24
「上げます!でも、いいんですか?価値がなくても」
「はい。逆に高級品だと落としたらどうしよう、なくしたらどうしようって心配になっちゃって使えませんし。ふふ、そういえば、婚約指輪って、女性が付けているのをあまり見ないでしょ?いつつけると思います?」
社長が突然の私の質問に、うーんと眉根を寄せて、それから、ぽんっと手を打った。
「質屋に売りに行くとき?」
「ぷっ。確かに、婚約指輪の出番ですね。給料3か月分の高い指輪って、お金がなくて困ったいざという時にという保険の意味が昔はあったって言いますし。でも、たぶん指にはめずに、ケースに入れて持ってくるんじゃないですか?」
「ああ、そうか。じゃぁ、いつ身に着けるんだろう……」
この話を聞いた時に、女って怖いなぁと思ったんだけど。社長に女の人の怖さなんて話さない方がいいかな。
「同窓会に着けていくんですって。私は結婚しましたよ、こんなに立派な指輪をもらいましたよって」
マウントを女同士で取り合う。怖い、怖い。
「へぇ、それは素敵ですね」
素敵?
「同級生に、結婚したよ、幸せだよって口に出さなくても伝わるんですねぇ。おめでとうって言葉が飛び交うんですね」
そうか。
社長なら、きっと素直におめでとうって言葉が出てくるんですよね。だから、素敵だと思うんだ。
「お待たせいたしました、こちらへどうぞ」
呼ばれて通されたのは先ほどの買い取りカウンターではなく、その奥にある部屋だった。
「まずは、こちらのお品から。10カラットのエメラルドの指輪。リングの金属はちょっと価値がありません。指輪としてではなくリングから外して裸石として売ることになるかと思います。ですので、わたくしどもで買い取れる価格はこれくらいになります」
と、電卓がはじかれる。
いちじゅうひゃくせんm……はー、すごい。でも、まぁ、買えないこともない金額ですね。
それから、ルビーとサファイアは、同じような大きさがあってもそこまで高くないんですね。
「それから、こちらになりますが……。10カラットはあるダイヤなんですが、カットがあまりよくないため少し価格が下がります」
ブリリアントカットではないですね。確かに。
って、値段が下がっても、これ?
桁が、桁が全然違いますよ……。ダイヤってすごい。家が買える値段だ。
「それから、最後にこちらのものですが……うちでは引き取れません。その、鑑定結果としては……」
と、鑑定結果は本物で、大きさからすると世界でも数が少なくいくら値段が付くか分からないということだ。
……もっと大きなのを社長は持ってましたよね?
「どうなさいますか?」
あ。
社長の顔を見る。
「えっと、あーっと、まさか本物だとは思わなくて、私たちの一存じゃ、その決められないんで家族と相談します」
と、当たり障りのない理由を述べる。
「そうですか。ご売却のということになりましたら、ぜひまたご来店ください。今回の査定価格ですが、まとめてということでしたら、もう少しご相談させていただくこともできますので」
と、強引な営業はしないものの、もっと高く買うよという言葉をにおわせの営業トークも忘れない。
「すいません、ありがとうございました」




