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29話 キースの作戦

 ロミンダはキースの体を離すと、嬉し涙を拭いて、キースの言葉を待っている。



「獣人の隠れ里へ行ってきた。ワイバーンの攻撃を受けて崩壊寸前だった」


「ワイバーンといえばBランク魔獣じゃないですか。キースさん達も倒したのですか」


「ああ……成り行き上、仕方なく交戦をして倒した。」


「それはすごいですね……」



 ロミンダは感心したように頷いている。

冒険者達もキースの話に聞き入っている。



「問題はワイバーンじゃなかったんだ。誰かが魔巣窟の森にある火山の火口の火竜の巣から、火竜の卵を盗んだことが原因で、獣人の隠れ里が攻撃を受けていたんだ」


「だれがそんな危険なことを……火竜といえばSランク魔獣ですよ。そんな魔獣の卵を盗むなんて、正気の沙汰とは思えません」


「今、火竜の卵は盗まれて、デリントンの街へ持ち込まれている可能性が高い。このままだと火竜の攻撃目標がデリントンの街になる可能性がある」



 キースの言葉を聞いて、冒険者達が慌てだす。

Sランク魔獣と敵対したなら、生き残れる保証はどこにもない。



「デリントンの街に卵があるという話に証拠はあるんですか?」


「証拠はないが、ワイバーン達が卵を盗んだ者達を監視していたようだ。そして、その時期に『シュトラウス』の幹部達が獣人の隠れ里を訪れている」


「犯人は『シュトラウス』の幹部達の可能性が高い。幹部達は全てAランク冒険者だ。それぐらいの無謀なことはやるかもしれない」


「それでも証拠がなければ、冒険者ギルドとしては強制捜索することはできませんよ」



 冒険者ギルドは互助会組織だ。証拠があるのなら強制捜索する権限も持っている。

しかし、まだ『シュトラウス』の幹部達が卵を盗んだという証拠をキースは持っていない。



「そこは俺が何とかする。冒険者ギルドの力を借りたいというわけじゃない」


「キースさん達だけで『シュトラウス』の本部へ乗り込むというのですか? その方が無謀です」


「無謀な乗り込み方はしない。そんなことをしても幹部は会ってもくれないだろうからな」



 その言葉を聞いて、ロミンダは安堵の息を吐く。

キースも正面から『シュトラウス』にぶつかろうとは思っていない。



「俺達が乗り込んでいる間、客人のマルガを冒険者ギルドで預かっていてほしいんだ。できるだけ丁重に扱ってくれると助かる」



 冒険者達とロミンダがマルガを見る。

そしてマルガの美貌に見惚れている。

マルガは絶世の美女だから見惚れるのは仕方がない。


 キースはロミンダの耳元に口を寄せて小声で呟く。



「マルガは人化した赤竜だ。扱いを間違えるとデリントンの街が火の海になるぞ」



 それを聞いたロミンダが飛びあがる。そして顔色を青くする。

こんなことを誰にも話すことはできない。



「我はマルガ。故あってキース達と同行した。デリントンの街は初めて故、面倒をかける」


「いえ、マルガさんのことは冒険者ギルドが全力でお守りいたしますので、ご安心ください」


「じゃあ、マルガは冒険者ギルドで待っていてくれ。俺達は宿で休んだ後に『シュトラウス』の本部へ行こうと思う」


「我は行ってはいかんのか?」



 マルガが『シュトラウス』の本部へ行って、卵を見つけた時、その怒りのせいで人化の法が解除される恐れがある。キースとしてはなるべくマルガの正体を隠しておきたい。



「マルガは冒険者ギルドで待っていること。俺達を信じて待っていてくれ」


「キースがそういうのであれば、しばしの間、キースに任せておこう」


「それではロミンダ、マルガのことを頼む。俺達は宿へ行って色々と準備する必要があるから」


「わかりました。あまり無茶しないようにしてくださいね」



 キース達は冒険者ギルドを出て宿に戻った。

宿屋の主人は、無事に戻ってきたキース達の姿を見て喜んだ。

そして全員、キースの部屋へ集まる。



「キース、冒険者ギルドではああ言っていたけど、本気でどうやって『シュトラウス』の本部へ入るの?」


「『シュトラウス』の構成員の冒険者達の数だけで四十人は超えているよ」


「スーラの言う通りだ。正面突破は難しいと思う。だから夜になってから忍び込む」



 アルナの精霊魔法の飛翔と、双子の跳躍力があらば『シュトラウス』の邸の壁は乗り越えられるはずだ。壁さえ乗り越えれば、後は警護の冒険者達の目を欺いて邸の中へ入るだけだ。


 『シュトラウス』ほどの大派閥ギルドになると、全員が全員、顔見知りということはない。

うまく挨拶さえ交わしておけば、幹部会議室まで行くことも可能だとキースは考えている。



「そんなに上手くいくかしら? 人は魔獣よりも警戒心が強い者よ」



 アルナが心配そうに声をあげる。



「そうなったら、そうなったで、一暴れすれば、幹部連中もでてくるだろう」


「キース、考えてるようで、全然考えてないじゃん」


「なるべく穏便にとは思っているが、見つかってしまっては仕方ないだろう」



 開き直りともとれるキースの発言に仲間達は開いた口が塞がらない。



「どちらにしても『シュトラウス』の本部へ入らないと卵を探索することもできない」


「それもそうね。もし交戦になっても仕方ないか」


「本当なら冒険者同士の喧嘩はご法度だから、人は殺すなよ」



 双子、アルナ、リタの四人はキースの言葉に頷く。



「それじゃあ、真夜中になるまで休憩だ。 真夜中になってから突入する」


「じゃあ、それまでの間に夕食を食べに行こうよ。私、お腹空いてるんだよね」



 スーラの言葉に他の三人も大きく頷く。

そういえばデリントンの街に着いてから夕食を食べていなかった。



「それじゃあ、夕食を食べに行くか」



 五人は夕食を食べるために宿を出て、デリントンの街へと繰り出した。

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