――おう、棗、姉貴。ここに居たのか。探したぜ……ん、何作ってんだ?」


「ッ!」


 突然声をかけられて心臓が跳ね上がった。うう、勘弁してほしい、最近の僕はお前の声を聞くだけで、その、なんというか不整脈になるのだ……心臓病は怖いんだぞ。


 そんな不満を込めて睨んでいると、ノックもせずに入ってきた不届き者はズンズン僕の方へ向かってきた。近い、近いぞ!! 何のようだ!?


「ん~? 何変な顔してんだ。熱でもあるのか?」


「~~~~~~ッ!?!?」


 秀彦はそのまま僕の前にくると、突然僕の前髪を手でかき上げた。

 おで、おでこに温かいのがががが!? いきなり何をされてるんだ僕は!? 突然の秀彦の行動に僕の頭は真っ白になってしまった。


「なんだ。やっぱりお前少し熱あるじゃねえか」


「ち、ちが、これは違くて」


 熱!? あ、おでこに手を添えたのはそういう事か。


「おい姉貴、コイツ運ぶからその辺片付けておいてくれ」


「わひゃっ!?」


 突然の浮遊感のあと、目の前に秀彦の顔が広がる。待ってほしい、この体勢は所謂お姫様なあれなのではなかろうか!? 流石にこの運ばれ方は元男として断固拒否したい。


「ま、待って秀彦! 僕は大丈夫だから!」


「そんな事言ってる場合か。明日には王都に帰るのに体調崩して延期とか冗談じゃねえぞ。いいから今日は休んでろ!」


「分った。休む、休むから! だから降ろして! 僕一人で歩けるから!!」


 暴れて降りようとしても、秀彦の腕はびくともしない。それどころか変に暴れると、顔と顔が近づき過ぎて僕の心臓が破裂しそうなほどに脈を打つ。ああ、ダメだ。どうする事もできない。いつも先輩のセクハラに対しては助けてくれるマウス君も、何故か今回は何もしてくれない。多分秀彦には変な下心とかが無いからなんだろう。実際にはいつも以上のピンチなのに!



 ――結局僕は何の抵抗もできずにベッドまで運ばれてしまった。せっかくお菓子を作って食べてもらおうと思っていたのに台無しだ。いくらなんでも過保護な対応に文句を言ってやろうかと思ったけど、僕の事を心配してくれた秀彦の顔を見たら何も言えなくなってしまった。



 ――ずるい、そんなに心配そうな顔するなよ。



「大げさだよこんなの」


「熱出てるんだ、大げさな事あるかよ」


「あー、いや、この熱は違……」


 なんとか誤解を解こうとしたけど、あれよあれよとベッドの上に降ろされて、上から布団をかけられてしまった。


「いいから。お前最近頑張りすぎだ。大人しく休んでおけ!」


「は、はいぃ……」


 別に体調を崩してるわけではないのに布団に横になるのは変な気分だけど、秀彦がそばにいてくれるならこういうのも悪くない気がする。そうだな、看病にかこつけて一日甘えてみるのもいいかもしれない。


「でへへ……」


 いけない、ちょっと妄想しただけで頬が緩んでしまう。……だけど、そんな僕の気持ちとは裏腹に秀彦は立ち上がる。え、看病してくれるのではないのか?


「んじゃ、俺は行くぞ。大人しく寝てろよ。つってもお前、目を離すとすぐ無茶しそうだな……お、そうだ良い物があったわ!」


「……ん?」


 なにかを閃いた顔をしたゴリラが突然腰に履いていた剣を抜き放つ。おい、その剣、戦闘中にも抜いたの見たことがないような気がするんだが、なんで今この場で抜いた? なんか猛烈に嫌な予感がする。そう言えばコイツはあの武原の血族だった!


「まだ実践では使い熟せてないんだが、病人相手ならいけるだろ」


「行けるってお前、まさかと思うけどその剣で何をするつもりだ?」


「この苔生す巌ルーベス・ブリュオピュタって剣にはいくつか能力があるんだが、基本的にはこう使うんだ。縛れ苔生す巌!」


 質問に対して剣で答える秀彦。僕は嫌な予感に突き動かされ、即座にベッドから飛びおきて脱出を図った! ……が、駄目っっ!!


「んぎっ!?」


 秀彦が剣を振ると緑色の蔦のようなものが僕の全身に絡みついた。そのまま僕を捉えた蔦が、ベッドの中へと僕を引き戻していく。あまりの恐怖に声も出ない。しかしこの蔦、ベッドに引き戻す力は強いけど、案外僕を縛る蔦は柔らかく優しい。僕に危害を加えるたぐいのものではないらしい。けど、全身の自由が奪われて目と口も塞がれているんけどね!?


「もごー!!」


「暴れるな、暴れるな。別に害は無えからよ」


「もごごー(この状況がすでに害だ!)」


 口を塞がれているせいで法術も使えない。奇跡の行使が出来ない以上、僕の力ではこの蔦はとても千切れそうもない。なんか妙に肌触りが良くて程よく温かいのが心地よく、それが逆に恐ろしい。くそう、無駄に気持ちいいな、この拘束!!


「苔生す巌”安眠モード”だ。本来は敵の行動阻害の術なんだけどな。使い方次第ではこういう事もできる。今回は肌触りと柔らかさを強くイメージした上、蔦から排出される酸素濃度を高めて睡眠を助けるすぐれものだ。騎士団との練習の後にみんなで色々試して生まれた産物だ。効果は騎士団のお墨付きだぞ。数時間で勝手に解けるからそのまま寝とけ」


「もがーーーっ!!」


 無駄に高性能だなその剣! ていうか騎士団のみなさんも一緒になってなにをやってんだよ! 


 結局僕を蔦塗れにした秀彦(薄情者)は僕を放置してどこかに行ってしまった。そのまま怒りに震えながら眠ってしまった。起きたらどうやって仕返しをしてやろうかとおもっていたのだけど、目を覚ましたとき、ベッドの横で僕を看病しながらうたた寝している姿を見ただけで怒りが解けてしまった……悔しい。




おそらく次回が二章最終話です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 放置プレイですね。わかります。
[良い点] …よく似た夫婦だわ…
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