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【連載版】俺、また馬に生まれました  作者: 猫のアミーゴ


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第20話 初めての誇り

いよいよ寒くなってきた。

エースは、G1に2回出走した。どちらもあとちょっとだったらしい。

そのせいか、顔の丸さもすっきりしてきた。

あとは冬のグランプリを残すだけだって。

マルは、平地のレースに戻った。

障害未勝利で勝ち上がった後、平地の1勝クラスに勝ったらしい。

ちょっとだけ、仲間が減ったみたいでさみしいな。


俺のレースも近づいている気配がする。

今日は、センセイがあんちゃんと一緒にきた。

「アキ、次のレース、お前に騎乗を頼む」

あんちゃんの顔が輝いた。

「いいんですか!!オレ……オレで」

「馬主さんから、ずっと一緒に頑張ってくれている子に頼む、だそうだ」

センセイは、あんちゃんを優しい目で見つめた。

「スーやん!!G1目指すよ」

お、もしかして俺の次走はG1なのかぁ。

カイザーの時は、何も感じなかったのに、俺はそわそわした気持ちになった。

あんちゃん!!調教行こう!

俺はあんちゃんの袖を引っ張った。



俺は、今日、スーやんとしてG1の舞台に立った。

パドックを回る馬は、どの馬も強そうに大きく見えた。

脚が震えた。

「スーやん、大丈夫だよ」

おっさんが俺の頭を撫でた。

おっさんは、俺が勝っても負けても、そばにいた。

俺らしく走る。

それだけだ。

俺は顔を上げて、歩き出した。

脚の震えは、もうない。

パドックが終わると、あんちゃんが駆け寄ってきた。

あんちゃんの表情が固い。

俺がしっかりしなくちゃ。

だけど、頼りにしてるよ。あんちゃん。



そろそろ本馬場に入る。

派手な音楽とともに、読み上げが始まった。

「さあ、お待たせいたしました――

中山競馬場、冬の名物詩。障害の最高峰、中山大障害(J・G1)、本馬場入場です。

高さ1.6メートルの大竹柵、そして大生垣が今年も人馬の行く手を阻みます。

待ち受ける数々の難関を乗り越え、王座に就くのはどの馬か。

今、勇敢なるジャンパーたちがターフへと姿を現します!


それでは、出走馬をご紹介します。」


「1枠1番、グランドヴァリアント!

その力強い走りは、周囲を圧倒する。春の王者が2冠を手にするためにやってきた!」


「2枠2番、ジャンピングアロー!

飛び出す姿は弓矢のごとく。昨年は2着に敗れた悔しさをバネに逆襲なるか!」


「3枠3番、グレートバリケード!

壊した障害は数知れず、突き進むパワーは最強クラス。マッスル・オブ・マッスル!」


「4枠4番、ディープトラバーサー!

虎視眈々と牙を研ぐ。大歓声を悲鳴に変えるか!」


「5枠5番、スカイハードル!

高いジャンプは芸術的!大障害もなんのその!この舞台を待っていたぞ!」


「6枠6番、スイートポテト!

新馬戦から共に歩んだ、藤井騎手を背に。勝利の涙を、笑いに変えられるか?」

おっ、俺かな。

あんちゃんのことばっかりだね。


「7枠7番、キングスフォートレス!

昨年の王者、春の借りは今日返す!!今決戦の地へ!」


「7枠8番、エンドレスステップ!

連続ジャンプは、まさに踊っているかのよう。今日も魅せてくれます!」


「8枠9番、アークライトニング!

障害界のスピードスター。まさに稲妻。ゴールを切り裂くか?」


「8枠10番、バウンダリースター!

俺は帰ってきた!!長き休養から目覚めた獅子は牙を剥く!!」



「全頭、無事に、そして激しく。拍手と歓声に包まれながら、

10頭の精鋭たちが決戦の舞台へと歩みを進めます!」

俺はアナウンスを聞きながら、『全人馬共に無事に飛越』を目指す。

ボーイの顔を思い浮かべ、俺は走り出した。



ゲートに収まり、静かにその時を待つ。

ガシャン!!

俺は、飛び出す。

前日の下見で、コースが複雑で距離が長いことがわかっている。

俺は、逃げるつもりだ。

できるなら大逃げをうつ!!

最初から全力で飛ばしていく。

直線の3つの障害を飛び越える。

フォームを崩さずに次の一歩に備えたジャンプだ。

放牧中のトレーニングで、俺の前肢は着地の衝撃をものともしないほど、強くなった。

ここにタナカさん仕込みのフォームが合わされば、俺は後ろを突き放していく。

そして、そびえたつ大竹柵おおたけがき、こわくない。

コースの順番を覚えるのは、あんちゃんに任すよ。

間違えないでね。信じるから。

俺、覚えてないからね。

コーナーを回り、スタンド前を通る。

大歓声、どよめき、怒号、地響きのように押しかけてくる。

水濠すいごう障害と生垣いけがきを飛ぶ。

今、俺はカイザーと同じようにG1の舞台で一人旅をやっている――。

だけど、あの時は必死ではなかった。

もっともっと、ひとりで走っているかのごとく、蹄音が聞こえないぐらい突き放さなきゃ――。

最大の難所、大生垣おおいけがきに向かう。

高く、遠く飛ぶんだ!!

あんちゃんの指示でコースを逆回りに走っていく。

迷わないよ。

きっとこのあたりから、みんなスピードを上げてくるはず。

俺は、最後まで絶対、スピードをゆるめない。絶対。

竹柵を飛ぶ。これは最初から生えていた奴だ。

そろそろ最後の障害だ。まだ蹄音は遠い。

でもきっと、縮まっている。

生垣を飛ぶ。

芝の直線に入る。蹄音が少しずつ、大きくなっていく。

最後は上り坂だ!!さすがにきつい。

でもゆるめない。スタミナはまだ尽きてない。

後ろの蹄音の速度がゆるんだ!

あんちゃんが、ストップの合図を出した?

気づけば、俺はゴール板を駆け抜けていた。



あんちゃんは、俺の背中でガッツポーズをしていた。

「すうううやん、すうううやん」

だから、俺の名前は『すうううやん』じゃないって。

「藤井!ウイニングランしなきゃ!!」

近くにいた騎手が、あんちゃんに叫ぶ。

ああ、そっか。一周しなきゃいけないのか。

あんちゃん、泣いてる場合じゃないよ。

トコトコとスタンドの方に向かって歩く。

あんちゃん、前見えてる?

「すううやーん!!」

「藤井--!!」

声援が飛んでくる。拍手もやまない。

俺とあんちゃんのファンだ!!

でも、あんちゃんのせいで、俺『すうううやん』になってるじゃん。

「馬券散ったぞ―ー!!」

ご愁傷様です。



あんちゃんは、泣きながら俺から降りた。

俺はおっちゃんの元へ。

汗を拭かれ、肩掛けをかけられる。

カイザーの時も合わせて、初めて誇らしいと思った。

おっさん、センセイ、あんちゃん、写真撮るときいつも一緒にくる家族連れ。

みんな笑顔だ。

俺もうれしい。



検量室けんりょうしつ前で、おっさんがリンゴ飴をくれた。

おっさんの目にも、涙が浮かんでいた。

おっさんだけじゃなく、今日は色んな人がおやつをくれる。

いいの?いいの?

このおやつラッシュは、馬房に帰ってまで続いた。

馬房でのまどろみの中。

エースはいつもこんな感じだったのかなぁ。

そりゃ、丸くなるなと思った。

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