10話 エルフの秘術
アルナがキース達のパーティの仲間になった。
そのことによって、キース達の生活にも変化が訪れた。
アルナもスーラやウーラのように金銭を持っていなかった。
オークとオーガを倒したおかげで、少し金銭に余裕もできてきた。
貯金していたお金をスーラとウーラの2人と山分けする。
そして、宿屋でもう一部屋借りて、男女に分かれて部屋を借りることになった。
本当なら種族の違う獣人とエルフが同じ部屋でということで問題が起きるかと思ったが、
双子とアルナは仲が良いので、そういう騒動は起きなかった。
キースの部屋が銀貨30枚、女子部屋が金貨1枚に宿屋の主人が安くしてくれた。
これでキースは一人部屋となり、静かな部屋の暮らしが戻ってきたと思った。
「キース、一人になったからって、いつまで寝ているの。早く朝の特訓に行くわよ」
「1人になって、怠け癖がついてはいけません。早く朝の特訓へ行きましょう」
朝になるとスーラとウーラがうるさく起こしにくる。
結局、朝の忙しさは変わらない。
そんな様子をアルナは見て楽しそうに微笑んでいる。
宿屋で朝食を食べて、全員で宿屋を出て、冒険者ギルドへ寄る。
そしてロミンダからEランク魔獣討伐依頼とDランク魔獣討伐依頼を請け負う。
冒険者ギルドを出てデリントンの街の壁門へ行くと、いつもの警備兵が見送ってくれる。
西の森の近くにある草原で、スーラとウーラを相手にキースは特訓を行う。
やはりキース一人と双子二人との組手では、キースのほうが分が悪く、いつも倒されてしまう。
その姿を見て、アルナが少し考えているように顔を傾げる。
「キース、私と1対1で組手をしてみましょう。私は魔法を使わないわ」
アルナの提案に乗り、アルナと1対1の組手を行う。
アルナはエルフなので動きが俊敏で、攻撃が的確だ。
双子との組手で回避運動だけは上手くなったキースだが、段々とアルナに追い詰められる。
「キース、私に力の限り剣で打ち込んでみてください。私は避けないわ」
「そんなことをしていいのか? 非力だが俺も男だぞ」
「いいから、やってみてください」
アルナの言う通り、全力でアルナに打ちかかる。するとアルナは剣でキースの剣を受け止める。
何度、挑戦しても、キースの剣を軽くアルナは剣で受け止める。
身体的にアルナのほうが軽量なのに、キースは剣を押し込むことができない。
「なぜだ? アルナのほうが軽量なのに、全ての剣をアルナに受け止められてしまう」
「それは私が魔力を利用しているからだわ。エルフに伝わる秘術よ。教えてあげましょうか?」
エルフの秘術という言葉にキースは惹かれる。
その秘術をつかえば、キースも強くなれるかもしれない。
「私達エルフは森の民族。だから基本的に力は非力よ。でも秘術を使えば強くなることができる」
「その方法を俺に教えてくれるというのか?」
「いいわ。エルフの中では秘密ではないんだし。キースぐらい魔力があればできるでしょう」
そういうとアルナは剣を鞘に戻して、キースに近付いてくる。
そしてキースの肩に手を置いて、キースを草原に座らせる。
「この秘術は魔力を体中に循環させることで、魔力で肉体強化させる術なの」
「魔力を体内で循環させることで、肉体を強化させる?」
「キースは気づいていないかもしれないけど、キースの魔力量は多いほうよ。だから大丈夫。私がキースの背中に手を置いて、魔力を流すから、その流れを覚えて」
そう言ってアルナはキースの背中に回って、手の平をキースの背に当てる。
すると背中が温かくなり、温かくなった部分から体内に魔力が流れ込んでくるのがわかる。
血管に血が流れているように、魔力が体中を流れていくことがわかる。
「この感覚を覚えてね。そして戦っている時は常に、体に魔力が循環している状態にするの」
「なるほど、アルナが補助してくれているおかげで、感覚が掴みやすい」
キースは自分の中で流れている魔力の流れを丁寧に把握していく。そして自分の魔力を使って、体内に魔力を循環させる。すると体が凄く熱くなってくるのを感じる。
「魔力が循環し始めたら、体全身が熱く感じられ始めるわ。それを維持するの」
「体が熱くなってきた。これを維持すればいいんだな。わかった」
体内の魔力を循環させていくうちに、体中に魔力が広がっていくことが感覚でわかる。体が力強くなり、体が軽い。
アルナはキースが魔力の操作を覚えたことを確かめると、手の平を背中から外した。
「今度は私が全力で剣で打ち込むわ。それを受け止めてみて」
「ああ……わかった。今なら受け止められそうな気がする」
アルナは剣を抜いて、全力でキースに打ち込む。それを回避せずに、キースは剣で受け止める。
アルナの剣を受け止めても、まだ力に余裕がある。簡単にアルナの剣を弾いてみせる。
「では、私も肉体強化して、剣で本気で打ち込むわよ。絶対に受け止めてね」
そう言って、アルナはキースに剣を全力で振り下ろす。先ほどより強い衝撃がキースを襲う。
しかし、キースはアルナの剣を受け止めることができた。
「これがエルフの秘術、『肉体強化』よ。これでキースも普通の冒険者よりも強くなったわ」
それを聞いていたスーラとウーラの双子が笑顔でキースに向ってシミッターを抜く。
先ほどからキースと組手をしたくてウズウズしていたらしい。
「いくわよ、キース」
「キース、いきます」
双子はキースに向かって四本のシミッターで襲いかかる。キースは素早い動きで双子のシミッターを受け止め、受け流して、まだ余裕がある。
それを見た双子が段々と本気になっていく。
「まだまだ」
「これからが本気です」
キースは自分の体の軽さと、体の頑強さを感じる。今までにない感覚だ。
双子達と組手をしながら、『肉体強化』を体に染み込ませる。
いつもなら双子達の体術で倒されてしまう所だが、今のキースは余裕で対処できる。そして双子を押し返す。
自分でも肉体が強化されていることがわかる。
敏捷性、膂力、強靭さ、肉体のどれもが強化されている。
とうとう双子と対等に組手をすることができるようになった。
「キース、すごい。私達よりも強くなってる」
「これならオーガとも戦えますね」
アルナがキースの動きを満足そうに見て微笑んでいる。
アルナのおかげで、キースはエルフの秘術、『肉体強化』を手に入れることができた。
今まで自分のことを非力だと諦めていたキースの心の中に自信が芽生え始めた瞬間だった。




