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「社員を護るのは社長の役目だよな?社長さんよ、素直に金目のもの置いてきな、その女がどう……へぶしっ」
は?
一瞬のことで、事態を把握するのに時間がかかる。
社長が回し蹴りを華麗に決める。顔を蹴られた男が、後ろに吹っ飛びどこかの店の青いごみバケツに突っ込んだ。
鼻血を流していててと頭に手を当てる男。
「あ、しまった、えっと、まりに、正当防衛はいいけど過剰防衛はダメだって言われてたんだ。えっと、どうしよう、これ、正当防衛?過剰防衛?
」
「いてぇな、畜生、許さねぇぞ……」
男が立ち上がる。
「立ち上がれるようですし、ふらついてないみたいですし、意識もはっきりしてるようですから……大丈夫、正当防衛です。あー」
こちらから先に手を出したのは問題なのかな?とか思ったけれど、金品強盗犯なんだから知らないですよ。と、とにかく。
「逃げましょうっ!」
社長の手を取って大通りまで走る。
「まてっ!」
怒り狂った男が追いかけてきたけれど、大通りにでてからは、男はあきらめてくそっとものに当たり散らしていた。
「あー、びっくりしましたね」
男が追いかけてこないのを確認してほっと息を吐く。
「涼子さん、大丈夫ですか?けがは?」
社長が心配そうに私の顔を見ている。
「大丈夫ですよ。何かされる前に社長がやっつけてくれたじゃないですか」
本当、あれはびっくりだった。
「強いんですね、社長」
「あ、えっと、その、べ、別に、えと、特別強いわけじゃ、ああ、チートとかそういうのは、日本に戻ってからはえっと……」
焦って何か否定しだす社長。チートってなんだろう?
「かっこよかったです。空手とか格闘技でもやってたんですか?」
パッと高く飛び上がり、高く足を上げてくるりと素早く回って……。まるで映画を見ているようだった。
「か、かっこいい?」
社長が顔を赤くした。
え?
あれ?
「あ、いや、あの……」
思わず思ったことを口にしちゃったけど。だって、本当にかっこよくて……。べ、別に10人がいたら10人が同じ感想を持つと思うんだけど……。
で、でも、改めてそんな反応されると、なんかとんでもないことを口にしたような気になって、恥ずかしくなって視線を落とすと……。
目に飛び込んできたのは、しっかりとつながれた手。
「ひゃぁっ、す、すいません、とっさのこととはいえっ」
慌てて手を離す。社長の手を握ったままだった。
ど、ど、どうしよう。
顔が上げられない。
手をつないで恥ずかしいとか、どこの中学生か!と。
「いえ、あの、あの場合は、一緒に逃げるためには最善の策だったと思いますし、えっと……セ、セクハラとか言いませんよね?涼子さん、辞めませんよね?」
セ、セクハラ?
「大丈夫です。やめませんし、私から手を握ったので、私こそ、社長にセクハラしたと訴えられたりしませんよね?」
「す、するわけないじゃないですかっ!僕は嬉しかったし」
は?うれしい?
「あ、その、一緒に逃げてくれたのが、嬉しかった……ってことで、あああ、その、あっちではみんなを先に逃がして僕が一人残ることが多くて」
あっちでは?社長を置いてみんな逃げたってこと?
えーっと、そういうことが多いって、社長がいた国ってもしかして危険な国?なんで社長を置いてみんな逃げちゃうの?
もしかして、日本人っていうだけで、空手の達人だと思われるみたいなパターンだろうか……。




