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「あ、ちょっと待ってください。道を確かめます」
まさかまだ後をつけられているということはないでしょうが、人通りの多い道を通ったほうが安全に違いない。
……そもそも、社長は今、値段が付けられないほどの高価な宝石を持っているんだ。
って、思ったらちょっと足が震えてきた。
もっと警戒心を持たなければ。
「あそこを曲がれば目的の店です」
値段が付けられないと言われた指輪は出さないことにする。5つの指輪を鑑定してもらうと、多少の値段の違いはあるものの、1件目の店と合計すれば大差ない値段だった。と考えると、相場通りのまっとうな評価をどちらもしてくれていると考えてもよさそうだ。
「しゃ……」
社長じゃない。
「宗太さん、売ってもいいとおもうんですが」
「じゃぁ、そうしましょう」
3店舗回るつもりだったけれど、さっきのような人間に会うのも怖いし、信用できそうな店だし、1万2万の差で行ったり来たりするのも……と、いろいろ理由はある。
「まとめて売ると、多少価格はサービスしていただけるんでしょうか?」
とはいえ、一応交渉はしてみる。
「そうですね……まとめて……ですか……そうですね、では……これではいかがでしょうか」
と、少し値段が上がる。
あ、そうだ。もう一つ忘れるところだった。これも言っておいた方がいい。
「遺品はまだあるのですが、今後もお願いできますか?」
社長が見せてくれた宝石はたくさんあったので、またお金に変えないといけない。いい取引ができるお店が見つかると、今後いちいちお店を検索するところから始めなくてもいいから楽ですよね。
「ええ、ぜひ、末永くお付き合いいただければと。少々お待ちください」
店員さんが裏に入っていき、しばらくしてもう一人連れてきた。ちょっと年配の男の人だ。
「店長をしております」
あ、偉い人が出てきた。
「はぁ、よかったですね、社長。初めに提示された金額より結構高く買い取ってもらえましたね」
社長が大金の入ったリュックを背負って隣を歩く。
「おまけにリュックもつけてもらえましたね」
と、社長はリュックのほうが嬉しそうだ。
……。ポケットに無造作に値段のつけられない指輪を入れて、背中のリュックには家が買えるくらいの現金を持っているとは、誰も思わないですよねぇ。
でも、私は知っているので……。
「社長、タクシーで帰りませんか?」
電車やバスや徒歩で帰るのがちょっと怖い。
「疲れましたか?大丈夫ですか?」
社長の心配そうな目がこちらを向いた。ああ、気遣いのできる人なんだなぁ。
「大丈夫ですよ。でも……社長は平気ですか?そんな大金を持ち歩くの、緊張しませんか?さっきみたいな悪い人が」
「あ、ああそうか。そういえば大金なんだっけ……」
え?
「タクシーに乗る前に振り込み済ませていいですか?」
そういえば!
「振り込みついでに、銀行に全部預けちゃいましょう!そうすればよかったんです。あ、今度から買い取りしてもらう時に振り込みでお願いできないでしょうかね。振り込みが確認できたら宝石を渡すみたいなやり取りできないんですかね?えーっと、確かネット使えば即時に入金あったこととかわかるんですが……社長スマホじゃないですもんね?あ、でも携帯のメールで入金がありましたとかメール確認できたかなぁ。でも金額までは……うーん」
どうしたものか。
っていうか、そもそも私の悩みって、個人の行動の範囲を出てないですよね。会社ってこんなんじゃなかったはず……。っていうか、質屋に行く会社なんて聞いたことがなかったから仕方がないですよ。あ、古物商に余剰在庫売りに行くっていう会社はありましたね。
いろいろ調べて勉強しなければならないようですよ……。
「銀行で、通販の代金を振り込む。残りを預けてタクシーに乗って会社に戻った」




